第539話 オレが歩けばトラブルに当たる
「おや。久しぶりだね。何年振りだい?」
魔石屋にきたらミシニーを見て懐かしそうに微笑むジュリアンヌ。その表情からかなり深い関係がありそうだった。
「ああ。そうだね。本当に久しぶりだ。随分と老けたものだ」
「あんたは相変わらず……いや、そうでもなさそうだ。長生きのエルフも変わるんだね」
その目はオレに向いていた。意味ありげに見ないで。
「そうだね。わたしも自分の変化に驚いているよ」
だからオレを見ないで。そんな風に見られても上手い返しができないんだからさ。
「昔話がしたいならオレは席を外すよ」
リュックサックからオーグの魔石とワイニーズの魔石を三つずつ出した。山黒のは山崎さんに渡します。
「ふふ。昔話よりまずは商売だ。オーグにワイニーズかい。ってことは、カンザニアに巣くったワイニーズは倒したってことかい?」
「ええ。オレの仲間たちが倒しました。もう一匹もいませんよ」
仮に生きていたとして、群れとしての形は壊れている。また人間を襲うまでには数年は必要だろうさ。
「さすがだね。ワイニーズがいると商売もできなくなるから助かるよ」
「こちらも魔石を得られたからよかったです。ちょっと入り用になったので」
ミサロの話ではとても助かっていると山崎さん自筆の紙がついているそうだ。
「こちらにも回してくれると助かるよ。前回の魔石が高く売れたからね」
「ワイニーズの魔石に需要はあるんですか?」
「船を動かすのによく使われるね」
「船? 帆に風でも当てるんですか?」
魔法の道具はない。なら、風を当てるくらいしか思いつかんよ。
「ああ。海を渡る船には必須さ。この大きさで金貨三十枚で取引されるよ」
金貨三十枚? 一枚十万円だとしても一個三百万円かよ! 一個で足りると思わないから、一回の航海でうん千万円とかかりはそうだな。
「そんなに緑の魔石って手に入らないものなんですか?」
「空を飛ぶ魔物に多いからね、いつも不足しているよ」
まあ、そうだろうな。オレらはマンダリンがあったから楽に倒せたが、普通に倒そうと思ったら地上にいるときに襲うしかない。山頂に巣を作る相手を襲うなんて至難としか言いようがないよ。
「資金があるならもう少し増やしますよ?」
「いや、これでいいよ。もっと集めろと言われるのも面倒だからね。売りたいなら大きな街で売るといいよ。ここより高く買取ってくれるよ」
そうか。なら、ワイニーズの魔石は残しておくか。またミヤマラン公爵領にいくかもしれないしな。
「魔石の代金だ。確認しておくれ」
カウンターの下から金貨と銀貨を出した。
なかなかの量になるな。数えるのが面倒だわ。
作業鞄を取り寄せ、数えることなくつかんで入れた。管理するのも大変だな、こりゃ。
「次回はゆっくりきておくれ。さすがに資金を集めるのも大変なんでね」
「わかりました。秋くらいにまたきますよ」
海にいった帰りにでも寄るとしよう。
「では、それまで元気に生きててください」
「ふふ。楽しみに待っているよ」
ジュリアンヌさんに見おくられて魔石屋を出た。
「ミシニー。昔話に花を咲かせてもいいんだぞ。オレらはもう帰るだけだしな」
高級ワインを取り寄せて、ミシニーに差し出した。
「ライガ。タカトの側から絶対に離れるなよ。タカトは一人にすると大変な状況に陥るからな」
「わかった、任せて!」
なにか吹き込まれたのか、やる気全開な雷牙。二人なら大変な状況にならないとは限らないだろう。
まあ、なにを言っても説得力がない。事情、一人でいると大変な目に遭っていることのほうが多いんだからな。
町の外に向かって歩いていると、請負員の気配を感じた。
……これは、奴隷だったヤツの気配か……?
請負員が増えすぎてあまり感じない気配は誰だったか忘れてしまうことがあるが、誰だっけ? って思うことが奴隷だったヤツの気配だとわかった。
あちらもオレの気配に気がついたようで、こちらに向かってきた。
オレもそちらに向かっていると、冒険者風の格好だが、腰にホルスターをつけた男が曲がり角から現れた。
「マスター!」
「ご苦労さん。一人か?」
「はい。仲間はゴブリン駆除に出ています。おれは食料調達にきました」
そういや、ちょこちょこ報酬が上がっていたな。これってマルスの民が原因だったのか。
「マイヤー男爵領には何人いるんだ?」
「五人です。今は貧民区に居を構えています」
「貧民区? なんでまたそんなとこに?」
ゴブリン駆除をしすぎて宿代を稼げなかったのか? それでもやりようはあるのに、奴隷生活が長くて思いつかなかったか?
「モリスの民が住んでいるんです。四十人もいるので動くことができなくて、駆除も交代でやるくらいで……」
確かに五人で四十人を養うのは大変だな。
「わかった。案内してくれ。その四十人をコラウスに移動させるぞ」
馬車を売ってしまったのは失敗だったが、パイオニアを使えば半日の距離。トレーラーを牽いても一日で七人は運べるし、輸送部を呼べば三日もかからず移動させられるさ。
でも、まずは状況を見てからだ。
「はい。こっちです」
案内された先は城壁の外。アシッカ方面のバラック小屋が立ち並ぶところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます