第181話 *またまたダメ女神*
「──パンパカパーン! 一万匹突破おめでとー! ぴゅーぴゅーイェーイ! 名実ともにゴブリン殺しだねっ!」
また、いや、またまたダメ女神かい。なんなんだよ? もう放っておいてくれよ。
「まあまあ、そう言わないの。驚天動地の偉業をお祝いしなきゃ送り込んだ者として示しがつかないじゃない」
なんのだよ? あと、驚天動地なんて今さらだわ! 工場作業員だった男がゴブリン駆除やらされてんだからよ。
「てか、オレ、吹き飛ばされたんじゃ……」
洞窟をぶっ飛ばしたと思ったらオレがふっ飛んだ記憶があるんだが?
「ええ。物の見事に吹き飛んで岩の下敷きになりそうな瞬間でしたね」
いやそれ、軽く言ってるけど死亡確定だよね? え? オレ死ぬの? ジ・エンドなの?
「いやいや、死んでない死んでない。ただ絶体絶命なだけ。まだ生きてますよ」
それがなんの慰めになる? 死ぬ五秒前なだけじゃん!
「大丈夫。運のよいことに吹き飛ばされた瞬間に一万匹突破。孝人さんを祝うために呼びました~」
それ、確実にフライングだよね? あと五秒生きたかった……。
「だから死にませんって。詳しい説明は面倒なので省きますが、一万匹突破した瞬間に孝人さんの精神も肉体も神域に入りました。なので現世に戻すときはちょこっと移動させればオールオッケーよ!」
親指立ててドヤ顔するダメ女神。
なんだろう。この昭和感は? まるで部長のようだ。
……あの人、部長だってのに軽い人だったよな……。
「それで、なにかくれんのか?」
もうさっさと終わせてくれ。
「はい。本当は五年後に祝いたかったのですが、孝人さんがあまりにも活躍してくれるので一万匹突破記念にボーナスを与えることに決定しました~。ぴゅーぴゅーやったねっ!」
なんの感慨も湧いてこない。一万匹駆除──今さらだが、請負員の成果もオレの成果となるんだな。
「もちろんですよ。請負員制を提案したのは孝人さんなんですから。その功績も結果も孝人さんのものです」
搾取になってなければいいんだがな。いや、搾取するために請負員を考えたんだけどさ。
「この世は搾取されるか搾取するかのどちらかですよ。気にしない気にしない」
それ、女神が言っちゃダメなやつ! もっと愛を振り撒けや!
「まあまあ。ボーナスなんですけど、三つの中から好きなのを選んでくださ~い」
一つ。一千万円
一つ。三十日間商品半額。
一つ。ちょこっと身体能力アップ。
「さあ、どれにします?」
なんかどれも微妙だな。もっと気前よく魔法を使えれるとかにしてくれよ。
「あ、孝人さん、魔法使えますよ」
はぁ? 使える?
「はい。この世界に転移させるとき、この世界に体を調整しましたから。って、言ってませんでしたね。ごっめーん!」
ごっめーん! じゃねーよ! そういう重要なことを忘れんなや! すっげー時間を無駄にしたじゃねーか!
「あ、でも、孝人さんの魔法属性は水だし、今の魔力では水を三リットル出せるくらい。教えてもそれほど不都合はなかったですって」
水かい! 一瞬の歓喜を返してくれ!
「水の魔石を使えば威力は増しますし、水を飲めば魔力は回復しますよ。まあ、飲みすぎるとお腹下しちゃいますけど」
なんだろう。この圧倒的な使えない感は?
「大丈夫大丈夫。魔法は使い方次第。孝人さんの発想で無限の可能性を発揮してください」
ま、まあ、確かに物は使いよう意気揚々。イマジネーションを爆発させろ、だ。
「それで、どうします?」
「四つ目のラダリオンの食べる量を減らしても大丈夫な体にして欲しい」
一割でも二割でもいい。ラダリオンの食べる量が減るなら食費が浮く。長い目で見ればこちらのほうが遥かにありがたいわ。
「……ラダリオンさんを引き込んだことに責任を感じる必要はありませんよ」
いや、そう言うわけでは……。
「あれは病気です。元々死ぬ運命だったのを孝人さんが延命させただけ。それだけでもラダリオンさんは幸運なんですよ」
病気なんだ、あれ。ってことは回復薬で治るってことか?
「まっ、そういうことですね。だから安心して三つの中から選んでくださいな」
そうか。回復薬、大活躍だな。
「じゃあ、ちょこっと身体能力を上げてくれ」
金よりも物よりもまずは強い体である。それがなければ金も物も宝の持ち腐れ。生き残れる確率が上がれば稼ぐこともできる。体が資本だ。
「わかりました。ちょこっとだけ身体能力を上げましょう。ほいっとな」
なにかしたみたいだが、なにが変わったかはわからない。本当にちょこっとなんだな。だがまあ、構わない。これからも体を鍛えることは怠らないんだからな。
努力は積み重ね。強さはその結果だ。
「がんばってください。孝人さんには期待してますので」
期待されて潰されたくないのでほどほどにしてください。
「ところで、なんであの洞窟は大爆発なんてしたんだ?」
「ゴブリンの糞尿が裂け目に溜まってガスを発生。それに引火したって感じですね」
「そうなの?」
「そうなのです」
にこやかに笑うダメ女神。なんだろう。ウソ臭く見えるのは? オレの気のせいか?
「一ノ瀬孝人さん。あなたのご活躍をお祈り申し上げます」
神がお祈りとかなんの冗談だよ。活躍させたいなら出すもん出せや。
なんて文句も言えずに意識が弾けてしまった。
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