第245話 ブーーーーーッ!!

 目覚めたら同じベッドでビシャとミサロが眠っていた。


「……押し潰される夢はこのせいか……」


 まったく、四人部屋借りたんだから一緒のベッドで寝ることもないだろう。寒かったのか?


「ってまあ、もう冬だったな」


 部屋の気温も一桁台。寝起きにエアコンのスイッチを入れるところだ。


「てか、なんで二人とも裸? 全裸就寝主義者か?」


 剥いだ毛布をすぐに被せた。


 どんな主義者でも構わないが、男がいるんだからなんか羽織れよな。どっきりすんだろうが。


「異世界は裸族が多いのか?」


 そっとベッドから抜け出し、下着と装備を抱えてホームに入った。スイッチオンのままで。


 玄関に常備しているバスタオルで下半身を隠し、中央ルームに。ラダリオンとミリエルがいないことに安堵の一息。中央ルームは節度ある姿でいることが決まりなので。


 シャワーを浴び、新しい下着を穿き、パイオニア用の装備に着替えた。


「洗濯物がかなり溜まっているな」


 プレートキャリアやチェストリグ、ガンベルトとかも汚れている。銃の掃除もしなくちゃならないな。


「働けど働けど我が暮らし楽にならず、だな」


 誰の言葉だったかは忘れたが、まさに今のオレはその言葉に尽きる。働けば働くほど暮らしが辛くなっていくよ。ハァァァァー。


 なんてため息をしている場合ではない。食料や弾薬を補給しておかないと。いつなにがあるかわからんのだからな。


 最低限のものを補充したら料理を持って外に出た。


 二人は起きていたようで、裸族から文明人に進化していた。


「ビシャ、ヒートソードを借りるぞ」


 ミシニーからまた顰蹙を買いそうだが、ヒートソードを鞘から抜いて百度にして部屋を暖めた。


 部屋が二十度くらいになったら止め、洗面器に水を入れて余熱で沸かした。


「ビシャ。これで顔を洗え」


「…………」


 なにか不機嫌なビシャさん。オレを無視して顔を洗い始めた。第二反抗期か?


「ミサロ。ホームでシャワーを浴びてきていいぞ」


「確かに重症ね」


 はぁ? なにが? 


「シャワーを浴びてくるわ」


 なにか呆れ果てたようミサロさん。ちょっと説明してからホームにいってくださいよ!


「まったく、女の気まぐれにはついていけんよ」


 それに付き合えてこそ男なんだろうが、今のオレにそんな余裕はない。ラブよりピースが優先されるのだ。


 不機嫌なビシャも朝飯を食ったら機嫌はよくなり、装備を調えて宿をあとにした。


 パイオニアをホームから出すと、支部長が現れた。


「サイルス様にこれを渡してくれ」


 と、羊皮紙を丸めたものを渡された。


「わかりました。あとでくるカインゼルさんたちをよろしくお願いします」


 そう告げてパイオニアを発進させた。


「……これではロドスが負けるのも無理ないわね……」


 悪路に揺れながらもパイオニアのスピードに感嘆とするミサロ。そう言えば、魔王軍は徒歩移動なんだろうか? 竜で移動してま~す! とか言われたら無理してでもRPG−7を買うぞ。

 

「ゴブリンを駆除した成果さ」


 ミサロには耳障りの悪いことだろうが、その事実は変えられない。オレはゴブリンを駆除しないと生きていけないのだからな。


「ミサロはホームでオレたちを支えてくれると助かる。まあ、ホームの中にばかりいると気が滅入るから適度に外に出て、気晴らしをしてくれて構わないよ」


「それはありがたいわ。わたし、戦闘は苦手だし、太陽の下にいすぎると肌が焼けるのよ」


「ダメ女神が言っていた遺伝子異常はそれか」


 遺伝子異常とか言うから内臓とか寿命が短いとか思っていたよ。


「わたしたちは二十年と生きられないのよ」


 たち、ってことはミサロみたいなのが何人もいるってことか?


「──ん? 二十年以上? ミサロ、今、何歳なの?」


「十七よ」


 ブーーーーーーッ!! と吐きながらパイオニアを急停止させた。


「はぁぁっ!? 十七歳?! マジで?!」


 あのけしからんボディーは二十五歳くらいが持てるボディーだろう! 未成年とかアウトだよ! どんな成長したらああなるんだよ!


「わたしは成長が遅かったから貧弱なのよ」


 いやいやいや十二分に育っているよ! あれで貧弱なら育ったらどんなことになるのよ? オレの貧相な想像力では完成形が欠片も見えないよ!


「……ま、まあ、回復薬を飲めば治るんだし、そう落ち込むことはないさ……」


 うん。ホームでの裸族化は禁止にしよう。ラダリオンやミリエルから汚物を見るような目で見られるとか、オレのライフがゼロになるわ。


 気を取り直してパイオニアを発進。明鏡止水な心でラザニア村に向かった。


「師匠!」


 ラザニア村まであと少しと言うところで、マウンテンバイクをこいだマルグがいた。


 すっかりマウンテンバイクを乗りこなしている。六歳ってこんなにも成長速度が速いもんなんだろうか?


「ただいま! 村の様子はどうだ? 不安になってないか?」


「大丈夫! 大人たちは落ち着いているよ!」


 よくあることだからか? まあ、不安になってないのならよかった。夫たちを戦いに駆り出してしまったんたからな。


「ゴルグたちは無事だ! ロミーたちに伝えてくれ!」


「わかった、任せて!」


 勢いよくこいでいくマルグ。素直でいい子だよ。


「優しい顔をするのね」


「子供が笑っていられるんだ、微笑ましいことじゃないか」


 まさにオレが望む世界。そんな世界で老後を過ごしたいもんだよ。


 館に回ると、パイオニアのエンジン音に気がついてか、残っていた職員やシエイラ、サイルスさんも出てきた。


「留守、ご苦労さんな。魔王軍は全滅させた。誰一人死んでないよ」


 パイオニアから降り、そう皆に告げた。

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