第345話 怪しい穴
横穴に逃げたようで、ゴブリンの姿どころか気配も感じ取れなくなってしまった。
「ビシャ、メビ、今のうちに電池を交換しておくぞ」
ヘッドライトやフラッシュライトはどれも電池を使うタイプのものにしている。
最新のはどれも充電式ばかりで、最大で照らしていたら二、三時間で切れてしまう。
普段使いなら充電式でもいいのだが、洞窟の中ではずっとつけっぱなしだ。とても充電式じゃ追いつかない。それなら多少明かりが小さくともすぐ交換できる電池式のが使い勝手がいいのだ。電池、安いし。
警戒しながら交代で電池を交換した。
「この先、第二の大空間がある。そこにロンダリオさんたちがいるはずだ」
地下ではゴブリンの気配も感じ取り難くなるが、請負員の気配も感じ取り難くなるのだ。ただ、この先にいるようで、うっすらとは気配が感じ取れた。
大空間に入る前に笛を出して短く三回吹いた。安全確認のために決めた方法です。
ちょっと間が開き、了解と笛が三回吹かれた。
「よし。いくぞ」
ヘッドライトの角度を下に向け、大空間に出た。
「ご苦労様です。ゴブリンが百近く現れました。こちらにきましたか?」
「いや、きてない。おそらく脇道に逸れたんだろう。思いの外、おれたちには通れない穴があるようだからな」
やはりか。思った以上に複雑な洞窟のようだ。
「ついでですし、ちょっと休憩しますか」
「そうだな。あそこでしよう。ゴブリンが出てきそうな穴がないからな」
ってことで、そこに移動して休憩とした。
ホームからマキタのタワーライトとバスケットに入れたお茶セットを運んできて、コーヒーを淹れて皆に配った。
「フフ。タカトがいると休憩すら豪華になるな」
「贅沢になっていくのは困りものだがな」
「ああ。他の魔物を狩るよりゴブリンを狩るほうが多くなったし」
それはいい傾向だ。オレの作戦が上手くいっているぜ。
「まあ、欲をかかず、安全第一でやってください」
「そうだな。人の欲とは怖いものだ。注意せねば」
「一番欲にまみれているゾラが言ってもな~」
「誰よりもゴブリンを狩って銃を買うとか、魔法使いの矜持、どこいったよ?」
「い、いいだろう。ラインサーだって矢をばかすか買ってるクセに」
「おれは矢に拘っているだけだ」
ふふ。仲のいいチームだ。オレも気の知れた者同士でチームを組み、冒険してみたいよ。あ、安全にな。
和気藹々とおしゃべりしてたらメビが突然、鼻を押さえた。
「メビ?」
「なんか変な臭いがする。なに、この臭いの?」
クンクンと鼻を鳴らして嗅ぐと、確かに変な、いや、酷い臭いがした。まともに嗅いだら吐きそうだぞ。
「これだよ。一日二回はする臭いは」
「ロンダリオさんたちは平気なんですか?」
なんでそんな平然としてられるんです? どんな鼻ですか?
「平気ではないが、まあ、堪えられない臭いではないな。長いこと冒険者なんてやっていればいろんな臭いを嗅ぐものだ。何度も吐いていれば耐性は嫌でもつくものだ」
冒険者家業、オレが思う以上に過酷のようだ。
「この臭いが流れてくる穴はわかっているんですか?」
「ああ、あれだ」
と、フラッシュライトをその穴に向けて照らしてくれた。
「ゴブリンなら通れそうだが、おれらには無理だ。メビならギリギリいけるかもしれんがな」
「あたし、そんな穴入りたくないよ」
オレも通れたとしても入りたくはないな。だが、これだけ探索してゴブリンが出てこないってことはそこが怪しいってことだ。避けては通れないだろうよ。
その穴のところまでいくと、確かに小さい。頭は入りそうだが、肩からは絶対に入らない。メビでも無理じゃね?
マスクの上から鼻をつまみ、穴の中を照らしてみる。
照らした限りではかなり奥に続いており、通れるように砕いていたら何年かかることやら。いや、ウォータージェットならいけるか?
「まずは、調べてからだな」
ホームからサーチアイを持ってきて穴に飛ばした。
サーチアイにライトはついてないが、オートマップとは連動している。穴の映像はみれなくても穴の形はオートマップに写し出される。
「……約五メートル先は広がっているな……」
これなら三日もあればイケるか?
「うん。この穴を広げます」
「どうするんだ?」
「こうします」
チートタイムをスタートをさせた。
水はたくさんあるので一瞬で三十センチくらいの水球を作り出し、マルチシールドを構え、極細のウォータージェットを穴の十センチ上に放った。
一瞬にして水球がなくなり、一旦チートタイムを停止させた。
「結構柔らかい石っぽいな」
いや、チートタイムが凄いのかもしれないが、これなら充分イケるだろうよ。
「ビシャ、メビ。土魔法が使える者を三人くらい連れてきてくれ。石を粉々にしてもらう」
前に土魔法を使うエルフが岩を砂に分解していた。かなり粉々にするにはかなり魔力を消費するようだが、大きいのを粉々にしてもらい、小さいのは人海戦術で運び出せばいい。
「わかった。メビ、いくよ」
「あ、待ってよ!」
駆けていく二人を見送り、残り二分七秒を使ってウォータージェットを放って穴を崩していった。
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