第508話 今日、オレは人を殺す

 時刻は二十三時。巨人になれる指輪をして酒を抜いた。


 ……この感じだと五分くらいは巨人になれるかな……?


 指輪の仕様なのか、なんとなく巨人になれる時間がわかってきている。どれだけ食べればいいのかまではわからんけど。


 ミシニーにも渡し、酒を抜けさせた。


「なんだか損した気になる指輪だな」


「だが、ギリギリまで酒を飲んでいられるぞ」


 少し空腹を覚えるが、水を五百ミリも飲めば気にならないていどのもの。三時間くらいは食べなくても大丈夫だ。


 再度、装備の確認をしたら部屋を出た。


「これから出る」


 部屋の外にいた二人の男にそう告げた。


「わかった」


 片方がすぐに動き出し、もう片方に外まで案内してもらった。案内なしで出れる自信がないんでな。


「オレらが先行する。しばらくしたらきてくれ」


 大人数でいったらバレるし、二人でいくことにするとしよう。プランデットをかけていれば問題なく歩けるしな。


 夜の街は静かなものだが、浮浪者らしき者らが道の端で丸まって眠っている。ほんと、冬をどう生き延びたか気になって仕方がないよ。


「タカト。見張りだ。殺るぞ」


「了解」


 どう判断しているかわからないが、ミシニーがダッシュをかけ、道端で丸まっていた浮浪者らしきヤツにラットスタットを突き刺して電撃を放った。


 悲鳴を上げる暇なく浮浪者らしきヤツの命を失わせた。


 死んだことを確かめることなくミシニーは倉庫街に入り、見張りらしき者をすべて殺していった。まるでオレに殺しをさせないように。


 ……そんなこと気にするタイプでもないと思ってたのにな……。


 シエイラかミリエルになにか言われたんだろう。まったく、守られているのはどっちだよ? 


 自嘲しながらも気持ちは緩めない。今日、オレは人を殺すんだ!


「ミシニーはもう一つの隠れ処を潰せ。援護はイチゴに任せる」


「了解。後悔は確実に仕留めてからやれよ」


「フッ。わかっているよ」


 後悔のない人生をできたら誰も苦労してない。後悔と一生付き合っていくのが人生だ。


 暗視から三次元視覚に変更。動体反応、熱反応センサーをオンにした。


 ヒートソードで鍵を溶かし、中に侵入。椅子に座ってうたた寝している男の頭を撃ち抜いた。


 全神経を次の標的に向け、ベッドで眠っている者の口を手で塞ぎ、ナイフで突き殺した。


 残り一人は地下にいる。


 階段は荷車で隠されているが、隙間があるので催涙手榴弾を放り入れた。


 爆発音がして催涙ガスが充満。地下から苦痛の叫びが聞こえてきた。


 捕らわれている部屋とは厚い扉で遮られているので問題なし。催涙ガスはあとでミシニーの魔法で出してもらいます。


 ホームからタワーライトを運んできて倉庫内を照らした。


「一応、倉庫として使っていたみたいだな」


 テニスコート一面分の倉庫で、奥は木箱と麻袋が積み重ねられていた。


 中を確認すると、木箱には土のついたイモで麻袋は豆だった。偽装に使うものなのか?


「タカト」


 ミシニーが入ってきたので確認を中断して、状況を確認し合った。


「大丈夫か?」


「ああ。思いの外、冷静でいられているよ」


 まだ実感がないだけなのかもしれないが、ゴブリンを殺したときと同じでいられるよ。


「──マルティーヌ一家がきたようだな」


 外が騒がしくなってマルティーヌ一家の男たちが入ってきた。


「外の様子は?」


「静かなものだ。別のほうも人を向かわせた」


「迅速だな」


 反社会的的集団にしては統率が取れている。親分のカリスマ性か?


 男たちに荷車を退けさせ、ミシニーには地下の空気を入れ替えてもらった。


 LEDランタンを設置しながら地下に降り、催涙ガスで泡を噴いた男を片付けてもらう。


 扉はかなり厳重な造りとなっていたが、ヒートソードで鍵の部分を溶かしたら簡単に開けられた。


「臭いな」


 想像はできていたものの、実際に嗅ぐと受け入れ難いものがあるな……。


「地下に牢屋とか、よく造ったものだ」


 秘密裏に造るとか、どんだけ儲かっているのやら。大規模組織なのは間違いないようだな。


 LEDランタンでは光が強すぎると思うので蝋燭を何十本と立てて光とした。


「この中にビシャとメビという名に聞き覚えがある者はいるか?」


 動体反応センサーが三人を捉えた。


「ビシャとメビはオレが保護している」


「──ビシャとメビはおれの娘だ!」


 父親が生きていたか。ビシャからは毒を使われたかもと聞いてたんだが。


「二人とも元気に過ごしている。落ち着いたら会わせる。まずは体力回復に専念しろ」


 ヒートソードで鍵を壊していく。


 牢屋から出てくるほどの体力はないようなので、父親に回復薬大を飲ませた。


「名前は?」


 二人からは聞いてないんだよ。


「マーダだ」


 腰のベルトを外してマーダに渡した。


「それをやる。仲間を守れ」


 ヒートソードとナイフだけのベルトなので充分使えるだろう。


 水タンクとバスタオル、リンゴとバナナを取り寄せてそれもマーダに渡した。


「ここにいるのはオレの協力者だ。マルティーヌ一家! あとを頼むぞ。ミシニー」


「了解」


 いつも使っているガンベルトを取り寄せ、装着したらマルティーヌ一家が向かった隠れ処に向かった。

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