第344話 水壁

 南洞窟は分岐点や大小の穴が多かった。


 石は好きだが、なんて石かまでは詳くない。オレは自然にできた石の形が好きなだけなのだ。


 洞窟がどんな理屈でできたかなんてチンプンカンプン。鍾乳洞は石灰岩が溶けて~とかくらいしか知らない。価値も知らないので電動ドライバーで穴を開け、ケミカルライトを折って穴に突っ込んだ。


「結構な水が流れていくな」


 二、三十メートルほど下がると、どこからか水が流れてほぼ小川になってきた。


 足首まで埋もれるようになり、足が冷たくなってきた。


「ちょっと休憩しようか」


 ヒートソードを鞘から抜き、二百度くらいにして足を暖めた。


「ねぇ、タカト。本当にゴブリンが大量にいるの?」


「いるよ。ただ、どこにどれだけのゴブリンがいるまではわからないがな」


 ロンダリオさんたちにも訊かれたが、いるとだけははっきり言えた。あんなダメ女神でもウソは言わない。言っているかもしれないが、これまで外れたことはない。


「マイセンズにはゴブリンの巣がいっぱいある」


 それも冬の間、マイセンズにいなくちゃならないほどに。アシッカに現れたのは約三千。それを約十日くらいで駆除した。


 なら、冬は三ヶ月だとして十日で割れは約九。九に三千をかけたら二万七千。下手したら三万だ。


 あくまでも単純計算で、洞窟探索の日数は入れてはいない。だが、万の数は絶対いる。ダメ女神の声音がそう言っていたからな。


「いるんだとしたら、ゴブリンってなに食べてるんだろうね?」


 最大の疑問はそれだ。万の胃を満たすだけのエサがなんなのか、まったく想像ができないのだ。


「地下に生えたキノコでも食ってたりしてな」


 光る石があるなら地下になるキノコがあってもオレは驚かないね。食べれるんなら持ち帰ったりするかも。もちろん、毒味はしてから、な。


 ……誰に? とか訊いちゃいけないサンクチュアリだ……。


「トイレは大丈夫か?」


 結構洞窟は冷える。トイレが近くなる前に出しておけよ。


「まだ大丈夫。ちょっと高いインナー着てるから」


「うん。暖かいし、可愛いいんだよ」


 すっかり買い物上手になってんな。オレは、安心信頼お値段満足のワークマンのものから選んで買っているよ。


「でも、また水の中を歩くのは嫌だな」


「そうだね」


 オレも嫌だが、長靴は強度が足りない。こんな岩だらけのところでは不安だ。軍用のブーツでなければ安心して歩けんよ。


「そうだ。水魔法でなんとかなるかも」


 ふと思いついたことをビシャのブーツに試してみた。


 オレの属性は水。ブーツの回りに水の膜を張ったら水はブーツに浸透しないんではなかろうか? 


 ブーツ全部に水の膜を張ったら滑ってしまうから、底は張らないようにして水の膜を固定……しろ! と強く念じた。


 この世界の魔法は唱えたりしない。いや、難しい魔法は唱えるかもしれないが、火を放ったり血を抜いたりはイメージだ。なら、イメージを高めてブーツに水の膜を張るように固定する。どうだ?


「全然水が入ってこないよ!」


 かなり魔力を消費してしまったが、思いつきは成功したようだ。


「タカト、あたしにもやって!」


「ちょっと待て。魔力を半分以上持っていかれたから」


 チートタイムをスタートして緊急回復。メビのブーツと自分のブーツに水の膜──水壁みずかべをかけた。


「うん。濡れない濡れない」


 オレ、魔法の才能あっちゃったりする? 魔法使いタカトが始まっちゃう?


 なんて鼻を膨らませていたら背後にゴブリンの気配が突然現れた。


 クソ! やっぱ地下だと察知が狭まるな!


 オレの背後なのでマルチシールドを向け、形を変えて串刺しにしてやった。


「穴が繋がっているみたいだな」


 人間には通れない穴がいたるところに繋がっているみたいだ。これじゃ穴の近くでは休憩できんな。


「二人はやっぱりゴブリンの臭いはわからんか」


「うん。全然」


「あたしもわかんない」


 水の流れで臭いも流れ、風も上から下に流れている。しかも、マスクもしてるから臭いを嗅ぎ取れるわけもないか。


「──またくるぞ! ビシャは後ろを警戒。メビはオレを援護しつつ穴を警戒しろ」


「了解!」


「任せて!」


 ヘッドライトを最大の四百五十ルーメンにしてマルチシールドとヒートソードを構えた。


 集中してゴブリンの気配を探ると、右斜め下から感じた。


 光を向けると、水の流れが右に流れている。あそこか?


「少し下がるぞ。ゴブリンの気配が徐々に強くなってきてる。団体でくるかもしれない」


 十メートルくらい後退し、シールドを構えて壁となる。


「メビ。お前がやれ」


「任せて」


 マガジン交換しやすようにメビがポーチからマガジンを抜いてオレが背負っているリュックサックの隙間に差した。


「あと十秒くらいで」


「うん」


 あ、耳詮するの忘れた。って気づくも時すでに遅し。ゴブリンが穴から飛び出してきて、メビが連射で弾をばら撒いた。


 ……み、耳が……!


 せめて片方でも救おうと、ヒートソードを握りながら右手首あたりで耳を塞いだ。


 すぐに弾が切れてマガジン交換。さらに連射。だが、ゴブリンは次から次へと飛び出してきてる。


 ただ、こちらにはこず、下に流れていった。


「タカト、弾切れ!」


 鼓膜は無事のようでメビの叫びが耳に届いてくれ、シールドを元に戻して左の腰に差したグロックを抜いて装填。逃げていくゴブリンの背中に向けて放った。


 メビもグロック19を抜いて放つが、すぐに弾切れになり、十数匹も逃がしてしまった。


「メビ。追うな。補給が先だ」


 駆け出しそうになるメビを止め、リュックサックに入れたマガジンを補給させた。


 あの音ならロンダリオさんたちにも届いたはず。すぐに迎え撃つ体勢を取るだろうよ。


「補給終わり!」


「よし。先を進むぞ」


 オレもマガジンを交換して先に進んだ。

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