第522話 呪いの指輪

 しばらくして地下に捕らわれていたニャーダ族の面々がミリエルに連れられて出てきた。


「ご苦労さん。ミリエルに任せて正解だったな」


 オレやラダリオンじゃこうはいかない。ミリエルの人柄だからこそニャーダ族の警戒心を和らげたのだ。


「ありがとうございます」


 満面の笑みを見せるミリエル。いや、そこまで喜ばれるとこちらが気が引けるんだが……。


「ニャーダ族の様子はどうだ?」


「弱めの回復魔法をかけて、重傷者には回復薬を飲ませました」


「そっか。それはよかった。食事をさせたら身綺麗にしてくれ。オレは捕らえた者の尋問をするから。あと、あの子を頼む。襲ってきたら眠らせていいから」


 取り寄せたマットに寝かせた小さい獣人くん。今は穏やかに眠っているよ。


「わかりました。任せてください」


「ありがとな」


 ミリエルの肩を叩き、イチゴが捕らえた者らのところに向かった。


 捕らえた者らは脚の骨を折られていたり気絶させられてたりする。どうやらイチゴに捕縛術はインストールされていないようだ……。


 水を集めて気絶した者らにぶっかけてやった。


 突然のことに戸惑い、辺りを見回し、状況を理解したのが数人いた。こいつらは人攫いチーム側だな。


 そいつらをラットスタットで殴っていった。


「一度だけしか言わない。ミヒャル商会と繋がりがある者を教えろ。言わないのなら全員を殺す」


 予備のグロック17を取り寄せ、殴ったヤツの足を撃つ。さすがに頭は狙えなかったよ……。


 酸っぱいものが込み上げてくるのを無理矢理飲み込み、次々と撃っていった。


「……耳障りな悲鳴だ……」


 逆に夢に出そうだ。


「仕方がない。早い者勝ちだ。獣人を拐った者たちをしゃべるなら十名は殺さないでやる」


 仲間意識は皆無だったようで、我先にと人攫いの仲間を指差していった。


「イチゴ。早い者勝ちを十名選べ」


 オレは聖徳太子ではないので誰が早かったなんてわからねーよ。


「ラー」


 プランデットに十名の情報が送られてきた。


「約束だ。逃してやる。だが、顔は記憶した。変装しようが無駄だ。次、悪さをしたり人攫いに関わったら殺す。それを胸に刻んでおけ」


 イチゴに十名を放り投げさせ、オレは逃げるバカどもの背中に弾丸を撃ち込んでやった。


 ゴブリンも9㎜弾一発で死ぬことはなかったが、人も一発二発当たったくらいでは絶命しないんだな。


「これまで獣人の未来を奪ってきた罰だ。苦しんで死ね」


 なんて、ゴブリンを無慈悲に殺してきたヤツのセリフではないな。まあ、罪悪感がないからこれからもゴブリンは無慈悲に殺すけど。


「こ、子供は助けてください!」


「獣人たちは子供を助けてくれと言わなかったか?」


 意地の悪いことを言っているのは自覚している。だが、押し黙ったことで獣人たちは命乞いしたことは事実のようだ。


「お前らの命は獣人に委ねる」


 汚いことを押しつけるようで心苦しいが、獣人たちの恨みも晴らしてやらないと一生の恨みとなる。悪いが、こいつらの命は獣人に決めさせる。


「イチゴ。子供以外は逃げ出さないよう足を撃っておけ」


 せめてもの情けだ。子供が逃げるチャンスだけは与えてやる。将来、仇討ちにくる未来がくることを切に願うよ。


「ラー」


 アサルトライフルのマガジンを取り寄せ、地面に置いた。


 銃声と悲鳴を背にしてニャーダ族のところに戻った。


 オレが戻ると、ニャーダ族がこちらを見るが、警戒心はなくなっていた。なんで?


「……殺したんですか?」


「半分近くは生かしてある。どうするかはマーダに任せるよ。殺すなり苦しめるなり好きにしたらいいさ」


「マーダは生きているんですか!?」


 と、なんだかメビに似た女性が立ち上がった。


「二人の母親のサニーさんです」


 やはりか。じゃあ、ビシャは父親似だな。


「今からマーダを呼びにいって連れてくる。イチゴ。ミリエルの護衛を頼む」

 

 ニャーダ族の世話で周りに目を向けるのは大変だろうからな。イチゴに護衛させるとしよう。


「ラー」


 自動操作しているブラックリンを呼び寄せる。


「ミリエル。ミサロやシエイラに説明してから館から出て向かう。十時までは戻ってくるようにするが、万が一のときはラダリオンを寄越すよ」


「はい、わかりました。気をつけてくださいね」


「了ー解」


 ミリエルに笑顔を見せてホームに入った。


 玄関に現れたら長いため息を吐き、スキットルを出してウイスキーを飲み干した──が、巨人になれる指輪のせいで飲んだ気もしない。


 酒飲みエルフのために買っていた大容量の焼酎(ビッグマン)をガレージに置いていたのを思い出し、中央ルームにいく前に飲むことにした。


 一本四リットルなのにグビグビ飲めて、あっと言う間に飲み干してしまった。


「……ちっとも酔えねーな……」


 それでも飲まなきゃやってられないので、次のに手を伸ばして休むことなく飲み干した。


 さすがに六本も飲むと味に飽きてきた。


「……アル中になっていく過程がよくわかるな……」


 巨人になれる指輪がなかったらオレはゴブリンに殺されるより、アルコールで死んでいた可能性が高かったかもな。


「いや、アル中になることも許されないってことか」


 まったく、これじゃ呪いの指輪だよ。


 だがまあ、老衰で死ぬと決めたんだ。呪いの指輪くらいでちょうどいい。生き抜くために利用しろ、だ。


 頬を叩いて気合いを入れ、中央ルームに向かった。

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