第534話 ご協力ありがとうございます
銃声が轟いたが、オレは構わずパイオニアのところに向かってゆっくり歩く。
背後では悲鳴があちらこちらから上がり、助けを乞う声も上がる。
パイオニアの元に到着。そして、振り返った。
ニャーダ族の男は八人。その八人が残像を見せるくらいに右に左に動き、隊商の者たちの首を折っていった。
「凄いものだ」
「そうだな。まさか獣人があんなに動けるとは知らなかったよ」
ミシニーもニャーダ族のふざけた動きに驚いていた。
「わたしの出番はなさそうだな」
「混ざりたいなら混ざってもいいぞ」
オレは絶対に嫌だけどな。確実に巻き込まれて弾き飛ばされる。
見ているしかないので、缶コーヒーと瓶のワインを取り寄せ、パイオニアに寄りかかりながら二人して飲んだ。
隊商は三十人くらい。これを制圧するのは大変だと思うのだが、ニャーダ族は労力を惜しまない。
馬車にいた者を引きずり出し、片脚を折って逃げないようにしたり、隙を見て逃げ出す者を死なないていどに殴りつける。
これまでの恨みを晴らすためになぶりになぶって、さらになぶっている。
とても見ていられる光景ではないが、これはオレがやらせている。責任者として目を逸らすことは許されない。最後まで責任を持て、だ。
「無理しなくてもいいんじゃないか?」
「無理でも見るのがオレの役目だ」
ニャーダ族にやらせてもオレが命令してやらせているならオレが殺しているのも当然だ。ちゃんと見てなければニャーダ族に申し訳ない。
「難儀な性格だよ」
「オレもそう思うよ」
だが、それがオレなんだから上手く付き合っていくしかない。弊害として酒とも仲良くなっちゃうけどな!
命乞いがあちらこちらから聞こえてくる。
それはニャーダ族もしたはずだ。だが、人攫い一味はその言葉を無視をした。その証拠は魔石となっている。
法で裁けるなら法で裁いて欲しいが、法も未整備で人権もないところで綺麗事を言っても仕方がない。今は力でしか自分の正義を語るしかない。
なんて言い訳が次から次と出てくることに嫌になる。
気を引き締めろ、オレ! こんなことじゃ命を落とすぞ! 殺さなければ殺される世界なんだから非情になるところは非情になれ! ニャーダ族を取ったならニャーダ族を優先させろ! それが生き残る道だと判断したんだからな!
心を強く持ってニャーダ族の復讐劇が終わるまで見続けた。
雨が上がる頃、ニャーダ族の復讐心も落ち着いてくれたようで、広場は静かになった。
空になった缶を握り潰し、森のほうに投げ捨てる。
「さあ、死んだゴブリンが臭くなる前にさっさと穴に埋めるぞ! 急げ!」
そう叫び、パイオニアを移動させた。
一体一体運ぶのも大変なので、ホームからリヤカーを二台持ってくる。
運ぶ班。穴に投げ込む班に別れ、死体を広場の奥に運んだ。
「タカト。冒険者はどうする?」
あ、そうだった。冒険者がいたんだっけ。すっかり忘れていたよ。
「オレが話す。片付けは頼む」
すべてのことに関わらなければニャーダ族からの信頼は得られない。が、さすがに冒険者のことはオレがやらなくちゃならない。片付けをお願いして冒険者のところに向かった。
冒険者は四人。年齢からベテランの域に入った者たちだろう。
「オレは一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターだ。今回のことはコラウスに巣くう犯罪組織を壊滅させるために領主代理の依頼でやった。このことは冒険者ギルドも承知している。なので、あなたたちの仕事はなかったことになる」
どちらにも許可は得てないが、事後承諾でも許される関係は築かれている、と思う。多少なり怒られはするだろうが、処罰されることはないだろう。
「オーグに襲われたあなたたちの仲間はオレらが保護している。ちゃんと生きてもいる。仲間がコラウスに運ぶだろう」
冒険者には一切の傷はなく、暴れないようインシュロックで手足をロックされているだけ。
「巻き込んでしまったことを謝罪する」
頭を下げる文化はないが、謝罪していることは伝わるはずだ。
「……おれらは助かるんだな……?」
リーダーらしき男が口を開いた。
「もちろんだ。今、解放しよう。動かないで欲しい」
不安にさせないよう折り畳みナイフを出し、インシュロックを切って四人を解放した。
「これは迷惑料と口止め料だ。承諾するなら受け取ってくれ」
プレートキャリアのポーチから金貨を四枚出して四人に見せた。
一冒険者として金貨はとんでもない大金だ。迷惑料としても口止め料としても破格だろう。それは、冒険者たちの表情が物語っている。
「あと、もしこの先、冒険者を続けるのが困難と感じたらゴブリン駆除ギルドにきてもらえると助かる。これまで冒険者として経験したことをセフティーブレットで活かして欲しい。セフティーブレットはあなたたちを望む」
ついでに勧誘もしておこう。経験者は貴重だからな。
手のひらに金貨を乗せたまま、冒険者の判断を待った。
やがて、リーダーらしき男が金貨を一枚つかみ、残りも金貨をつかんだ。
「ご協力、ありがとうございます」
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