第140話 臆病者の戦い方

 橋のところにきて思い出した。夜は閉まるんだった!


「すみません、ギルドマスター。これ通れないんですか?」


 仮眠しろと言って申し訳ないが、ここを渡らないとミスリムの町にもいけんよ。


「ゴルグ。柵をどかしてくれ。冒険者ギルドのマスターとして許可する」


 と、ギルドマスターがそんなことを言った。


「ギルドマスターの特権だ」


 ビバ権力。ついてきてもらってよかった~!


 ゴルグにより柵が退かされ、橋を渡ることができ、橋を管理する者にギルドマスターが説明してくれた。権力万歳!


 ミスリムの町を迂回して大通りを進んでいると、ゴルグが前に出た。


「タカト、こっちだ!」


 左の道に曲がり、しばらくいくと停止した。


「巨人が通れる山道になるが、そう道はよくない。ゆっくりいくぞ」


「わかった」


 北米対応だから表示がマイルだが、車を運転してたらどのくらいの時速はわかるもの。十キロくらいで山道を進んだ。


 一時間くらいしてゴブリンの大量の気配が感じ取れた。


「ゴルグ、止まれ! 近づいた!」


 パイオニアを停め、ヘッドライトをつけてからエンジンを切った。


「ここを前線基地とします。ゴルグ、周囲を見張ってくれ。ギルドマスターは休んでてください。夜中に交代してください」


「わかった。ゴブリン狩りはタカトが専門だからな、従おう」


 別に専門ではないが、主力はゴルグとギルドマスターだ。雑用で煩わせたくないだけだ。


 マチェットで周辺の草木を薙ぎ払って空間を作り、周辺にローブを張り巡らせてLEDランタンをかけて明るくした。


「タカト。周囲に獣はいない。と言うか、獣も虫もいなくなってる感じだ」


「ゴブリンが大量に集まってるせいだろう。下手すると二千以上はいるかもしれないからな」


「そんなにか? 応援を呼んだほうがいいんじゃないか?」


「それは領主代理の判断だし、応援がくるまでにゴルグとギルドマスターには稼いでもらう。これは危機ではあるが好機だ。嫁と子供に楽をさせたいのならしっかり稼げ。こちらは優勢だ」


 なんて言ってくれるリーダーの下で戦いたいもんである。オレにははったりをかますくらいしかできないよ。


「ふっ。そうだな。しっかり稼ぐとしよう」


 巨人がやる気になってくれると頼もしい限りである。しっかり殺ってくれ。


 少し見張りを頼んでホームに戻った。


「ミリエル。ラダリオンはきたか?」


「はい。今さっき夕食を取りにきました。戦闘はまだ起こってないようです」


「きっと夜中に襲ってくるんだろう。オレたちはカインゼルさんたちの気配がわかる距離まできた。ゴブリンが襲撃に出て興奮して背後への警戒が薄まったら襲いかかるよ」


「わかりました。気をつけてくださいね」


「ああ。ミリエルも無理なときは眠っていいからな。夜の間は大丈夫だろう。勝負は明るくなってからだ。それまで体を休ませておけ」


「はい」


 ミリエルに笑顔を見せて外に出た。


 時刻はもう少しで二十三時。前回と前々回と同じなら三時から四時くらいに襲ってくるだろう。まったく明るいときに襲ってきやがれだ。


「タカト。ゴブリンの動きはどうだ?」


 二時くらいにギルドマスターが起きてきた。もっとゆっくりしてたらいいのに。


「まだ動きはありません。襲撃前の休息をしてるんでしょう」


「そうか。お前は、戦況が見えるのか?」


 広げたスケッチブックにゴブリンの配置を描いてるのを見て尋ねてきた。


「戦況と言うかゴブリンの気配を感じて、想像で描いてるだけです」


 カインゼルさんは山の頂上に陣取っていると言っていた。円を描き、山にいるゴブリンの配置を丸で示す。これが第一波だろうな。


 第二波、ではなく第二陣、第三陣、第四陣が三方を囲んでいる。南側にいないのは崖があるかで配置できないのだろう。


「王の隊は第三陣の背後にいますね。一際大きい気配がここにいます。オレはここです」


 ここから一番近いのは第二陣。他より少ないが、それでも最低三百匹はいそうな気配だ。


「まるで戦争を知っている戦陣だな」


「前に戦った王も厄介な襲い方をしてくれましたよ」


 王は常に背後にいて部下に襲わせていた。まるで将棋を打つように攻めてきたっけ。まあ、力押しの将棋だけどな。


「王を倒したとは報告があったが本当だったのだな」


「王を倒したのはラダリオンですよ。オレは追い込んだだけです」


「普通、王を追い込むことも至難だ。王が立てば配下は千とも二千とも言われるのだ。カインゼルを引き込む前、二人でそれを成し遂げたのだろう? なら、それは快挙。金印でも不可能なことだ」


 と力説されても自信を持てることはなにもない。元の世界の道具を利用し、銃を使い、ホームに助けられ、最後はラダリオンに託したのだ。そこに英雄的行動はなにもない。臆病者の戦いをしたまでなんだからな。


 我ながら自己肯定感がないとは思う。だが、肯定したからと言って身体能力が高まるわけでもなければ秘めたる力が覚醒するわけでもない。あるものを利用し、安全第一に、命大事に生き抜くしかないのだ。


「フフ。お前はどこまでも冷静だな」


「ゴルグとギルドマスターがいますからね。一人だったら怖くて震えているか、酒に溺れてるところですよ」


 いや、その前に逃げてるか。別に命を賭ける理由はないんだからな。


「オレも少し寝ます。なにかあれば起こしてください。ゴルグも少し休めな」


 そう告げてパイオニアに乗り、座席に横になった。フラット座席でよかった……。

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