第343話 なにかの役に立つはず

 平和な時が過ぎている。


 それ故に不安が募っていくとか、オレはなんの拷問を受けているんだろうな? まったく身に入らないよ……。


「オレってつくづく上に立つ性分じゃないよな~」


 ドンと構えているより不安を解決するために動いているほうが気が楽だぜ。


 マイセンズの砦を町化する計画をやらなくちゃならないが、シエイラやコラウスからきた職員もいるのでオレが抜けても大丈夫だろう。ゴブリン駆除ギルドの支部はアシッカで、マイセンズは最前基地として運用する場所だ。


 マイセンズの森は深い。どのくらい深いかもわからないほど深く、その奥には絶対ゴブリンが蠢いている。そのゴブリンを駆除するためにも最前基地は必要だ。


 その下拵えに町化する必要があるのだが、そう急ぐ必要はない。洞窟の中が片付いてからでも問題ないはずだ、と信じよう。


 シエイラと職員を集めて最前基地、いや、マイセンズ支部を造るよう指示を出した。


 そうこうしていると休息を済ませたカインゼルさんたちが戻ってきた。すっきり! って感じで。


「明日からオレも洞窟探索を始めますんで、カインゼルさんたちは同じく東洞窟をお願いします」


 あっちは洞窟も広く、複雑っぽい。ゴブリンも出る頻度も高いので、カインゼルさん、アルズライズ、ゴズ、ガドー、エルフの一隊が当たっている。補給もしっかりしているので、オレは、いや、ビシャとメビは南洞窟を探索することにしたのだ。


「ああ、了解したが、南洞窟になにかあるのか?」


「どうにも南洞窟のほうが嫌な感じがするんですよね。ただ、東洞窟も安全だとは思えない。もしかすると、東と南の洞窟は下で繋がっているかもしれませんね」


 勘でしかないが、最悪を考えたら繋がっているのが一番困る。南のが東に逃げたら押さえる者は絶対に配置しておきたい。


 それならカインゼルさんたちが一番慣れていて得意なはずだ。それに、アポートポーチの一つはカインゼルさんに持たせてある。弾薬の補充が尽きることはないさ。


「なにがあるかわからないので報酬は残しておいてください。使ったときはギルドから補填しますので」


 そのためにもゴブリンが多く出るだろう洞窟に入らなくちゃな。


「異変を感じたらすぐに退避。迎え撃つ形で対処してください」


「了解した」


 ってことでオレとビシャ、メビは南拠点(村になっているけど)に移動した。


 到着したらホームからカインゼルさんが買った油圧ショベルを出し、教えるついでにロンダリオさんたちのことを訊いたら休息を終えて洞窟に入ったそうだ。


「根っからの冒険者だよ」


 オレならきっと気がおかしくなっているだろうな。週休二日で生きてきたオレでは。


 いや、今は週休二日どころか決まった休日もなかったよ! 夜の酒を楽しみにしてる今日この頃だよ! こん畜生が!


 湧いてくる怒りを深呼吸で押さえ込み、洞窟用の装備に着替えた。


 今回は洞窟探索なので銃はグロック17だけにして、マルチシールドとヒートソードと言う武装だ。


 ブーツや服は以前着ていたもので、汚れても平気なヤツで、ヘルメットはミドリ安全のにしてヘッドライトを取りつけた。


 アポートウォッチが防水防塵かわからないのでミリエルに渡しておいた。これが壊れたら大幅に戦力ダウンだからな。


 ビシャとメビはいつも汚れると学んだようで、装備はすっきりしており、膝と肘にプロテクターをつけていた。


「よし。問題ないな。いくぞ」


 洞窟の前で装備の確認、点検。ヘッドライトをオンにしたら中に入った。


 ゴブリンには適度な広さだが、人間にはちと狭い。アルズライズなら苦労していることだろうよ。


 洞窟は緩やかに下に向かっており、分岐点もなく百メートルほど進むと、空間に出た。


 ヘッドライトの光が壁に届くほどの広さだが、壁がなんか青白く光っている。光ゴケとかか?


 ヘッドライトを消してみると、そこそこ明るい。これに慣れたら横のビシャの表情もわかるんじゃなかろうか? 


「アルのおじちゃんはマギャ石って言ってた」


「マギャ石?」


 ロースランの寝床(洞窟)にあったあの石が光るのか? 


「魔力が溜まると光るって言ってた」


 さすが異世界。意味わかんねー。


「確かにこんなにあったら珍しくもないな」


 まあ、だからと言ってコレクションを捨てようとは思わない。いや、コレクションが一つ増えるのだ。


 武器兼ペグを打ち込むように買ったピックハンマーを腰から抜き、マギャ石を叩き落とした。


 角をハンマー側で叩いて落とし、手頃なサイズにした。


 またヘッドライトを消し、マギャ石に魔力を籠めると、ケミカルライトくらいの明かりを発した。


「いいな、これ。なにかに使えそうだ」


 なにによ? とか言われたらすぐには答えられないけど、魔力を籠めたら光るってのはなにかの役に立つはずだ。


「タカト。ゴブリンだよ」


 とらぬ狸の皮算用をしてたらビシャに揺すられ、ライトを照らしながら指を差していた。


 イカンイカン。ここはゴブリンどもの領域。油断していたら殺されてしまう。


「二匹か。どこから出てきた?」


「八番ってところだよ」


 よく見たら岩に「8」とペイントしてあり、❌がつけてあった。


 行き止まりではなく通れなくて❌をつけたんだな。


「ビシャ、メビ、仲良く一匹ずつだ」


「あたしは右ね」


「了解。左は任せて」


 ビシャは投げナイフを。メビはサイレンサーつきのスコーピオンで一撃で沈めた。


「お見事。じゃあ、ロンダリオさんのところにいくぞ」


 死体はエルフたちが片付けてくれるので、⭕がついている穴に向かった。

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