第547話 巨大マジャルビン

 どうにかこうにか領主代理との面会を終えて冒険者ギルドの広場までやってくると、なんか馬車が二台、停まっていた。


 冒険者がどこかにいくのかな? ぐらいの考えでロイズたちが集まっているところに向かった。


「遅くなってすまん。買い物はできたか?」


 てか、買ったものがないが、どうした?


「はい。マルティーヌ商会が協力してくれてかなりの量のものが買えました。馬車も貸してくれました」


 マルティーヌ商会? 馬車? どーゆー状況?


「オレ、そんなに金渡したっけ?」


 馬車二台分も買える金なんて渡してないよね? マイズたち、買い物上手なの?


「いえ、マルティーヌ商会が口利きをしてくれて、請負員カードで買った酒を売りました」


「へー。よく考えついたもんだな」


 長いこと奴隷としてたのに心が死んでないことにも驚いたが、そういった柔軟な思考も死んでなかったんだな。モリスの民の性質か? ミリエルもあれだけの経験をしても心が死んでなかったしな。


 ……オレなら確実に自殺してただろうよ……。


 そんなことはない! とか聞こえたような気がするが、まあ、気のせいだろう。


「マルティーヌ商会からお願いされました。なんでもマスターが売る酒は密かに人気があるそうで、強くお願いされました」


 あーそういうことね。ダインさんに売っている酒はかなりの儲けになっているとシエイラが言ってたっけ。大して気にもしてなかったからスルーしていたよ。


「それで馬車二台か。御者まで貸してくれたのか?」


「はい。マルティーヌ商会のものだから遠慮することはないと言われました」


 御者も大変だ。今から出たら確実に暗くなるってのに。帰りには駄賃と酒でも渡してやるか。


「お前たち、ご苦労様な。がんばったご褒美だ」


 一人一人に袋飴を渡した。


 次、いつくるかわからんし、袋飴なら十数個入っている。しばらくは楽しめるだろうよ。


「おじさん、ありがとう!」


「他のヤツとケンカしないで食べろよ」


 嬉しそうに袋飴を抱えて帰っていった。


「よし。誰か一人馬車に乗って護衛だ。ないとは思うが、襲撃に注意しろ」


 せっかく買ったもの。奪われちゃ堪らんからな。用心には用心だ。


 誰に任せるかはロイズに決めさせ、準備が整ったら出発する。


 馬車の速度に合わせてなので、パイオニアに興味がありそうなダッズと言う若い男にやらせてみた。


 ダッズは元孤児で、少年兵として徴兵されたようだ。モリスの民ではないようだが、立ち回りに優れていたようでなんとか奴隷時代を乗り切れたそうだ。


 他のヤツの身の上話を聞きながらラザニア村に到着。やはり暗くなってからの到着だった。


「すぐ帰れと命令されてないなら泊まっていけ。食事と酒を出すから」


 寝るところは馬車の荷台でいいと言うので、館で食事と酒を出してやるよう職員に伝え、オレは館の自分の部屋からホームに入った。


「ん? なんだ?」


 ミリエルとミサロが玄関で忙しくしていた。


「ラダリオンのところで巨大なマジャルビンが現れたそうです」


 マジャルビン? って、スライムのことだっけか? 巨大? 


「状況は?」


「アルズライズさんが指揮をしてドワーフたちと戦っているみたいです。分裂したり融合したりで苦戦しているみたいです」


「応援は?」


「いらないそうです。ただ、ショットガンの弾が凄い勢いで消費されてますね。KSGを十丁買ってドワーフの請負員に渡したので」


 なんかドワーフの標準装備がKSGなりそうだな。別にスコーピオンでも構わないんだが……。


「てか、KSGで効果があるのか?」


 この世界のスライムは物理攻撃有効なタイプか? 


「ラダリオンの話では効果あるみたいです。倒せているかはわからないみたいですが」


「ヒートソードで蒸発させるなり水を吸収するヤツなりでもいいと思うんだがな」


 相手が水分なら石灰でもかけてやれば殺せんだろう。山黒より簡単だ。


「タカトさんにかかれば魔物なんてゴブリンを駆除するのと同じですね」


「相手が生物なら倒しようはある。怖いのは数でこられることだ。勝てないなら逃げればいいし、罠にかけてやればいいんだしな」


 遭遇したら必ず戦わなければいけないって法はない。勝てないとみたらさっさと逃げて、勝てる手段を用意して、勝てる状況下で仕止めればいいんだよ。無理に倒したところでレベルアップするわけでもないんだからな。


「まあ、アルズライズがいて、ラダリオンがいるなら応援にいくこともないな。あの二人がいて勝てない敵はそうはいないし」


 グロゴールみたいなのが何匹もいたら堪ったもんじゃない。いたらこの世界なんて滅んでいいよ。


「もし、応援があったらミリエルに任せる。出るときはラットスタットとマルチシールドを装備しろ。ミリエルの魔力なら沸騰させられるから」


 ある意味、ミリエルの魔力もチートみたいなもの。リミッターを外したラットスタットを使えば二十五メートルのプールでも沸騰させられるだろうよ。


「はい。任せてください。しっかり仕止めます」


 恐ろ頼もしいミリエルである。


「すまないが、オレは休ませてもらうな。領主代理との話で神経がすり減ったよ」


 ゴブリンの駆除よりあの人を相手にするほうが精神疲労が激しいよ。


「はい。ゆっくり休んでください」


「食事はどうする?」


「二人が落ち着いたらでいいよ。それまでは晩酌してるよ」


 今日は麦焼酎のお湯割りでしっぽり飲むとしよう。


「飲みすぎないでね」


「わかってるよ。明日もいろいろあるからな」


 そう言って中央ルームに向かった。

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