第198話 凡人による上司の動かし方
気を取り直して本題に入ることにする。
「昨日からミランド峠にいきまして、三十匹ほど生け捕りにしました。もしよければ買い取りませんか? 初回なので一匹銅貨十枚でお譲りしますよ」
領主代理に、とは言わない。
ギルドマスターが呼んだ二人なら領主代理側なんだろうが、請負員じゃないなら詳しい内容は避けておくのが吉だろう。オレは二人を知らないんだからな。
それにギルドマスターならオレがなにを言っているか理解してるはずだ。ゴブリンの価値を誰より知っているだろうし、ゴブリンを捕獲する大変さも知っているだろうからな。
「……すべて言い値で買おう。今夜、お前のところにいっても大丈夫か?」
「構いませんよ。大した歓迎もできませんが」
おそらく領主代理を連れてくるのだろう。てか、そう簡単に連れてこられるものなのか? 身分が身分なのに?
「酒とツマミがあれば充分さ」
問題ないってことか。なら、五千円台のウイスキーと居酒屋の四千円食べ放題を出すとするか。
「わかりました。お待ちしておりますよ」
これで話は終わり──にはならないようで、まずはミヤルさんが話かかけてきた。
「ミランド峠の件、ありがとうごさいました。ライダンドとの流通がなくなると商売が滞りますので」
「海に近いのはミスリムの町のほうではないのですか?」
アルート川は海まで流れてるって話だったはずだ。
「コラウスでは隣国から岩塩を買っています。海塩は高価な上、運んでくるとなると岩塩の三倍にはなります」
「……それは、造るのに金がかかるからですか? それとも妨害されてるからですか?」
前者ならまだしも後者ならコラウスをよく思っていないヤツがいるってことになる。
「辺境はなにかと軽視されるものだ。主だった産業がない上に中央から遠いんでな」
上手く言葉を濁しているが、辺境など滅びようが中央には関係ないと思われるってこと。つまり、ないものとして扱われているってことだ。
「中央と辺境の距離がわかると言うものですね」
隔絶的な距離だってな。
「そうだな。だが、ものは考えようだ。遠いなら中央の監視も低くなる。口出しされないだけでもやりやすくなるものだ」
まあ、上司からあれこれ言われるのってかなりのストレスになるからな。自由にやらせてくれたら仕事もスムーズに行えるってものだ。
「それに今年はゴブリンの被害が少ない。お陰で収穫量も増えるだろう」
「ゴブリン、そんなに被害を出してたので?」
「ここ数年は酷かった。策もなく被害ばかり出て為す術もなかったよ」
それがオレの出現で流れが変わった、ってことか。ゴブリン、本当にこの世界の癌なんだな。創り出したのダメ女神だけど!
「収穫量が上がればやれることは増えるので?」
それとも王都にいる領主に持っていかれたりするのか?
「そうともいかない。今年は溜まっている税を払わなくてはいかないし、外貨を稼ぐために三割は領外へ売ることになる。残りは領内で消費される。とても余分なことには使えない」
自転車操業だな。全然余裕がないじゃん。どうやって生きてんのよ? これじゃ食材を現地調達が難しいぞ。自給自足しないとならないのか?
「猪でも捕まえてきて家畜化するか」
ラザニア村から奥を使っていい許しはもらった。もちろん、税金は払わなくちゃならないが、好きにしていいのだから猪を家畜化して飼えば食料の足しになるだろう。
「ラザニア村の奥、開拓してもいいですかね?」
「どう開拓するのだ?」
「巨人に依頼します。彼らは仕事に飢えているようですしね」
こちらにはガチャで当てた
「そんなに仕事があるものなのか? 巨人は確かに人の何倍もの仕事をするが、その分、食料を消費するぞ」
「自分の食い扶持は自分で稼いでもらいますよ。巨大ならやれることはたくさんあるんですからね」
重機がない世界。巨人が代わりになってくれるならやれることはたくさんある。コラウス辺境伯が取り込まないのならオレが取り込ませてもらいます。巨人は大きな戦力となるんだからな。
「あ、開拓した土地はコラウス辺境伯領としてもらえると助かります。なんなら誰か身分ある方に立ってもらって纏めてもらえると助かります。オレはゴブリン駆除で忙しいですからね」
ギルドマスターを見ながら言った。
頭のいい人なら勝手に組み立てて、答えを導き出してくれる。出したらこちらから言わなくても進んで行動してくれるのだ。これが凡人による優秀な上司の動かし方である。
「……お前は宮廷政治の才能があるぞ……」
「オレはしがないゴブリン駆除員ですよ」
元工場作業員に宮廷政治とか無茶言うな、である。
「館は完成してるのか?」
「あと数日はかかると思いますが、寝泊まりできる部屋は完成してますよ」
オレも詳しいことは聞いてないが、見た感じでは部屋はできていた、はず。ごめんなさい。確認しないとわかんないです。
「おれに貸してもらえるか?」
「構いませんが、城のような環境を求められても困りますよ」
「根っからの貴族ではない。地べたで眠ったこともある。多少の不便で泣き声を吐くほど軟弱ではないさ」
まあ、ギルドマスターも領主代理も叩き上げっぽい。雨風が防げれば問題ないとか言いそうだ。
「わかりました。すぐに戻って迎える用意をします」
さすがにマットを敷いて終わり、ってわけにはいかない。ベッドと布団を用意しなくちゃいかんだろう。それにギルドマスターと領主代理だけでくるとは思えない。お付きを何人か連れてくるはずだ。すぐに帰って用意しなくちゃ間に合わんよ。
席を立ち、三人に一礼してミシニーを連れて部屋を出た。
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