第551話 北側開拓

「確か、ここでゴブリンを駆除したの秋だっけか?」


 八ヶ月前くらいだからさすがにゴブリンの死骸はなくなっており、自然豊かな光景が広がっていた。


 ……骨は残ると思ったんだが、流されたか……?


「あそこに野営しようか」


 さすがに河原で寝るのは辛い。土があるところにしよう。


 キャンプ用品をホームから運んで皆で設置した。


 ミリエルと一緒にキャンプ用品の使い方をロイズたちに教えていると、隊商のヤツらが川で水汲みを始めた。


「随分と水を汲んでいくんだな?」


「馬の水でしょう。馬はたくさん水を飲みますから」


 へー。そうなんだ。エサも運ぶとか大変だな。


「そこら辺の草を食べさせたらダメなのか?」


「この辺に馬が食えるような草はありませんから運んできていると思いますよ。馬の体調が悪くなれば荷物を捨てることになりますからね」


 そうなんだ。この世界の流通は大変だ。


「ここに宿とか建てたら儲かりそうだな」


「さすがに無理ですよ。町から離れてますし、いろいろ運んでくる必要もありますからね」


「ミリエル。シエイラにここはコラウスの領地か訊いてきてくれるか?」


「それだけでいいんですか?」


「ああ。ここがコラウスの領地ならセフティーブレットが借りて支部的なものを造らせてもらうよ。ここら辺はゴブリンが多いしな」


 セフティーブレットには輸送力がある。隊商が道を塞いでなければラザニア村から三時間で着ける。毎日でも運べるだろうさ。


「わかりました。訊いてきます」


 ホームに入り、十分くらいで戻ってきた。


「峠までコラウスの領地みたいですよ。なんでも橋を管理していることで領地と主張できるみたいです」


「へー。そうなんだ。そういや、橋は頑丈に造られていたな」


 橋が当たり前すぎて気にならなかったが、思い返せば頑丈に造られていたっけ。だったら道もよくしろよって話だ。


「広場の北側を拓いて家と馬小屋を建てるか」


 さすがに広場を独占できないし、北側なら文句は言われんだろうよ。


 陽が暮れてきてマーダたちも戻ってきたので夕飯の準備を始め、交代順番を決めたらその日は終わりとした。


 ゴブリンや魔物が現れることなく朝を迎え、隊商が動いている音が聞こえてくる。


 一応、挨拶しておくかと広場に向かい、隊商の元締め的な人を捜した。お、いたいた。


「おはようございます。天気がよくてなによりですね」


「はい。こんな天気がいいのは久しぶりです。魔物の襲撃もありませんでしたから今回の商売は上手くいきそうですよ」


「上手くいくことを願ってますよ」


 朝飯を軽く済ませると、隊商は出発していった。ほんと、この世界の流通は過酷だよ……。


 のんびり朝飯を食ったら広場の北側に移動し、全員で伸びた草を刈っていった。


 ニャーダ族の働きが凄くて十時前には粗方草を刈ってしまい、水分を飛ばして燃やした。


 もちろん、山火事にならないよう皆で見守り、火が消えたら水をしっかりとかけました。


 乾くまで休憩と昼飯とし、十四時くらいになったら巨人になれる指輪を使って木を引っこ抜いていった。


 三十分くらいするとぐぅ~っと腹の虫が鳴った。


 すぐに作業を止め、栄養剤を一粒飲む。腹の虫は収まったが、空腹感は続いている。一粒では満杯にならなかったってことか。


「まあ、三十分も動けたら充分か」


 チートタイムのように命を削ることもない。三十分も巨人になっている状況なんてそうはない。あるなら最初からラダリオンにお願いするわ。


「ミリエル。ちょっとホームに入って食事してくるからあとを頼む」


「はい。枝を払っておきます」


 よろしくとホームに入り、デカ盛り料理を買って空腹感がなくなるまでかっ食らった。


 一時間ほど食い続けると空腹感が静まってくれたので巨人になれる指輪を外した。残りの時間は枝払いだけだしな。


 斧やビニールシートを抱えて外に出ると、なんか掘っ立て小屋が建てられていた。はぁ?


「ニャーダ族の方があれよあれよと建ててしまいました。薪を保管する場所だそうです」


 ポカーンとして見てたらミリエルがやってきて教えてくれた。

  

「皆、器用だな」


 オレも結構器用なほうだと思うが、日頃からやっているヤツには勝てんわ。


 キャンプ用品をこちらに移し、パイオニア五号とトレーラーを出した。ここじゃ薪を消費できんし、館に運ぶとしよう。


「今日は酒を飲んでいいぞ。見張りはイチゴにやらせるから」


 朝からがんばってくれたしな、酒を飲ませてやるとしよう。


「ん?」


 川向こうにいるゴブリンの気配が恐怖に変わった。


「どうした?」


「なにかきた。川向こうだ」


 すぐに武器を取り、ニャーダ族が前衛に出た。

 

 プランデットをかけ、振動センサーに切り替えた。


「体長四メートルくらいある四足歩行の生命体だ。その背後に小さい反応がある」


「今の時期なら灰熊だ。食い物の臭いに釣られてやってきたのだろう」


「厄介な熊か?」


「問題ない」


 ニャーダ族の男たちがマチェットを鞘に戻し、薪割り用の斧をつかんだ。


「おれたちでやる」


「わかった。任せる」


 殺る気満々の獣人の中に入るのは危険だかな。大人しく見ているとしよう。


 一応、周囲を警戒するよう皆に伝え、オレはタボール7を取り寄せた。

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