第180話 暗転
最後の一匹は同じ場所から動いてない。
明らかに特異な個体ってのがよくわかる。これは見逃したら絶対にダメなヤツだ。
「なにかあるのか?」
「洞窟の中に逃したら不味いものがいる、とオレの勘が言っている」
「ゴブリン、なんだよな?」
「ああ。それは間違いない。死にそうでなかなか死なないヤツだ。もう直接殺すしかない」
「どうするんだ? 洞窟の入口は完全に崩れているぞ」
「掘る」
崩れたと言っても塞ぐくらい。グレネードランチャーが撃てる穴があれば充分だ。
「わたしがやるよ。下がってろ」
ジャケットのポケットからなにか石を出すと、崩れたところに放り投げた。なにすんの?
なにか言葉にならない言葉を口にすると、土が集まり出してゴーレムとなった。スゲー! こんな魔法もあるのかよ! マジファンタジー!
「ミシニーって凄い魔法使いだったんだな! ちょっと感動して涙出そう!」
火の玉を出したり魔法の矢を見てきたが、ゴーレムとかマジファンタジー! 初めて魔法に興奮したぜ!
「地味な魔法さ」
「なに言ってんだ。これが地味? スゲー魔法だろう。ゴーレムだぞ、ゴーレム! 何体出せるんだ? 五体も出せたら凄いことできるぞ!」
オレが使えるわけじゃないが、夢は広がる。これって土魔法なのか?
「灰の魔石と金の魔石があれば。今のは灰の魔石だから一体しか操れないがな」
あの小さな石で二メートルものゴーレムを操れたら立派なものだろう。
ずんぐりむっくりのゴーレムは洞窟の入口を掘っていき、一分もしないで貫通させてしまった。益々優秀だな。
「そのゴーレムって形を変えられるのか?」
「ああ。容量以上のものには変えられないがな」
ではと、洞窟の壁を支える壁となってもらった。
「まさか、こんな使い方をさせられるとはな」
「形が自由自在なら馬車にも変えられるだろう。パイオニアみたいに走らせられるんじゃないか?」
「なるほど。今度試してみよう」
おう。試せ試せ。試して成功したら大々的に売り出して一儲けしろ。そしたら道もよくなるだろうからな。
「ビシャ。防毒マスクをしろ」
そう指示を出してオレも防毒マスクを装着した。
「ミシニーは外にいろ。中には体に悪い空気に満ちてるからな」
防毒マスクの説明するのも面倒だ。今回は外で待機しててください。
「ビシャ。ゴブリンは一体だが、正体不明のゴブリンだ。油断するな」
「襲ってくるの?」
「わからん。だが、しぶといのは確かだ。火で焼いても死なないヤツだからな」
本当に生き物かと疑いたくなる。サイボーグゴブリンだとかだったら毎晩ダメ女神を呪詛ってやるからな。
「オレが先に入る。ビシャは援護してくれ」
ヘルメットとVHS−2につけたライトのスイッチを入れ、壁に沿って奥へと進んでいく。
二十メートルほど進むと、空間が広がり、その奥に……水の玉があった。はぁ? 水の玉?!
「タカト!」
ビシャの叫びとともにリュックサックをつかまれて引っ張られた──と、今までいたところに鋭いなにかが刺さっていた。
……こ、攻撃された……?
「さ、下がるぞ!」
すぐに立ち上がって外に向かった。
「どうしたんだ!?」
「わ、わからん! なにかに水玉みたいなのに攻撃された!」
なんだあれ? なにが起こった? 完全にゴブリンの姿じゃなかったし、ゴブリンの攻撃じゃなかった。なのに、ゴブリンの気配は感じるとか意味わかんねーよ!
「水玉? スライムか?」
この世界、スライムもいんのかよ! いきなり攻撃してくるとか完全に悪いスライムじゃねーか!
「ううん。スライムじゃなかった。水玉の中にメスのゴブリンがいたから」
と、ビシャ。あの刹那のような時間でそこまで見えたのかよ。獣人の視力、どんだけだよ?
「あれがなんなのかよくわからんが、水玉が攻撃してきたことは確かだ」
咄嗟のことだったが岩を砕くくらいの威力はあった。あれでは盾を構えて入っても危険だろう。
「ミシニー。あのゴーレム、操って洞窟の中に向かわせられるか?」
「可能だが、見えないと正確には操れないぞ」
視認操作かよ。まあ、今の時代の発想ではそれが限界か。
「それは構わない。洞窟の道はまっすぐだからな。それより、あのゴーレムに使った魔石は高価なものなのか?」
「そう希少ではないな。蟲から取れるものだからな。あの大きさなら銀貨一枚ってところだ」
一万円か。まあまあ高価だな。使い方によってはお安いかもしれんがな。
「じゃあ、銀貨二枚で売ってくれ」
「いらないよ。タカトがどう使うか見てみたいしな」
と言うので遠慮なく受け取り、リヤカーを牽ける形にしてもらった。
二十キロのガスボンベを三本買ってきてリヤカーに載せ、ガソリンが入ったポリタンクをゴーレムに背負わせる。
弱点が魔石なので、胸の辺りに鉄板を嵌め込んで魔石を壊されないようにする。
「ゴーレム。いけ」
と言う簡単な命令でゴーレムが歩き出した。ほんと、関節部、どうなってんだろうな?
洞窟に入ったらガスボンベの詮を開け、ポリタンクの底にナイフを突き刺した。
中へと入っていくゴーレム。しばらくして攻撃されている音がしてくるが、一瞬で破壊されてはいない。ガツンガキンと何度も打つ音がした。
「壊されたな」
鉄板を壊すとか、どんな構造してんだよ。流体金属ボディーか?
だが、動かなくなれば攻撃の手(?)は止んだ。あの水玉は動くものに反応して、その場から動けないようだ。
約一時間。洞窟内にガスが充満したら導火線(ガソリン)に火をつけた──らダッシュで逃げ──る暇なく洞窟が、いや、オレが吹き飛ばされた。
──ガ、ガス爆発ってこんな威力なのっ?!
頭の中で叫ぶもすぐに意識が暗転してしまった。
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