第304話 エビル男爵領

 駆除員同士でのミーティングが終われば請負員を混ぜてのミーティングをする。


 とは言え、全員を集めることはできないので、主要な者を集めてのミーティングとした。


 カインゼルさん、アルズライズ、ロンダリオさん、ゾラさん、ロズ、アリサと複数人のエルフで行った。


 ロースランのことを話し、オレがいない間は各隊の判断で洞窟の内部探索、もしくはゴブリンを誘い出して駆除してもらうことにした。


 ミーティングするまでもないが、こうして集まって情報共有するのは大切。定期的にやることに意味があるのだ。


「万が一、対処できない事態に陥ったらマイセンズの砦まで下がること。洞窟内探索も危険と感じたら出ること。なにかあるか、なにがいるかわかりませんからね」


「ああ、了解した。ゴブリンのことはタカトに従っていたほうがいいからな」


 代表してロンダリオさんが答えてくれた。


「ありがとうございます。安全第一、命大事にでお願いします」


 請負員とのミーティングが終われば次はロースラン退治に向かう者たちを集めてのミーティングだ。


 アリサが集めた人数は男四人、女二人の六人だ。あ、アリサも含めてね。


 名前は、タロト、マゼダル、マグナイ、ソーヤ、ナタリー、そしてアリサだ。


 アリサとマグナイ以外は初めて見た……わけでもないが、名前を知ったのはこれが初めて。全員が攻撃魔法を得意とし、スコーピオンの扱いも覚えた精鋭なんだそうだ。


 ……もしかして、オレが一番雑魚だったりする……?


 なんとも言えない感情を振り払い、ロースラン退治の説明をした。


 まあ、まだ数と場所がわかっているだけで、これと言った作戦はない。まずはそこにいくまでの装備を決め、各自の報酬で買わせた。


 精鋭なだけに六人とも二十万円くらいは稼いでいた。使わないでいたのも凄いな。いや、靴くらい買えよ。つーか、サンダルに布を巻いただけでよくこの雪の中を駆けてたな。現地人、スゲーよ。


 ブーツ、靴下、下着、スボン、ジャケット、バックパック、ナイフ、マチェットを買わせた。


 もっといろいろ買わせたいところだが、最低限は揃えたし、水と食料、消耗品はこちらで用意した。あとは各自で買ってもらおう。


「銃を使う者は?」


 アリサとソーヤが手を挙げたので、捨てるのもなんだと残していたプレートキャリアを二人に装備させ、これまた捨てるのを躊躇っていた初期の416Dを持たせた。


 出発は明日の朝に決め、416Dの扱い方を教え、マガジン三本を撃たせた。


「よし。町に移動しよう」


 マイセンズの砦からいけないこともないが、町からだと道があると言う。それに、最近の往来で踏み潰されて歩きやすいはずだ。


 ってことでパイオニア二号に乗り込む。定員オーバーなのは突っ込まないでください。七人ならなんとかいけるさ。


 アリサたちは宿屋──はいっぱいなので、ラザニア村の巨人が建ててくれた簡易宿舎に泊まってもらい、メビは伯爵夫人にお願いした。ミリエルの護衛で仲良くなったって言うんでな。


 朝、六時に死体片付けの拠点で集合。東南へ向けて出発した。


「これならパイオニアでいけそうだな」


 人の往来が思った以上にあるようで、馬車、いや、橇で押し潰されており、なんとかパイオニアが走れそうだった。


「そう言えば、火の魔法で雪を溶かせるか?」


「溶かせはしますが、そう長い距離を溶かすのは無理です」


 そこまでデタラメじゃないか。


「メビ。運転を頼む。オレはスノーモービルで先を進むから」


「わかった」


 パイオニア二号とスノーモービルを出し、道を進んだ。


 太陽が出てきて雪が解けてきて、少し走りやすくなってきた。これなら午前中に到着できるかもしれないな。


 なんて思っていたら前方に町が、いや、村が見えてきた。


 町から二時間。思ったよりエビル男爵領って近かったんだな。よくゴブリンがこちらに流れてこなかったな? エサがなかったのか?


 村に入る前に小休止。ヒートソードで缶コーヒーや缶ミルクティーを温めて一服した。


 パイオニアの距離メーターは約八動いている。一・六でかけると……大体十二、三キロか。残り八キロ。村からは歩いたほうがいいかもしれないな。


「タカト、ゴブリンはいるの?」


「んー。何匹かいるな。単独でいるところをみるとはぐれかもしれないな」


 ゴブリンは二、三匹でエサを探す。一匹でいるのは弱くて群れから追い出された個体だろうな。


「タカト様。村から人がきます」


 すぐに背中に回していたVHS−2を引き寄せてマグナイが向く方向に構えた。


 スコープのピントを合わせると、兵士の格好をした三十半ばくらいの男だった。


 一人ということもあり、銃口を下げて近づいてくるのを待った。


「エビル男爵様の配下、ロズダです。タカト様でしょうか?」


 礼儀正しく名を告げ、軍人がよくやる敬礼をした。コラウスの兵士、そんなことしてなかったぞ?


「ええ。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人です」


 こちらは頭を下げて返した。


「主がタカト様にご挨拶したいと申しまして、お手数でしょうが、ご一緒していただけませんでしょうか?」


 これが傲慢に言ってきたら「無理です!」と断るのだが、礼儀正しくこられると断ることに罪悪感が生まれてしまう不思議。これを知ってやっているのならいきたくないぜ。


「……わかりました。ですが、我々はこれからロースランを狩る身。長くは取られませんが、よろしいでしょうか?」


「はい。主からも手間はとらせないと言っておりました」


 見た目から想像できない配慮をみせる。ますますいきたくなくなるぜ……。


「アリサ、マグナイ、ついてこい。メビたちは村で待っていろ」


 二人は護衛と言うより長居しないと言う主張を知らしめるためであり、エルフを率いていると誤解させるためでもある。


「こちらです」


 ロズダと名乗った兵士のあとに続いて村に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る