第521話 小さい獣

「ニャーダ族の皆さん、助けにきました!」


 階段の途中ででミリエルが叫ぶ。


 プランデットで階下は見えているが、なにか嫌な予感がする。ダメ女神の「気をつけて~♥️」が脳裏をよぎるのだ……。


 階段は二十段近くあり、階下は広くなっている。


 振動センサーで調べたところではいろんな荷物が重ねてあり、下りた反対側に地下牢がある。


 ミリエルが階下に到着したらオレも階段を下りていく。


 動体反応は未だに固まっており、少しずつ奥に移動している。


 熱源に切り替えて調べると、微かに熱を帯びた個体が六つ。小さいことからして子供だろう。そういや街の地下牢は男が多く、女は少なかったな。女子供を分けたのか?


 階下に到着したら水タンクを取り寄せながらミリエルの背中を追う。


 かなり前から造ってあるようだが、かなりしっかりとした造りとなっている。臭いが籠っていないってことは空気が循環できるようになっているのだろうか?


 牢はかなり奥で、木製の扉で仕切られている。


「ニャーダ族の皆さん! 今扉を開けますね!」


 ただ助けにきただけなのに嫌な予感は増すばかり。気をつけて~♥️ がなんなのか教えやがれってんだ、クソが!


 扉は観音開きとなっており、鍵はかかってない。ミリエルの力でも簡単に開けられた。


 動体反応が微かに揺れ、怯えているのがわかった。


 嫌な予感が爆増すると同時に走り出し、マルチシールドをミリエルの前に構えた──瞬間、強い衝撃が腕に伝わってきた。


「ホームに入れ!」


「はい──」


 すぐにミリエルがホームに入り、マルチシールドを動かしてVHS−2を構えた──ら、凄まじい力で奪われてしまい、ストラップに引っ張られて投げ飛ばされてしまった。


 壁に強く叩きつけられたが、プレートキャリアの背中にハイドレーションを入れていて助かった。なにより山崎さんからもらった万能アンダーシャツを着てなかったら肋骨は折れていただろうよ。


 衝撃も拡散してくれたので痛みはそうない。すぐに立ち上がってグロックを抜き、レッドマークがついた者へ向けて引き金を引いた。


 だが、動きが速くてまったく当たらない。ビシャやメビ以上の動きだ。


 弾はすぐになくなり、マガジンを交換している暇はないので投げつけてやり、プレートキャリアにつけたナイフを抜いた。


 レッドマークがついた者は小さい。一メートルちょっとくらいの人型生命体だ。


「グルルル」


 こちらが短い刃物だと知ってか、鋭い爪を立て、牙を見せて威嚇している。


 ……完全に獣人だな……。


 ビシャたちのように犬耳と尻尾があるだけの獣人ではなく、完全な毛むくじゃらの獣人だった。


 怒りに我を忘れている感じではないが、こちらの話を聞くような精神状態でもない。強引にでも押さえつけてやらなければ止まりはしないだろう。


 ジリジリと間合いを詰めてくる小さな獣人。肉体勝負ではまず勝てない。なら、魔法で頭を冷やしてやるよ。


 小さな獣人が襲いかかると同時に取り寄せたタンクから水を集めて水壁を作りだした。 


 水の操作は毎日──はやれてないが、時間があるときは練習している。暴れる小さな獣人に合わせて水壁を動かして溺れさせる。


 とは言え、殺す気はない。


 この小さな獣人は、ニャーダ族と関係があるかもしれないからだ。

 

 ダメ女神の「気をつけてね~♥️」からしても人攫いが仕込んだ見張りとも思えないし、こんな狂暴なのと一緒にいたらニャーダ族のストレスはマッハだろう。なら、この小さな獣人はニャーダ族に関係ある者と見るべきだろうよ。


 恐らく、オレを敵と誤認している。まあ、わからないではない。あちらからしたら自分らを捕まえた人間など敵でしかないだろう。人間すべて敵として襲ってきて無理からぬことだ。


 苦しさに泡を出し、もがき苦しんでいる。


 そこで水壁を解除して小さな獣人を解放。マルチシールドで捕獲──したら、ミリエルがホームから出てきた。


「ニャーダ族を頼む。オレはこいつを上に連れていく。必要ならラダリオンを呼べ」


「わかりました」


 ここは女が多い。異性のオレより同性のミリエルのほうが警戒心も薄まるだろうし、回復魔法が使える者に任せるほうがいいだろうよ。

 

 オレはマルチシールドに絡めた小さな獣人を上に連れていった。


「こんなに軽いのに、どこからあんな力が出せるのやら」


 三十キロあるかないかなのに、装備含めて八十キロになるオレを投げ飛ばすんだから意味不明である。


「イチゴ。状況は?」


「制圧完了。今、一ヶ所に集めています」


「ご苦労様。周囲の警戒を頼む」


「ラー」


 小さな獣人を拘束したままマルチシールドを外し、飲み込んだ水を出してやった。


「よくよく見れば人の顔に毛が生えただけか」


 特異体質、ってヤツだろうか? ダメ女神が関与した世界だとなにが正しいかよくわからんよ。


 タオルを取り寄せ、水で濡れた頭や顔を拭いてやる。


「結構汚れているな」


 ビシャとメビも保護したときは汚れていたっけ。


 気絶している間にマルチシールドを解き、体──と言うか毛を拭いてやった。


「ありゃ。こいつ、男かよ」


 男ならあるところに小さい獣が生えていた。


 ──────────────


 ケモショタ登場。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る