第520話 防御魔法

 もう少しで太陽が出てくる。


 まったく、通知するなら夜にしてくれよな。朝日が昇ろうとしているときに襲撃とか、素人のオレでも間違っているってわかるよ。


「イチゴ! マンタ村に向かうぞ!」


 ミスリムの町の上空で旋回しているイチゴに通信と情報を送った。


「ラー」


 全速力で飛ぶオレにあっさりと横につくイチゴ。ブラックリンの性能は同じなのになんでイチゴのほうが速いんだろう。謎だ。


 時速百三十キロで飛んでいるのでマンタ村まですぐだ。


 プランデットに入れられた座標は村の中心部にある家であり、熱源反応は六十八。座標のところに十八の熱源反応が固まっていた。 


「イチゴ。殺さないていどに暴れろ。建物は破壊しても構わない」


 村の中心を指しているならマンタ村はミヒャル商会の傘下と見ていいだろう。なら、皆殺しにしても構わないだろうが、無理矢理従わされている可能性もある。


 だが、指された場所にいる者は皆殺しにする。そこにいて無関係なんてあり得ないからな。仮に無関係でもそれを確認している暇はないのだから自分の不運を呪ってくれ、だ。


 速度を緩め、まずはイチゴに突っ込んでもらった。


 人がいない納屋に榴弾を撃ち込み爆発させた。


 辛うじて眠っている時間のようで、寝間着っぽい服を着た村人らしき者らが飛び出してきた。


 武装した者は出てきてない。が、座標地点からは魔力反応が増大。建物全体を覆った。


「なんだあれ?」


「防御魔法です」


 そんなのがあるの!? 初耳なんですけど!!


 ま、まあ、魔法がある世界。そんな魔法があっても不思議ではないか。どんなものかと榴弾を撃ち込んでみた。


「壁くらいは吹き飛ばす威力を防いだか。どんだけだよ」


 カウントダウンが始まっているのだからこれ以上悠長に確かめている暇はない。せっかくなのでブラックリンから飛び降り、指輪の力で巨人となった。


 巨人になったときの体重がどれだけのものになるかわからないが、アフリカゾウくらいの重さにはなっているはず。いや、アフリカゾウの体重など知らんけど。


 そんな体重のオレが上空四十メートルのところから飛び降りたのである。どんな防御魔法でも防ぐことはできないだろうよ。


 なにか硬いものに当たり、見えない力が弾けて建物の中に突っ込んだ。


 衝撃はあったが痛くはない。空の段ボールに突っ込んだような感覚だった。


 着地した感覚がしたら巨人化を解除。元のサイズに戻り、VHS−2を構えた。


 背後に動体反応。振り返って引き金を引き、男を一人撃ち殺した。


 さらに動体反応がして銃口を向けて引き金を何度も引いていき、反応するところへ弾丸を撃ち込んでやった。


 動体反応がなくなれば振動センサーに切り替えて建物を調べる。


 地下へ続く階段を発見。ウォータージェットで残骸を斬り裂き、ウォーターパンチで吹き飛ばしてやった。


 ピピッと魔力反応増大のアラームが。すぐにホームに逃げ出し、玄関に置いてある手榴弾を二つつかんだ。


「くたばりやがれ!」


 ピンを抜いてダストシュートする。


 安心して仰向けに倒れると、武装したミリエルやラダリオンがいた。


「タカトさん」


 すぐに立ち上がり、窓から外を覗いた。よし。魔力反応した者は見えない。


「ミリエル。すぐに出れるか?」


「問題ありません」


 目がマジになっている。これなら大丈夫だな。


「出たらすぐに眠りの魔法を放て。半径十メートル。上空はいいが、地下には向けるな。ミリエルが出て十五秒後にオレも出る」


 眠りの魔法は数秒は空間を漂っているのだ。


「わかりました」


 ミリエルの専用銃、APC9SDを構えてみせた。


 ダストシュートの上に立たせ、頷き一つとどもにミリエルを外に出した。


 マガジンを交換しながら十五、数える。


「よし!」


 気合いを入れ、VHS−2を構えながら外に出た。


 ミリエルは三歩前に。センサーをフルに使って敵を探った。


「イチゴ。そちらの状況はどうだ?」


「あと五人で制圧完了になります」


 異世界にターミネーターが現れたようなもの。恐ろしや、だな。


「ミリエル。援護を頼む。地下にむかう」


「わかりました」


 VHS−2を背中に回し、地下へ続く階段の上に溜まった残骸を蹴り飛ばしていった。


 現れた扉には鍵がかかってないのに開かない。また魔法がかかっているのか? ならと、VHS−2で扉を撃ち抜き、斧を取り寄せて何度も振り下ろした。


 防御魔法ほどではないようで、五分くらいで扉にかかった魔法が消えてくれ、扉を破壊することができた。魔法も物理でなんとかなるものなんだな。


 VHS−2につけているライトをオンにして階下を照らした。


 上の騒ぎが聞こえたのだろう。動体反応が固まっている。カウントダウンが発動してない者もいるようだ。


「ミリエル。男の声より女の声のほうが警戒心も下がるだろう。助けにきたことを伝えてくれ。ビシャとメビの母親が捕まっている。父親の名前はマーダだ。なにかあればすぐにホームに入れ」


「わかりました。任せてください」


 APC9SDを背中に回し、ライトを出して階段を下りていった。


 カウントダウンが0にならないことを願うよ。

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