第223話 飛んで火に入るなんとやら

 昼飯と言うには遅い食事を終えたら十五時近くになっていた。


 このまま終わりにしてしまいたいが、そうもいかないのが山の上の砦。暗くなる前にやらなくちゃならないことはたくさんあった。


「ルスルさん。砦のことはそちらに任せます。オレたちは砦周を回ってきます」


 砦のことはルスルさんにお任せします。修繕計画は立ててるようだしな。


「はい。タカトさんたちはなにを?」


「水を運んできます」


 砦だから井戸があると思ってたのに、運んでこなくちゃならないとか想定外である。だが、水を確保する手段と方法は考えてある。


 ホームから単管パイプ、足場板、クランプを出して組み立て、ビニールプールを設置、するだけで一時間もかかってしまった。


 ポリタンク十個、盥二つ、電動ポンプと単1電池二十本を出したら組んだ足場板に上がり、そこからホームに入る。


「あ、タカトさん。ミーティングですか?」


「いや、こちらは水がなくて今は溜める準備だよ。ラダリオンは戻ってきたか?」


「いえ、まだです。昼にミスズの群れがいたから警戒しているとは言ってました」


 まあ、あれだけの数がいたんだからリハルの町方面に逃げたのがいても不思議じゃないか。山黒がいないことを願おう。でも、対物ライフルの弾、買っておくか。


 ユニットバスの蛇口にビニールホースを取りつけ、伸ばして玄関のダストシュートに。ボッシュート状態にして水を出した。


 窓から覗くと、メビが手を振って出ていることを教えてくれた。


 了解の合図に水色のビニールボールを一緒にボッシュート。大人が三人は入れるビニールプールなので溜まるまでの間にシャワーを浴びることにした。


 サッと浴びたら軽い食事をしながらタブレットでお買い物。どんどん報酬金が減っていくぜ。


「タカト。お腹空いた」


 ラダリオンが戻ってきた。疲れた様子で。


 すぐに食べれるようにマグロの寿司を買ってやると、早食い競争でもしているかのように十個を十秒もしないて食べてしまった。大食いの次は早食いにジョブチェンジか?


「ふー。落ち着いた。ラーメン食べたい」


 無限食いは治ったみたいだが、運動量が大きければ腹は空くもの。それに成長期だからよく食うのだ。


「ちゃんと野菜も食べろよ」


 無農薬野菜のサラダを出してやる。


「それで、そっちはどうだ?」


 ミロンド砦までは歩いて二日かかる。ミスズを襲う魔物を警戒して半分も進んでないか?


「あまり順調じゃない。人数も多くて、魔物の襲撃もあった。到着まであと二日はかかるんじゃないかってじーちゃんが言ってた」


 あまり順調ではないようだ。


「そちらも砦の修繕をやる気か? どこから予算を持ってきたんだか」


 大修繕ってわけじゃなかろうが、それでも大人数を動かすんだから大金が注がれているはず。隠し金でもあったのか?


「どうも魔王軍が動いているらしい。それっぽい斥候もいた。注意するようカインゼルさんに言ってくれ」


「わかった。あ、ラーメンお代わり」


 ハイハイとお代わりを買ってやり、玄関にいって外の様子を見る。


 外はすっかり暗くなっており、あちらこちらで火が焚かれていた。


 水を止め、ボッシュートを閉じたら外に出る。


「結構溜まらないもんだな」


 まあ、家庭用蛇口から二、三百リットル溜めようとしてるんだからこんなものか。ポリタンクにも移さないといけないしな。


 足場から降り、またホームに入ってポータブル電源と投光器、ワンタッチテントを運び出した。


「ミシニー。状況は?」


「特に異常なし。平和なものだ」


 軽口ではあるが、ワインを飲んでないのだから油断はしてないんだろう。やるべきときはしっかりやるタイプみたいだからな。


「見張りはどうなってる?」


「ルスルたちでやるが、甘えるわけにもいかんからな。二人を先に休ませたよ」


「そうか。もう少し頼む。ラダリオンのほうの話は聞けたが、ミリエルのほうはまだ聞いてないんでな」


「無理するなよ」


「コーヒー飲みながらだから無理もないよ」


 ワンタッチテントを設営し、投光器を組み立て、ポータブル電源に繋いで点灯させたらホームに入った。


「あ、タカトさん。サイルス様がきました。明日から巨人たちが造っている砦に向かうそうです」


「あの人、完全に冒険者ギルドから離れたみたいだな」


「サイルス様、ゴブリン駆除ギルドに入るんですか?」


「入ると言うか、この一帯を仕切る役目を負ったんだと思うよ」


 武力組織を放置なんてできない。誰か権力者が上に立って監視する者を置くはずだ。ましてやオレはダメ女神から送られたきた重要人物。敵対されたらたまったもんじゃない。上に立つ者からしたらそれなりの人物を置かなきゃ不安で仕方がないだろうよ。


「……タカトさんは、コラウスを巻き込んだんですか……?」


「それは違う。コラウスが飛び込んできたんだよ」


 オレを利用しようとな。だからオレは利用されているまでだ。オレなしでは回らなくするためにな。


「まあ、お互い、利用し利用される関係がよい関係、ってな。与えたものはあとで返してもらうさ。与えた分と同じ量をな」


 与えすぎてもダメ。もらいすぎてもダメ。同等の貸し借りが一番仲良くやっていけるものなのさ。

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