ワイニーズ討伐編

第462話 1 *ビシャ*

 朝の匂いがして目が覚めた。


「んーーーん! よく寝た」


 どこでも寝れるけど、やっぱり我が家のベッドが一番だよね。


「もう七時か。寝坊しちゃったな」


 昨日はたくさん食べて、夜遅くまで騒いじゃったしな。これでも早いほうか。メビはまだ寝てるし。


 メビを起こさないようベッドから起き出し、ヒートソードを持ってサウナに向かった。


 巨人に作ってもらったサウナ室に入り、ヒートソードを石を詰めた隙間に刺したら千度にする。


 すぐに室内温度が上昇。ヒートソードのスイッチを切り、石に水をかけたら水蒸気がサウナ室に満たされた。


「ふー。いい熱だ」


 メビはサウナが嫌いだけど、あたしはサウナが大好き。お風呂よりすっきりするんだよね。


 十五分くらいしたら汗が流れてくる。さらに三十分したらまたヒートソードのスイッチを入れて石が熱を帯びたら切って水をかける。


 今日は休みなのでゆっくりサウナを楽しむことにする。


「ねーちゃん、またサウナしてるの?」


 外に出て涼んでいると、メビが起きてきた。


「まーね。メビもお風呂入ってきたら」


「そうする。朝食は済ませたの?」


「さすがに食べる気になれないよ」


 昨日は限界まで食べた。まだお腹は空かないよ。


「今日はどうする?」


「タカトは休みって言ってたけど、落ち着いたら訓練するよ」


 他にすることもない。お腹に肉がつく前に体を動かしておくとしよう。


 ……毎日食べられるのはいいけど、動かないとすぐ肉になっちゃうから困りものだよ……。


「じゃあ、あたしも訓練する」


 そう言うと館のほうに向かっていった。いってらー。


 もう一度サウナを浴びてお仕舞いとし、水を浴びてさっぱりする。


 着替えて館に向かい、食堂でアイスをもらって食べた。あー美味しい。


「あ、ねーちゃん。タカトが部屋にきてくれってさ」


「ゴブリン駆除?」


「ううん。あたしらにワイニーズ討伐しないかだって」


 ワイニーズ? あ、空を飛ぶトカゲか。まあ、こっちにはマンダリンがある。討伐くらい問題はないか。


「いいね。おもしろそうだ」


 まだマンダリンの操縦は下手だ。練習がてら討伐するのもいいかもね。

 

 メビについて会議室にいくと、タカトの他にミリエルねーちゃん、シエイラ、昨日きたにーちゃん、エルフのアリサがいた。


「休みと言っておいて悪いな」


「暇だし、全然構わないよ」


 そう答えて空いてる席に座った。


「さっそくだが、ビシャをリーダーにワイニーズ討伐を任せたい。やってみるか?」


「あたしがリーダー?」


 え? どーゆーこと?


「ああ。まだビシャには早いと思うが、別に失敗しても構わない依頼だ。訓練だと思ってやってみないか?」


「失敗してもいいの?」


「そのときはラダリオンにやらせるよ。巨人を何人かつけさせたらすぐに終わるだろう」


 まあ、ラダリオンねーちゃんなら一人でもすぐ終わらせちゃうかもね。あの大きさで散弾とかぶち撒けたら大抵の魔物は瞬殺だし。


「わかった。やるよ」


 群れのリーダーとかあたしにできるかわからないけど、タカトは失敗しても怒らない。それどころか取り返せる失敗ならいくらでもしろって言っている。成功より失敗のほうが学ぶことができて、先に活かすことができるってね。


「リーダーはビシャ。メビ、ミルド、アリサ他五人だ。誰か連れていきたいならビシャの判断に任せるよ」


「わかった」


「じゃあ、今からビシャに任せる。いついくか、どうするかはビシャたちで決めろ」


 解散と、タカトが会議室を出ていった。


「ミリエルねーちゃんもいくの?」


 さっきタカトが言った中にいなかったけど。


「わたしはタカトさんの代わりに見届ける役ね。これからゴブリン駆除以外のことも頼まれてくるだろうから、わたしがサブマスターとしてそれ以外を仕切ることになったのよ」


「タカトと一緒にやれないの?」


 と、メビ。


「大量発生したときは皆で当たるわ。それ以外は各自で当たるだけよ。あれもこれもタカトさんに任せてはいられない。些事はわたしたちで片付けるわ」


「さじってなに?」


 ミリエルねーちゃん、たまに難しい言葉を使うからわかんないんだよね。


「ささいな問題ってことよ。わざわざタカトさんが出なくてもわたしたちで片付けられる依頼はわたしたちで片付けるわ」


 まあ、タカトならすぐ片付けちゃう依頼か。これまでワイニーズ以上のものと戦って、怪我一つ負ってないしね。


「わたしたちはタカトさんの邪魔になってはいけないわ。守れるだけの力を身につけるべきよ」


「タカト、すぐ無茶して死にそうになるしね」


 軽口を言うメビの頭を小突いた。


「それはあたしたちが後ろにいるからだよ」


 これだから下の子は面倒なんだよ。姉のがんばりを理解できないんだから。


「ビシャの言う通りよ。タカトさんが無茶をするのはわたしたちを守っているから。ゴブリン駆除に引き込んでしまった負い目からよ」


 それはカインゼルのじーちゃんから言われてた。


 タカトの負い目になるな。負担になるな。タカトは優しいからすべてを抱え込む。自分の責任だと思うって。


 とーちゃんやかーちゃんがあたしらを守るために死んだように、タカトもあたしらを守るために命を懸けてる。


 ゴブリン駆除員は短命らしい。長くても五年しか生きられないって話だ。別に決まった命じゃないけど、タカトを見ていればわかる。あんなことばかりしてたら長生きなんてできない。いつか必ず死ぬ。逆にあれだけのことがあって生きているタカトが凄いけど。


「うん。さじはあたしたちが片付けるよ」


 群れでは役目がある。タカトが群れを率いるのが役目ならあたしの役目はタカトのさじを片付けることだ。


「あたしも! さじを片付けるよ!」


 メビも席を立って叫んだ。


 まったく、調子いいんだから。けどまあ、あたしにできることは少ない。メビと一緒なら一人前にはなるでしょうよ。


「ええ。では、概要を説明するわ」


 がいようってなんだ? と思いながらミリエルねーちゃんの話を聞いた。

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