第142話 ハーメルン
二百発の弾があっと言う間に撃ち尽くされてしまった。
「ギルドマスター、お願いします!」
「任せろ!」
頭は現代。下はファンタジーなギルドマスターが向かってくるゴブリンの群れの中に飛び込んいった。
どんな戦いをするか見てみたいが、今は箱マガジンの交換に集中しろ。
「ゴルグ! お前も弾を補給しろ!」
あちらもダンプポーチに入れた弾がなくなってるはず。今のうちに弾を買えだ。
交換が終わり、MINIMIを構える。
ヘッドライトの光が瞬くだけでギルドマスターの姿は見えないが、ゴブリンの気配が恐ろしい勢いで消えていくのはわかった。
「……スゲーな……」
素人のオレでもわかる。ギルドマスターは確実に金印に匹敵する実力者だ……。
なんて惚けている場合ではない。回り込んでくるゴブリンを撃ち殺していく。
また弾が切れたらMINIMIはホームに運び込み、背負っていたVHS−2に持ち換えた。
「後退! ギルドマスター、後退! 後退してください!」
撃ちながらギルドマスターに向かって叫ぶ。てか、笛での合図にしとけばよかった! オレ、低能!
叫びながら後退すると、歴戦の魔法剣士は気がついてくれてゴルグを促しながら後退してくれた。
先ほど決めたようにゴルグが先頭。ギルドマスターが続き、追ってくるゴブリンを撃ち殺しながらあとを追った。
一キロほど後退すると、諦めたのか、ゴブリンが追ってこなくなった。
ゼーゼーと息を切らしながらVHS−2を構え、気配を探った。
「……笛の、音……?」
静かな山の中で微かに笛の音が聞こえる。これは、マルセ地区で聞いた音だ。
「……え? 誰かが笛で操ってるってことか……?」
ハーメルンの笛吹か? いやあれは連れ去った、だっけか? もう内容も覚えてねーよ。
「クソ。ゴブリンを操ってる者がいるってことかい! なんの陰謀が渦巻いてんだよ!」
オレはゴブリンを駆除しろと送り込まれた一般ピープルだぞ! そんな陰謀とか暴ける頭脳なんて持ち合わせてねーよ! 頭も普通。体も普通。真実見抜けないただのアラサーだわ! ふざけんな!
いや、落ち着けオレ! まだ陰謀が渦巻いている証拠はない。オレの勘違いってこともある。今は目の前の害獣に集中しろ、だ!
「タカト! ゴブリンは?」
「下がりました。また陣を築き始めてます」
第一陣と第三陣はまだカインゼルさんたちに攻め込んでいる。こう言うのを消耗戦と言うんだっけ? 命と弾薬が湯水のように消えていってるよ。
「王の統率力か? 厄介だな」
それならまだいいが、黒幕が統率していたら目も当てられないよ。
「どうする?」
「もう一度、攻撃を仕掛けたら王の隊の背後に移動します」
「合流しなくていいのか?」
「あちらは補給が万全なので合流はしません。オレらは遊撃としてゴブリンどもを翻弄します」
なぜかわからないが、あちらを本隊だと思って攻め込んでいる。なら、あちらを囮にしてオレらで王の隊を叩く。いや、ゴルグとギルドマスター頼みだけど!
「少し休憩してから仕掛けましょう」
アポートポーチから水を取り寄せてギルドマスターに渡した。ゴルグはすまんが自分で買ってくれ。
十分くらい休んだら再度第二陣に襲いかかり、五分くらいで後退。ゴルグを先頭にして王の隊の背後へと向かった。
「タカト、大丈夫か?」
返事するのも億劫なくらい息を吸うので精一杯だ。てか、毎日書類仕事ばかりしてるのになんで息切れもしてないのよ? なんか秘密でもあんの?
「おれは回復魔法と力の魔法の二極持ちだからな。青と紫の魔石を持っていれば一晩でも二晩でも寝ずに戦えるのさ」
二極? 二属性持ちってことか? 落ち着いたら魔法のことも勉強せんとな。
「……う、羨ましいです……」
「タカトは思った以上に体力があるな。体力だけなら銀印級だぞ」
そうなの? まあ、ダメ女神のちょびっとが利いているんだろう。自分では体感できないけどな。
スポーツ飲料を飲み二十分くらい休んだら息も整った。
「ん? 第一陣と第三陣が退いた?」
カインゼルさんたちのほうに意識を向けたら、ゴブリンが退いていってるのがわかった。
「すみません。少し待っててください──」
ホームへ戻ると、ラダリオンも戻っていた。
「ラダリオン。怪我はないか?」
「ない。けど、弾はもう残り少ない。銃も熱を帯びて危険な感じ」
三十分以上、撃ちっぱなしだしな。撃ち続けなくちゃならない状況が間違ってるのだ。
すぐに箱マガジンを二十箱と新しくHK416Dを三丁とSCAR−Lを買った。
416は以前使ってたし、SCARと似た扱い方だ。ラダリオンでも教えられるだろう。次の襲撃まで三人に覚えさせてくれ。
「オレらは王の隊の背後に向かってる。倒せるかわからないが、王に仕掛ける。あと、王以外にゴブリンを操ってるヤツがいるかもしれない。空にも背後にも気をつけろよ」
どう気をつけるの? とか訊かれたら言葉に詰まるが、今のオレにはそうとしか言い様がない。許しておくれ。
「わかった。じーちゃんに言っておく」
まあ、カインゼルさんなら油断もしないし警戒もしてるだろう。素人の心配など無用だろうさ。
「終わったらまた高級な肉で焼き肉するぞ。しっかり稼げよ」
「うん! いっぱい殺す!」
満面の笑みを浮かべるラダリオン。元気復活、殺る気満々って感じだな。
「ミリエル、頼むな」
「はい。気をつけて」
VHS−2から416Dに換え、外に出た。
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