第460話 移動販売
なんかいろいろ教育に使われた感はあるが、親になったことがないオレにどうこう言える言はない。肩を竦めるだけにしておいた。
「じゃあ、オレはいきます。ミルドはこのまま連れてっていいんですか?」
荷物らしい荷物は持ってないが。
「ああ。このまま連れてってくれ」
ロズさんがどこからか現れて荷物をミルドに渡した。いたの!?
「わかりました。ミルド。いくぞ」
「はい! よろしくお願いします!」
城の門までサイルスさんや領主代理がついてきて、息子の門出を見送った。親とはこういうものなんだな~。
「ミルド。ちょっと冒険者ギルドに寄るな。ワイニーズの討伐依頼を受けなくちゃならないんでな」
「おれ、冒険者ギルドにいくの初めてです」
「ずっと城で生活してたのか?」
「はい。たまに師匠が外に連れってくれます」
確かエルフの師匠だっけか? まあ、ハーフエルフの……なんだっけ? 名前を忘れたが、種族差別はしないのがこの地のいいところだよな。
どんな修業をしていたのかを聞きながら冒険者ギルドに到着。スッゴい久しぶりだな~。
暖かくなって冒険者たちも戻ってきたのだろう。出稼ぎ冒険者も相まって大混雑していた。
どうしたもんかと悩んでいたらシエイラと一緒にいた女性職員が近づいてきた。
「タカトさん。お久しぶりです。帰ってきていたんですね」
「ええ。昨日帰ってきて領主代理に挨拶してきました。ギルドマスターはいますか?」
確か、ロイド・マスターグさんだったはず。白髪の初老の。
「はい。二階におります。どうぞ」
女性職員に案内され、ミルドを連れて二階に上がった。
「マスター。タカトさんがきました」
「入ってくれ」
中から声がして女性職員にドアを開けてもらった。
「あ、これ、差し入れです。皆で食べてください」
また囲まれたらたまったもんじゃない。先に貢ぎ物(贈答用クッキー)を取り寄せて差し出した。
「ありがとうございます」
いい笑顔で立ち去る女性職員。明鏡止水で見送ったら部屋に入った。
「お久しぶりです」
「ああ。報告はそちらのギルドから聞いている。なかなか大変だったようだな」
「はい。生きて帰ってこれたことが奇跡ですよ」
「確かにな。しばらくはコラウスにいられるのか? またゴブリンが出始めたようなのだ」
「春の間はいます。それと、マイヤー男爵様にワイニーズの討伐依頼をお願いされたのでセフティーブレットとして受けさせてもらいます」
マイヤー男爵領でのことやワイニーズ討伐をギルド員に任せることをロイドさんに語った。
「なるほど。こちらとしては問題ない。ワイニーズの討伐など金印の冒険者じゃないと無理だからな。受けてくれるならありがたい」
今、金印の冒険者は二人しかおらず、その金印はミロンド砦に詰めて魔物を狩っているそうだ。
「依頼はこちらで処理しておくよ」
「お願いします」
「で、そっちの若いのは?」
「サイルスさんと領主代理の息子さんです。セフティーブレットで預かることにしました。ワイニーズ討伐にも参加させます」
「やはりか。どおりで顔がミシャード様に似ていると思ったよ」
誰が見てもそう思うんだな。
「ミルド・ミシャッドです。よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそよろしく頼む。タカトの下でよく学ぶといい。下手な冒険者に学ぶよりタカトに学んだほうが生き残れるだろう」
「はい。母や父からも言われました。タカトさんに学べと」
「フフ。さすがわかっているお二方だ」
オレにはさっぱりですがね。
「オレたちはこれで失礼します」
「ああ。そうだ。酒と紅茶を売ってくれないか? そちらに買いにいかせているが、他の職員に知られるといろいろ不味いんでな」
一人だけ上手いことやってますね~。とか女性職員に囲まれたらオレならショック死するな。
「今度、ギルド職員だけに移動販売しますよ」
「そうしてくれると助かる。こそこそ買いにいかせるのも大変なんでな」
フフ。ギルドマスターもわかっているようだ。
銀貨一枚分の酒と紅茶を取り寄せた。あまりいっぱい出すと職員にバレそうだからな。
「職員にはそれとなく告知しておいてください」
「ああ。早々に頼むよ」
わかりましたと冒険者ギルドをあとにした。
さあ、館に帰るかと、冒険者ギルドの横にある広場に向かったら徴税人たちに囲まれてしまった。
……そ、そうだった。冒険者ギルドの横は徴税人たちの巣窟だった……。
思い切り油断していた。いや、完全に忘れていたよ。オレ、マヌケすぎ!
「おじさん、久しぶり!」
「お、おう。元気にしてたか?」
いや、問わなくても元気なのはわかるけどさ。なに? 随分と肥えてない?
「うん! 毎日食べられてるから!」
「それはなにより。お恵みをもらえているのか?」
「うん! マルティーヌ一家ってところがお恵みをくれるの!」
マルティーヌ一家? コラウスの反社会的勢力か?
「またなぜ?」
「おじさんに言われて街を探っていたら声をかけられて、なにしているか教えたらお恵みをくれるようになったの」
なるほど。オレがやろうとしていることを察したわけか。なかなか鋭いヤツがいるな。オレに取り入るために子供たちを繋ぎとしたわけか。
「今度、その人に会ったら挨拶がしたいと伝えてくれ。これはその報酬だ」
大銅貨一枚を出して徴税人に握らせた。
「任せて!」
さらに銀貨一枚を出して箱に入れた。
「今日は忙しいから話はまた今度な。そのときに報酬を渡すよ」
さすがに早く館に帰ってゆっくりしたい。まあ、できそうもないけどな。
「わかった!」
「それまで元気でいろよ。ミルド、いくぞ」
ここではパイオニアを出せそうにないので街の外まで歩くことにした。
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