第553話 (*`・ω・)ゞ *57000匹*

 ──ピローン!


 鳴るとは思ったのでなんの感情もなく受け止められた。


 ──五万七千匹突破おめでと~! 最速駆除数四位に上昇だ! イェーイ! パフパフパフー!


 四位? あーなんかそんなこと言ってたな。五万七千匹も駆除して四位とか、上の人の成功例を教えて欲しいもんだ。いや、失敗例のほうがいいか。ダメ女神に無理矢理連れてこられた哀れな被害者たちのほうが生きる知恵となるわ。


 ──ちなみに一位は二十八万匹ですね。火山を噴火させて約二十万ものゴブリンを駆除しました。まあ、周辺都市も巻き込まれて三百万人の命も道連れにしましたけどね。


 最悪だな! よく駆除員が恨まれなかったもんだよ! 歴史に残っていたらこちらが狩られる立場だったわ!


 ──歴史を残す者がいなかったから大丈夫です。


 なに一つ大丈夫じゃねーよ! 逆に歴史に残さなきゃダメなことだよ! そんな愚行は! 


 とんでもねぇ駆除員がいたものだ。つーか、そいつも巻き込まれて死んだよね? 生きてたらオレが殺してやるよ! そんな大罪人!


 ──まあ、仕方がありません。ゴブリン女王が創り出した国を消滅させる手がそれしかなかったのですから。よくやってくれたと、その方を平和な国に転生してあげたほどです。あ、生き残ったゴブリン騎士が何匹かいるのでご注意を。ゴブリン王、孝人さん的には首長が可愛く見えるほどですから。


 はぁ? 首長が可愛く見えるほどだと?


 ──まあ、さすがにそんなゴブリンを一匹と数えるのは酷なので、首長レベルのゴブリンを倒したときは報酬を百万円としましょう。騎士レベルを倒したら一千万円としますね。


 首長レベルが百万円で騎士レベルは一千万円? それ、首長レベルの十倍強いと言っているようなもんじゃねーかよ! 完全に山崎さんが担当するべき案件だよね!


 ──強いとは言え、ゴブリンはゴブリン。愛と勇気を友達にしてがんばってください。孝人さんならいけますって。


 いけねーよ! 完全に自己犠牲に走れって言ってるようなもんだろうがよ! オレは顔を換えるだけで完全復活はしねーんだよ! 


 ──(*`・ω・)ゞ 


 グッドラック! って顔文字が送られてきた。ほんと、顔文字止めろや! 血管切れるわ!


「──クソがっ!」


 思わずEARを地面に叩きつけてしまった。


 それでも怒りが収まってくれず、EARをへし折ってしまった。クソが!


 ゼーゼーと息を切らし、なんとか怒りを鎮めさせた。無理矢理な。


「……マ、マスター……?」


 突然、暴れ出したオレに戸惑うロイズたち。だが、それに気を使う余裕はオレにはない。プレートキャリアの横に収めてあるスキットルを出してウイスキーを呷った。


 クソ! ちっとも酔えねーよ!


「下りてゴブリンを根絶やしにしてこい」


 ドカッと座り、そう吐き捨てるように命令した。


「……オレが残る。皆は下りてゴブリンを根絶やしにしろ!」


 ロイズが四人に命令すると、すぐに四人は崖を下り始めた。


 なにも言う気力もなく、新たに余市十二年を入れたスキットルを取り寄せて味わうように飲んだ。心を落ち着かせるためにな……。


「……すまない。怒鳴ったりして……」


 なんとか自分を落ち着かせ、ロイズに怒鳴ったことを謝った。


「いえ、あのくらい奴隷時代では挨拶みたいなものですよ。気にしないでください」


「奴隷か。オレには想像することしかできないが、酷い状況だったんだろうな」


 今、ダメ女神の奴隷となっているオレとどっちが幸せだったんだろう。まあ、どっちも不幸ってのは同じだけどよ。


「そう、ですね。あの頃の夢は未だに見ます」


 だろうな。オレも前の世界のことを夢で見て、涙を流して起きたこともあるよ。ラダリオンに見せられないからすぐユニットバスに向かったけど。


「ですが、あの時代はすべてこのときのためにあったと思います。マスターはおれらを救ってくれたばかりか片腕と右目も治してくれ、こうして人間の誇りを取り戻させてくれました」


「オレのために利用しただけだ。そんな崇高な気持ちなんてないよ」


 慈愛の気持ちなんて一ミリもなかった。ただ、自分の命欲しさにモリスの民を利用しただけさ。


「そうだとしても、おれたちはマスターに救ってもらい、生きる道を示してもらいました」


 それは幻だろう。オレは利用しているだけだ。


「……まあ、オレに恩があるというならミリエルに返してくれ。オレがなにかあったときにな」


 死ぬ気はないが、万が一は考えておくべきだろう。それが巻き込んでしまったオレの責任だから。


「……マスター……」


 残りを飲み干し、巨人になれる指輪をして酔いを抜いた。


「オレらも下りるぞ」


 駆除したら片付ける。それが駆除員のマナーだからな。


 広場に着く頃には粗方ゴブリンは駆除されており、微かに生きているゴブリンをグロック17で止めを刺していった。


 すべてを止めを刺した頃、マーダたちも戻ってきた。


「ご苦労さん。怪我はしなかったか?」


 なんか血塗れだが。


「してない。これ返り血だ。興奮しすぎて無駄に力が入ってしまったよ」


 オーバーキルか。おっかない種族だよ。


「まずは体を洗ってこい。朝までには広場にある死体は片付けたいんでな」


 隊商がきたら迷惑でしかない。せめて広場のは片付けておくとしよう。


 ────────────────


 前にライダンド伯爵領で洞窟を爆発させたじゃ~ん。あれ、密かにゴブリン女王を育てていた感じで、タカトは知らずに阻止していたのよ。いずれ書こうと思ってたらすっかり忘れてた。


 軍隊? 数が必要なことがあるんだよ、きっと。

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