第535話 マジャルビン

 死体の片付けが終われば次は馬車だ。


 てか、なにを積んでいるんだ? 疑問に思って中を覗くと、なにかの毛皮が積んであった。


 こんなものが売れるのか? オレにはよくわがんねぇ。


「とりあえず、荷物はリヤカーに積み込め」


 売れるものなら使えると言うこと。館に運んであとはダインさんに捌いてもらおう。商売は商人に任せるのが一番だ。


 ニャーダ族に積ませたらオレが牽いてホームに入り、ミサロにダストシュートしてもらう。


 館にはニャーダ族が何人かきているので、リヤカーを出したらそいつらに片付けてもらう。


 またホームに戻れば今度は雷牙にダストシュートしてもらって広場に。そんなことを繰り返して馬車の荷物を移動させた。


 なんとももどかしい手段だが、普通に移動させるよりは何倍も早い。がんばれと自分を叱咤して続けた。


 量が量だけに朝までかかってしまった。


「よし。見張りはイチゴに任せて昼まで休め。酒も飲んでいいぞ」


 オレは限界なのでテントに入ったらすぐに眠った。


 次に目覚めたときは夕方になっており、テントの外に出たらニャーダ族の男たちが焚き火を囲んで酒を飲んでいた。


「起きたか。まだ寝ていていいぞ」


 ニャーダ族の輪に入って酒を飲むミシニー。こいつ、何気にコミニュケーション能力が高いよな……。


「いや、ぐっすり眠ったから大丈夫だ。すまなかったな。一人だけ先に眠ってしまって」


「やるべきことはやったのだろう。なら、別に急ぐこともないだろう」


 まあ、あとは馬車をどうにかするだけ。急ぐことはないな。問題は山積みだけど。


「皆は休んだのか?」


「休みすぎて酒盛りしているよ」


「元気で羨ましいよ」


 この一年で三段階アップしたり体力向上したりして、体も引き締まったが、精神的疲労は軽減するどころか増大するばかり。どこかで休まないと精神がおかしくなるかもな……。


 寝起きに酒もなんだが、ミシニーにホットワインを出されたのでありがたくいただいた。


「ホームにいってくる。なにか必要なものはあるか?」


「ライガに持ってきてもらったから大丈夫。朝までゆっくりしてきていいぞ」


「おれらも構わない。そちらにいる仲間を頼む」


 ミシニーとマーダがそう言ってくれるので、朝までゆっくりさせてもらうことにした。


「雷牙。ここにいてくれな」


 ニャーダ族に受け入れられたのか、輪の中にいた。どうやらメビが面倒見てくれているみたいだ。


「わかった」


 メビを見たら任せてとばかりに頷いてくれた。末っ子気質なのに、お姉さん振りたいのかな?


 頼むと残してホームに入った。


 ガレージにパイオニアが一台も入ってない。他も忙しいみたいだな。


「広くするか増やすかしないとな」


 請負員が増えていくとなると、ガレージを広くするかパイオニアを増やしていかないとサポートが追いつかなくなる。マンダリンも三台は入れておきたいしな。


 部屋を増設もしたいが、今のところ皆からは不満は上がっていない。いや、思っているかもしれないが、不満が爆発する前には部屋を増設するとしよう。


 装備を外して中央ルームにいくと、シエイラだけがいた。あら、珍しや。


「お疲れさん。なにかあったか?」


「こちらは仕事は終わったわよ。寝てないの?」


「いや、起きたばかりだ。ミサロは外か?」


「ニャーダ族の女性たちに料理を教えているわ。さすがに人が増えすぎて食堂に入り切れなくなったからね。長屋で作ってもらうことにしたの」


 そうか。オレが考える以上に増えているようだ。


「ありがとな。シエイラに助けられてばかりだ」


 館のことはすべてシエイラに任せてしまっている。シエイラがいなければドワーフもニャーダも引き込む作戦は取れなかっただろうよ。


「そういう素直になれるところが罪なんだから」


 はん? なんで素直になると罪なんだよ? 別に裏があって言っているわけじゃないのに。


「シャワーを浴びてくるよ」


 女心はよーわからんと、ユニットバスに向かうとする。


「わたしも入るわ」


 あいよ。って答えたらこちらに入ってきた。


「仕事が終わったんだからゆっくりしてろよ」


 ダメ女神から限定解除されてからシエイラを女として見てしまう。一緒に入ったら我慢できなくなるぞ。


「わたしの欲求を晴らしたいだけよ」


 ほんと、男を手玉に取るのが上手い女だよ。若い頃に出会わなくてよかった。出会っていたら性癖歪んでいたことだろうよ。


 ………………。


 …………。


 ……。


 一時間後にユニットバスを出た。ハァー、疲れた。


 皆がまだ戻ってきてないのが救いだな。未成年には説明できないし。


「わたしは、夜にまたくるわ」


 バスタオル姿のまま中央ルームを出ていった。いや、着替えてからいけよ。


 そんなことを言う元気もない。ああと返事をして冷蔵庫からパックのビールを出して胃に流しこんだ。あ、巨人になれる指輪をしたままだった。これじゃ酔えないよ。


 連続で三缶飲んだ頃、ラダリオンがやってきた。疲れた様子で。あと、なんかガソリン臭くないか?


「お疲れさん。なにかあったのか?」


「マジャルビンが現れて大変だった」


 マジャルビン? なんかどこかで聞いたような? なんだっけ?


「ゼリー状の魔物だよ。剣も槍も魔法も効かないヤツ。ガソリンで燃やしてなんとか倒した。お風呂入ってくる」


 辟易って感じで風呂に向かった。


 ゼリー状の魔物? スライムか?

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