第421話 決戦2(*ラダリオン*)

「ラダリオン。ちょっと気を張りすぎじゃない」


 じっと玄関を見ていると、ミリエルが心配そうに話しかけてきた。


 外から帰ってきたらタカトたちが竜と戦闘に入ったと聞かされた。もっと様子を見てからのはずだったのに、タカトが関わるといつも急変だ。わかっていたのに、ほんの少し離れただけで変わるのだから困ってしまう。


「うん。気張りすぎた」


 そうだ。こんなに固くしていたらいざってときに動けない。もっと柔軟に、全力を出せるように体を温めておかないと。


「ラダリオンは出る気満々なのね」


「出る気しかない。あたしは戦闘にしか役に立たないから」


 ミリエルのように頭はよくないし、人としゃべるのも苦手。料理も運転もできない。ただ、戦うことしかできないのだ。


「相手は竜。必ずあたしが出る機会はやってくる」


 勘でしかないけど、あたしはこの勘を信じる。それに、タカトは自分の手に負えないと感じたら必ずあたしを頼ってくれる。ちゃんとあたしの力を信じて任せてくれるのだ。


 タカトの期待を裏切るわけにはいかない。これは槍としての矜持。あたしの存在理由。失敗はできないのだ。


 体をほぐしながら待っていると、タカトが転がるように玄関に現れた。


「ラダリオン、出番だ!」


「うん!」


 タカトが転がるように退けたらダストシュートの上に立った。


 いらないものを捨てるダストシュート。物を捨てられるなら人だって捨てられるはずだと、タカトがそれぞれのダストシュートを追加したのだ。万が一のときの脱出、移動、交代できるようにと。


「少し高い位置から入ったが、下は柔らかい土だ。グロゴールの背中にRPG−7を二発当てたが止まらない。最低でも足止めしろ」


「了解。必ずグロゴールに槍を突き刺す」


「任せた。いけ!」


 視界が一転。外に出た。


 マスクをつけているのに酷い臭いだ。でも、興奮しているせいでそこまで気にならない。それよりグロゴールはどこ?


「ラダリオン! あっちだ!」


 下から声がして視線を下に向けると、アルのおじちゃんがいて、指を差していた。


「わかった!」


 とりあえずそちらに駆け出した。


 森から出ると、グロゴールが前方にいた。


 ピコタンピコタンと片脚を怪我しているせいで上手く走れてない。RPG−7が二発当たってるにも関わらず背中を怪我している様子はない。そこを狙っても無駄と言うことだ。


 なら、狙う場所は怪我をしている脚、そして、羽だ。


「とぅえるぶ、やるよ」


 ふぉるむが好みでタカトにおねだりして買ってもらったAA−12。おーとあさると12と言うらしいけど、じゅうによりとぅえるぶってほうがカッコいいからと「とぅえるぶ」って名づけたのだ。


 鹿撃ち用の弾が三十六発入ったどらむマガジンの底を叩いたらとぅえるぶを構える。


 RPG−7が効かないのにとぅえるぶが効くとは思えないけど、どんなに硬くても衝撃までは殺せない。盾を叩けば持っている手に衝撃が伝わるのと同じだ、とタカトは言っていた。


 相手は生き物。痛みを感じない生き物はいない。効果があるまで殴り続けろ、だ。


 お尻を向けるグロゴールに銃口を向けてトリガーを引いた。


 トリガーを引けば連続で弾が出る。十発は当てられたが、さすがに相手も必死。転がるように避けてしまった。


 だが、弾はまだある。逃げられながらも結構な数を当てることができた。右の羽はボロボロだ。


 衝撃は中まで伝わっているとわかるくらいフラフラになっている。


 とぅえるぶを投げ捨て、デザートイーグルを抜いて撃った。とにかく衝撃を与え続けるのだ。


 マガジンを交換している間に立ち上がられてこちらに向かってきた。好都合だ!


 腰のベルトに差したバールを抜いてグロゴールの横っ面に一撃を噛ましてやった。けど、力が入ってない一発だったので、勢いに任せて回し蹴り。一回転したらデザートイーグルを向けて肩辺りに撃ち込んでやった。


「────」


 視界の外から尻尾が襲ってくるが、あたしの条件反射をナメるな。剣の練習だってちゃんとしている。下から上にとバールで尻尾を払ってやった。


 弾切れのデザートイーグルを投げ捨て、もう一本のバールを抜いた。


 体格差は軽く二倍。いや、三倍。けど、巨人の力、いや、あたしの力は負けてはない。あたしと同じくらいの山黒だって蹴り飛ばすことだってできたんだから。


 とは言え、グロゴール硬すぎ! 手は痺れてあんなに硬いバールが曲がってしまった。


 これ以上は無理とバールも投げ捨て、ラットスタットを抜いて咆哮する口の中に突っ込んでやる。


「くたばれ!」


 スイッチを入れて電撃を放った。


 リミッターは外してあるけど、あたしの魔力では大した威力は出せなかった。ラットスタットを噛み砕かれ、頭突きを食らってしまった。


 ──ここまでだ。


 タカトの命令は守った。それ以上はタカトは喜ばない。吹き飛ばされながらホームに入った。


「足止めしたよ! 羽も片方潰した!」


 すぐにその場から退いた。


「よくやった! あとは任せろ! 確実に終わらしてやる!」


 タカトがダストシュートの上に立ち、あたしが元いた場所に放り出してやった。

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