第540話 スラム
そこは、俗に言うスラムってところだった。
アシッカから帰るときに見ているはずなんだが、あったことすら記憶にない。興味ないと認識できないとかスゲーよ。
「こんなに住めるところなのか、マイヤー男爵領って?」
コラウスでもアシッカでも大雪だった。なら、マイヤー男爵領だって大雪だったはず。なのにバラック小屋は潰れてない。どんな魔法を使ったんだよ?
「意外と安全みたいで、難民がよく流れてくるそうです。ただ、仕事はないので、力のある者や特技がある者はコラウスに向かうみたいです。コラウスにいけば食っていけるとウワサされているみたいですね」
そう言えば、ミリエルも回復魔法で食べていこうと隊商に乗せてもらったとか言ってたな。その頃はまだ金があって体力があったそうだ。
……両脚をなくしたのは国でのことらしいよ……。
まあ、町の周りは畑。所々林があってワイニーズが狙うには難しいし、隊商には冒険者が護衛としてついている。魔物にしては生き難くはある、か?
「よく冬を越せたな」
「モリスの民は魔法が使える者が多いので、金を出しあって熱の魔石を買って、なんとか越えたようです」
だったら魔法を使って働けば、なんて思うのはオレがなにも知ってないからだろうな。できたらやっている。やれてないのはやれてない理由があるからだ。
特に社会保障もない時代。誰も助けてはくれない。弱い者は弱いまま。いや、さらに弱くなっていくだけ。そして、死んでいくだけだ。
「お前たちが食料を渡しているのか?」
「はい。ですが、数が数なので充分いき渡るほどには至っていません」
オレのようにゴブリンの気配がわかるわけではない。隠れるのが上手いゴブリンを探すのは大変だろう。五人で四十人以上を養うのは難しかろうよ。
「モリスの民以外にもいるのか?」
ざっと見ただけでも二、三百人はいそうだ。どうやって食っていけているんだ? マイヤー男爵の町はそこまで大きくはない。残飯漁るところもないだろう。山菜でも採っているのか?
「はい。どこからか流れてきたヤツが多いです。おれらモリスの民は新参なので端のほうに固まっています」
こんなところでも序列があるようだ。世界は違えど人間は人間ってことか。もっと賢いように創造できなかったのか? 神、無能。
モリスの民がいるところは確かにスラムの端にあり、横には汚物の山があった。
不衛生ってレベルじゃない。人が暮らしていい場所じゃないだろう。よく生きていられるな……。
「今すぐモリスの民を移動させるぞ。動けない者は協力して運べ。雷牙。ホームからリヤカーを持ってきてくれ。なかったらミサロに買ってもらえ」
「わかった──」
その場でホームに入る雷牙。もっと人の話を聞くように教育しないといかんな~。
雷牙がホームに入った場所を靴先で❌印をつけて誰も入らないように伝えた。
「最低限の荷物だけでいい。必要なものはこちらで揃える。ここから移動させることを優先させろ」
モリスの民のためではなくオレのためだ。この臭いを嗅いでいるだけでオレのHPが削られていくよ。
「──タカト! リヤカーないからミサロに買ってもらってる」
雷牙がすぐに出てきた。キャリーカートに五百ミリリットルのスポーツ飲料の箱を積んで。さすがミサロ。気が利く。
「まずは街道沿いに移動させるぞ。雷牙はリヤカーを運び出してくれ。とりあえず五台あればいい」
今度は頭に手を乗せ伝え、終わったらポンポンと叩いた。
リヤカーを一台二台と出てきたら動けない者を乗せて街道沿いに向かった。
「雷牙はここにいて、連れてきた者にスポーツ飲料を飲ませろ。文句を言ってきたものは倒してかまわない。守れ」
「わかった! 任せて!」
うんとにっこり頷き、スラムに戻った。
ここにいるモリスの民と関係を結んでいたようで、元奴隷の男の説明に耳を傾けてくれ、文句も言わず従ってくれた。
一時間くらいで運び終わり、胃を刺激しないコンソメスープを薄くして飲ませた。
ホームからパイオニア一号とテントを運び出し、安全な場所で眠らせた。
「ここで名前を変えているのか?」
元奴隷の男にそれとなく名前を尋ねた。
「冒険者のロイズと名乗っています」
偽名か。まあ、落ち着いたら本名を調べるとしよう。
「わかった。ロイズ。とりあえずこれで古着屋から服を買ってこい。食料もだ」
銀貨を五枚渡した。いきなり金を使うと変なのが寄ってくるかもしれないからな。全員分を揃えるのは他の請負員が戻ってきてからだ。
「わ、わかりました」
「誰か元気なのを連れていけ。結構な量になるかもしれないからな」
予備のリュックサックを二つ取り寄せて渡した。
ロイズが町に向かったら雷牙に薪を持ってきてもらい、焚き火を起こした。
「動ける者は弱っている者を守れ」
予備のマチェットを取り寄せ──られない。そういや、ニャーダ族に出したんだった。
「雷牙。ミサロにマチェットを買ってもらってくれ。とりあえず十本でいい」
動けそうな男が六人くらいいる。十本もあれば足りるだろう。
「わかった。伝えてくる──」
また雷牙がホームに入った場所に❌印をつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます