第552話 特攻野郎ニャーチーム

 オレの出番まるでナッシング~。ニャーダ族の男たちが五分もしないで灰熊を狩ってしまった。子供二匹も、な。


 まあ、別に最前線に立ちたいわけでもなければ、子供を殺しても酷いも思わない。これがオレの求めたことなんだからな。


 とは言え、体が鈍るのはいただけない。微々たるものでも積み重ねてきた戦いの感覚を失うのも困る。いつ最前線に立たされるかわからないのだからな。


 ……あのダメ女神をオレは一切信じない……。


 ある意味、絶対の信頼を寄せているようで嫌だが、あのダメ女神はオレをとんでもない苦境に立たせる。まるでオレが絶体絶命になるのを楽しんでいる節があるのだ。


 そのときがくる前に自分を鍛え、備えなければいけない。現状に甘えたらオレの人生はそこで終了だ。どんなに周りに壁ができようとも最前線にいる気持ちを持ち続けていないと危険だわ。


 首のない灰熊を運んできたニャーダ族の男たち。まったく息切れも起こしていない。こんな種族を捕まえる方法が気になって仕方がないよ。


「これ、食えるのか?」


「あまり美味くはないが、貴重な肉だからな。あますことなく食っていたよ」


 元の世界でも熊肉はあったけど、あますことなく食べる環境ってのは辛すぎるよな。オレなら早々に自然淘汰されていることだろうよ。


 灰熊の首から血を抜く。あとの解体はニャーダ族に任せた。やり方知らんし。


「子供も食うのか?」


 いつの間にか運んできた灰熊の子供。体長一メートルくらいあるよ。


「ああ。まだ肉が臭くないからな。ご馳走だ」


「さすがにここじゃ食い切れんし、館に運ぶとするか。ニャーダ族の女なら調理はできるんだろう?」


「問題ない。ミリエルから調味料をもらったから美味しく作るだろう」


 どうやらニャーダ族の女は料理上手のようだ。ミサロと話が合うかもな。


「ミリエル。肉を運ぶぞ。ニャーダ族の女たちに説明してくれ。終わったら休んでくれ。明日の朝、またダストシュート移動させるから」


 なんだかんだと受け入れた者たちの窓口ってミリエルなんだよな。オレやミサロよりスムーズに伝えらるだろうよ。


「わかりました」


「よし。調理しやすいように肉を捌いてくれ」


 そう指示を出して肉を捌いてホームに運び込んだ。


「あ、内臓とかはゴブリンを引き寄せるエサにするよ。かなりの数が集まってきてるからな」


 もうエサが豊富な時期だと思うのに、血の臭いに集まってきたのだろう。ニャーダ族と同じくゴブリンも厳しい環境下で生きている。ご馳走があれば寄ってもくるだろうさ。


「恐らく狂乱化するかもしれない。今日は徹夜になるぞ」


「だからミリエルを帰したのか?」


「ミリエルがいるとオレたちの出番がなくなる。お前たちは女の陰に隠れて楽したいか?」

 

 オレは楽をしたい! なんて言ったら野郎どもから総スカンを食らうだろうよ。そんなこと本気でも言えんでしょう。


「不満か?」


 ニヤリと笑って見せる。


「いや、不満などない」


「夜はオレたちの時間であり、オレらの獲物だ。狩り尽くすぞ」


 ニャーダ族だけじゃなく、モリスの民の男たちもニヤリと笑い返してきた。


 EARを取り寄せてロイズたちに渡し、扱い方を教えた。


「ニャーダ族は遊撃。外側から狩り尽くせ。一匹も逃すな。モリスの民は狙って撃て。全体の把握はオレがして、撃ち漏らしはオレがやる。食う暇も寝る暇もないと思え、神の戦士たちよ」


 ダメ女神でなく、どこかにいる慈愛と幸福の神のご加護があらんことを。あ、オレはいりませんのであしからず。


 やる気を与えるために言ったつもりだったのに、なぜか殺る気を燃え上がらせてしまった。ちょっと煽りすぎたか?


 まあ、男なんてこんなもの。気持ちよく駆除してくれるならオールオッケーだ。


 辺りはすっかり暗くなったが、こちらは文明の利器がある。内臓を広場にばら撒いた。


 オレたちは一旦、西の崖、ロースランが棲み家としていた洞窟に身を隠した。ここなら広場を見下ろせて狙撃も簡単。オレも駆除に参加できる。


「最初のが広場に出てきた。マーダ。そちらの指揮は任せる。広場には入るなよ。そこはオレたちの獲物だ」


「フッ。外に出たらおれたちがもらうからな」


 戦いや狩りに身を置いているヤツは、同じ戦いや狩りに参加すると仲間意識が芽生えるようだ。少し砕けてきたよ。

 

「ああ。精々、広場に追いやってくれ」


 憎まれ口に憎まれ口で返してやる。こういうタイプは同等に扱うほうが上手くいくからな。


「フフ。言ってろ。すべて狩り尽くすぞ!」


 崖を下っていくマーダたち。とんだ特攻野郎どもだよ……。


「ロイズとノッドは北側。ローガーとラルは南側を攻めろ。ペルカとオレは待機。弾切れしたら交代だ」


 ゴブリンが三方から押し寄せる。


 強い臭いがここまで流れてくる。狂乱化した証拠だ。


「撃て!」


 四丁のEARから魔弾が吐き出され、次々とゴブリンが天に召されていった。


 しかし、こんな渓谷によくこんだけ数が集まるものだよな。魚でも捕れるんだろうか? 


「弾切れました!」


「こちらもです!」


 おっと。考え込んでいる場合ではなかった。


「ペルカ、中央を狙え!」


「はい!」


 EARを構え、オレは川側にいるのを狙って引き金を引いた。


 ───────────


 公開予定が一日ずれることがたまにある。ごめんなさい。

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