第298話 新たな洞窟

 パイオニアの往復により道は均されたが、泥の跳ね返りが凄い。マイセンズの砦に着いた頃には全身泥まみれになってしまったよ。


「ビシャも風呂で洗ってこい」


 横を走っていたビシャも泥まみれだ。


「わかった」


 ヒートソードを渡し、ビシャを見送ったら装備を外し、小屋の前にある柵にかけて水魔法で洗い、泥が落ちたら水分を飛ばして乾かした。


「タカト様。長老が会いたいそうです」


 新たな装備に着替えていたら一人のエルフがやってきた。


 ……ハァー。最近、ゴブリン駆除より話し合いばっかりだな……。


「わかりました」


 案内されていくと、砦の外にワンタッチテントが多く並んでいた。この気温でそれは大変じゃね?


 まあ、薪はたくさん割ってあるし、ゴブリン駆除報酬で衣服もよくなった。今年の冬はなんとか乗り越えられるだろうよ。


「どうかしましたか?」


 焚き火の前で暖を取る長老さん。あなたも見ないうちに顔色や体つきがふくよかになりましたね。


「ここをエルフの地にしてくれたそうだね。ありがとうよ」


「気になさらず。エルフの方々に手伝ってもらえばとの思惑もありましたからね」


 百人くらいかと思ったら二百人もいたとは想定外だったけどな。


「マイセンズの森はエルフの地として伯爵から確約を得ました。文章としても残してあります。あなた方はこの地でゴブリンを駆除してください。コラウス辺境伯からマイヤー男爵領を通り、アシッカを抜けて海に繋げます。道ができれば人の往来が増える。人間に騙されないよう知恵を身につけてください」


 これは長老さんがくれた情報の代価。あとは、自分たちで発展していってくれ、だ。


「冬の間になにができるかわかりませんが、ギルドに協力していただけるなら報酬は出します。ゴブリン駆除の報酬だけでは困るでしょうからね」


「皆の者。我々はタカト様に協力する。いいね?」


 いつの間にかエルフたちが集まっていた。この世界の者は足音立てないで近寄る習性があるのか?


「はい。問題ありません」


 一人の男が代表して答えると、集まったエルフたちが土下座した。マサキさん、土下座をどう説明したのよ?


「──タカト」


 と、アルズライズがやってきた。洞窟前拠点にいかなかったんだ。


「木を伐る斧なんかはミリエルに出させます。まずは住みやすいよう開拓してください」


 そう言ってアルズライズを連れて砦内に入った。


「なにかあったか?」


 とりあえず小屋に入り、熱いコーヒーを淹れてやった。


「新たな洞窟を発見した。ここから南に約五キロ。穴はそれほど大きくはないが、ゴブリンの出入りは多かった」


「すべてを駆除したのか?」


「いや、閉じ籠られたら困るからな。処理肉をばら撒いて誘い出している」


 無我夢中でゴブリンを駆除したかと思えば、こうして冷静に判断できるんだから金印は伊達ではないな。


 スケッチブックを出して周辺の概略図を描く。


 マイセンズの砦から見て東に東拠点があり、洞窟は東北東。アルズライズが見つけた洞窟は南南東寄りだ。 


「他に洞窟は?」


「五キロ内にはない。ロンダリオたちが見つけた洞窟とおれが見つけた洞窟の二つだけだ」


 その二つの間はかなり離れている。道を築くよりは二手に分かれたほうがいいかもしれんな。


「アルズライズが見つけた洞窟は南の洞窟。ロンダリオさんたちが見つけた洞窟は東の洞窟と命名しよう」


 単純な、とかは言わないで。名前に労力なんてかけてられんよ。


「アリサ。請負員の他に十人ばかり連れていきたい。選んでくれ」


「はい。すぐに」


 人員はアリサに任せ、洗った装備を持ってホームに。VHS−2装備に着替えてきた。


「ミリエル。ゼイスに町とマイセンズの砦を往来させて雪が積もらないようにしてくれと伝えてくれ。あと、融雪剤を買って撒くようにとも」


「はい。洞窟に入るときは呼んでくださいね」


「わかっているよ。狭いところならミリエルの独擅場だからな」


 さすがに町に閉じ込めておくのも可哀想だ。ビシャたちと交代でゴブリン駆除をやってもらうとしよう。


「ビシャ。雪の中を進む。カイロを足に貼っておけ」


 ホームに置いてあるビシャの装備を運び出し、ビシャに渡した。


「アリサ。伝令になってくれる者も欲しいんだが、適当な者はいるか?」


「います。新たに請負員にしてもらえますか?」


 と言うので新たに五人を請負員として南の洞窟に出発する。


 時刻は十五時を過ぎているが、五キロなら暗くなる前に着くだろう。と言っても一キロ手前でキャンプするけどな。


 マルチシールドとヒートソードをアルズライズに持たせ、舞う水蒸気をオレの魔法で左右に逃した。


 アルズライズの力強い進みでヒートソードの温度を千度にして使用時間を二十分に。一時間もかからず一キロ手前までやってこれた。


 ヒートソードで周辺の雪を溶かし、土魔法を使えるエルフが地面を均したらビニールシートを張って屋根とし、時計型薪ストーブを二つ買ってきて組み立てた。


 石油ストーブは外で使うのはダメだな。やはり、ストーブ系が強い。ヤカンを乗せたらお湯も沸かせるし、鍋を置けば調理もできる。エルフたちに使い方を教えて、役に立つなら東拠点でも使うとしよう。


「アルズライズとビシャは先に休め。明日はたくさん働いてもらうからな」


「ああ。なら、先に休ませてもらう。起きたらすぐ食いたいからなにか作っておいてくれ」


「カレーを作っておくよ」


 ストーブで温めておけばトロットロなカレーができるだろうよ。


「匂いで眠れないな」


「鼻に布でも詰めてろ」


 そう言い放ち、ダッチオーブンを買いにホームに戻った。

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