第139話 魔法剣士

 外に出たらギルドマスターと領主代理がいた。


 長いことホームにいたのにずっと待っていたのか? だったら悪いことしたな。


「なにがあった?」


「ゴブリンの王が立ちました。今、仲間たちが囲まれているようです。申し訳ありませんが、これで失礼させていただきます」


 焦る気持ちを抑えてやんわりと断りを入れた。


「王だと!? どこだ?」


 去ろうとしたら肩をつかまれて戻されてしまった。


「おそらくミスリムの町とコレールの町の間。半日くらい山に入ったところだと思います」


 察知範囲から出てるので、ここからじゃわからないが、昨日のミーティングで駆除する場所を聞き、今朝のミーティングで予定地を話し合っている。大体の場所を把握できてるならあとは近づいて探れば問題はないさ。


「では、失礼します」


「おれもいく。ギルドマスターとして見過ごせないからな。ミシャ。あとは頼む」


「わかった。王が立たれたのでは領主代理としても見過ごせないからな」


 理解し合える夫婦。羨ましいよ。オレも理解できる伴侶が欲しいです!


 マガジンは諦めるとしてHスナイパーを捨てられない。回収してからパイオニアに乗り込んで発車させた。


 途中、止められはしたが、ギルドマスターがいてくれたので時間を取られることなく城を出れた。


「どこにいくんだ? この道は東門に出るぞ」


「ラザニア村に向かってゴルグ、巨人の請負員を連れていきます。オレだけでは不安でしたからね」


「冷静だな」


「元兵士長が指揮してますからね。明日の朝くらいまで堪えてくれますよ」


 武器も食料もあり、これから援護が向かうのだ、カインゼルさんなら十二分に堪えてくれる。なら、慌てても仕方がない。こちらも万全の状態で向かうまでだ。


「カインゼルか。歳だからと追い出したのは間違いだったな……」


 まあ、当然のように知ってるわな。支部には顔を出しているんだから。


 事情を知らないオレが口を出すことではないので余計なことは言わない。内部の事情は内部の者しかわからない。なにも知らない他人が口出ししていいことじゃないからな。


「ギルドマスターは武器はそれだけですか?」


 ホームに戻ってる間に着替えたのか、鎧と剣を持っていたが、山に入る装備ではなかった。


「ああ。これでも昔は魔法剣士として鳴らしていたものだ。ゴブリンくらいなら問題はない」


 それは頼もしいことで。その下についてこの重圧から逃げたいものだ。


 パイオニアを運転すれば十キロの距離も十五分とかからず、ラザニア村に到着。家に向かうとゴルグたちが集まっていた。


「タカト! 王が立ったのは本当か!?」


 近くで叫ぶな吹き飛ぶわ!


「確認してないからわからんが、大量のゴブリンに囲まれているのは本当だ。これから救援にいく。稼げる好機だ。準備をしろ。いくぞ」


 そう言ってその場からホームへと入った。


「ミリエル。ラダリオンからの連絡は?」


「今は小康状態のようです。箱マガジンも五箱使ったようです」


 五箱って千発がなくなったのか。パレット買いしてもまだマイナスされてないようだが、報酬はあまり得られてないな。


「ハァ~。もう十箱買ってたほうがいいな」


 P90の弾もかなり消費され、今必死に弾込めしてる状況のようだ。アサルトライフルを持たせたほうが出費は減るかな?


 箱マガジンを買い足し、P90の弾も買っておく。他にも帰る途中に考えた作戦の道具、シュールストレミングや防犯ブザー、電子式のフラッシュバンを買った。


「ミリエル。あとは頼む」


「はい。怪我をしたらすぐ戻ってきてください。わたしが必ず治しますから」


 回復薬は持っているが、回復魔法を使える者がいてくれる安心感はある。まあ、恐怖は拭えないけど。


「ああ。信頼してる。ラダリオンのほうも頼むな」


 鞄に荷物を詰め込んで外に出た。


「待たせてすみません。ゴルグ。ショットガンは買ってあるな?」


 秋にゴブリン駆除をしようと、ゴルグにはショットガン──ベネリM4を買うように言い、扱い方を練習するように言っておいたのだ。


「ああ。言われた通り、村周辺のゴブリンを狩って練習もしたよ」


 真面目なヤツでなによりだ。


「ゴルグはミスリムの町とコレールの町の間の山の中にはいったことあるか?」


「ああ。何度かいったことはある。かなり木が密集しているから小回りはできんところだ」


 ってことは視界が遮られているってことか。ゴルグには援護してもらったほうがいいかもな。まあ、状況を見てからだけどよ。


「あちらは今、小康状態なので近くまでいって少し仮眠します。ギルドマスターは申し訳ありませんが移動中仮眠してください。ゆっくり走りますんで」


「これでも戦争に身を置いたこともある。揺れる馬車の上でも眠れるさ」


 それは羨ましいことで。繊細なオレには無理だわ。


「騒がせて悪かった。帰ってきたら酒を振る舞うんで許してくれな」


「無事に帰ってくるんだよ。あんたもドジ踏んで怪我なんてするんじゃないからね」


「ゴブリンぐらいでドジ踏むか。いっぱい稼いでくるよ」

 

 人前で抱き合ういい夫婦。まったく、独身者に見せつけんじゃないよ。嫉妬で身が捩れるわ。


 パイオニアに乗り込み、皆のところへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る