第541話 パイオニア五号(六人乗り)

 一段落してホームに入ったら、タイミングよくミリエルがいた。


「ミリエル。今どこにいる?」


「館です。ニャーダ族の世話をしています。マンタ村は引き上げました」


 さすがミリエル。すぐに理解して必要な情報をくれるよ。


「マイヤー男爵領でモリスの民を保護した。ニャーダ族の世話を誰かに任せてマイヤー男爵領にいって欲しいんだ」


「わかりました。職員かドワーフの奥様方にお願いしてきますね」


 ほんと、話が早くて助かるよ。


 ミリエルが出ていったら七十パーオフシールを使って六人乗り用のパイオニアを買った。


 車体が長く、峠辺りが少し厳しいが、馬車よりは小さい。前からこなければ問題ないだろうよ。


 次に八百円くらいのクロックスをLMSと適当に五十足買って荷台に放り込んだ。


 他に細々としたものを買っていると、雷牙が鼻を押さえながら入ってきた。


「タカト。あいつら臭い」


 あ、雷牙も嗅覚はよかったんだっけ。オレですら辛いんだから雷牙はそれ以上だろうよ。


「ミリエルを送るから雷牙は館に出てビシャたちとゴブリン駆除をやってくれ」


 ビシャとメビは雷牙を陰で助けていたそうだ。そのお陰で雷牙は生きられ、仲間たちのために身を張れたそうだ。


「いいの? ミシニーに一緒にいろって言われたけど……」


「ミリエルがいるから大丈夫だよ。雷牙はたくさんゴブリンを駆除してくれ。頼りにしているぞ」


 雷牙の頭をわしわしする。やっぱこいつ、毛並みいいよな。ずっと撫でていたいよ。


「うん! 任せて! いっぱい駆除するよ!」


「がんばるのはいいが、無理はするなよ。なにより優先するのは自分の命だ。自分の命を犠牲にするな。勝てないと思ったら仲間と逃げろ。必ずオレが助けにいく。それまで絶対に死ぬな。絶対にだ」


 雷牙の目線になり、無茶をしないよう言い含めた。


「……わ、わかった……」


「うん。それでいい。安全第一、命大事に。それがセフティーブレットの決まりだ。駆除員が見本とならないと請負員に示しがつかないからな」


 雷牙にどこまで通じるかわからないが、こちらが真剣だと伝える。それがわかってくれれば充分だ。ビシャとメビがいたらそう不味い状況にはならないだろうからな。


「ミリエルが戻ってきたらダストシュートしてもらう。カインゼルさんの指示に従え」


 マンタ村を引き上げたのならカインゼルさんも戻ってきている。指示は出してないが、オレの代理として動いてくれるだろう。セフティーブレットの精神的柱だからな。


 ミリエルが入ってきたので雷牙をダストシュートしてもらい、また入ってきてもらう。臭いからシャワーを浴びさせるためにな。


「ニャーダ族の面倒を見てもらえたか?」


「はい。ドワーフの奥様方が引き受けてくれました」


「仲良くやってくれることを願うよ」


 種族同士の争いとか勘弁して欲しいからな。


「大丈夫ですよ。女神の使徒、と言うことが役に立っていますから」


「不本意でしかないが、利用できるなら利用していくしかないか。暮らしが安定して、コラウスが多種族が住む地となってくれたら争いも起こらないだろうからな」


 まあ、それで平和になることはないだろうが、オレが生きている間は平和であってくれたらそれで構わない。何百年先までオレが責任を持つ義務はないんだからな。平和に生きたいならその時代に生きる者ががんばれ、だ。


「よし。マイヤー男爵領にダストシュートするな」


「はい」


 ってことでミリエルをダストシュート。オレはパイオニア五号に乗って外に出た。


「ミリエル。怪我をした者や病気の者を頼む。オレはお湯を沸かすから」


 まだ夜は寒い。いきなり体を綺麗にしたりすると風邪を引いてしまうだろう。まずは顔や手足を綺麗にさせて慣れさせるべきだろうよ。


 盥に水を入れてヒートソードで沸かした。


「汚れた顔と手を洗え。寒いと感じたら火に当たれ」


 タオルを濡らして固く絞り、モリスの民に渡して顔を拭かせた。


 そうこうしていると買い出しに出たロイズたちが戻ってきた。


「明日、移動する。まずは元気な者を五人、コラウスに運んで受け入れ体制を整えてもらう。請負員も一人連れていくから選んでくれ」


「わかりました。夜には帰ってくると思うので選びます」


「よし。買ったものは移動するヤツに着させろ。食料は買えたか?」


「はい。パンと芋が買えました」


「じゃあ、茹でて晩飯としよう。誰か手伝ってくれ」


 モリスの民の女が手伝ってくれ、芋を茹でたら塩をかけて皆に食べさせた。


 インスタントのコーンスープも出してやり、ほどよく腹を満たしてやった。


「タカトさん。病気になっている者がいたので回復薬を飲ませていいですか?」


「ああ、構わないよ。回復薬小でいいか?」


 そう重傷者がいた様子はなかった。回復薬小で充分だろう。回復薬小の瓶を取り寄せてミリエルに渡した。


「ロイズ。動ける男を三人集めろ。枝を取りにいく」


 パイオニア五号の慣らしついでに焚き火用の枯れ木や薪になる木を集めてくるとしよう。


「わかりました! ミグ、ロットス、ニゴ、マスターについていけ」


 ロイズに名前を呼ばれると、若い男が集まってきた。


「マスターの命令に従え。モリスの民を導いてくれる方だ。なにかあれば身を呈して守れ」


 いや、そこまでしなくていいよ! と言う雰囲気ではないくらい三人がマジな顔でロイズの言葉に返事をした。


 前から思っていたが、モリスの民って重くないか? 律儀とか義理堅いとかのレベルじゃないよね? 


「ま、まあ、ほどほどでいいからな。さあ、これに乗れ」


 パイオニア五号の後部ドアを開け、三人を座らせた。


 オレも運転席に座り、ちょっとレイアウトに戸惑いながらもエンジンスタート。2WDにして発車させた。

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