第316話 ボーノ

 アシッカの町には暗くなる前に到着できた。ふー。疲れた。


「また人が増えているな」


 城門の前にテントがたくさん張られ、露店ができて賑わっていた。どっからきたんだ?


「タカト、ラダリオンねーちゃんだよ」


 ビシャが指差す方向にラダリオンやゴルグ、ラザニア村からきた巨人が集まっていた。


「マスター」


 ラダリオンたちに目がいって、すぐそこにいたシエイラたちに気づかなかった。


「ご苦労様。今着いたのか?」


 請負員カードで買っただろう防寒着が汚れ、肌がカサカサしていた。もう歳が歳なんだからクリームは塗っとけよ。いや、知らない。んじゃ、あとで買って渡しておくか。


「はい。ほんの数分前に」


「じゃあ、まずは支部にいって風呂に入って疲れを落とせ。オレはゴルグと話をしてくるから。ビシャ、アルズライズ。お前たちも支部にいってていいぞ」


「はい。正直、お風呂に入ったらすぐに寝台に倒れたいです」


「そうするといい。そう急ぐこともないしな。皆もゆっくり休んでくれ」


 ギルドの職員やダインさんなど、かなりの数を連れてきている。話は明日でもいいだろうさ。


 皆を見送ったらラダリオンたちのところに向かった。


「ゴルグ!」


「おう。相変わらず忙しそうだな」


 ここは巨人区的なところなので、話しやすくするよう櫓を作ってもらったのだ。


「まーな。ゴブリンだけじゃなくロースランも退治しないといけないよ」


「ロースランなら大歓迎だ。おれらが食えることは滅多にないからな」


 巨人にも人気なロースラン。意外と不遇な魔物だったりする?


「まだあるなら出してやるよ。ラダリオン。ホームにいってミサロに訊いてみてくれ」


「わかった」


 少し離れてからホームに入り、すぐに寸胴鍋を持って出てきた。なんの料理だ?


「ミサロがロースラン汁を持ってけって。あとうどんも」


 豚汁うどん、ってことか? 


「そうか。まあ、今日はたくさん食べてゆっくり休んでくれ。ラダリオンはホームに戻って休めな」


 腕輪はマイセンズの砦にいる巨人に渡してある。小さくなれないし、ゴルグたちの荷物を運び出す必要もある。しばらくラダリオンにはゴルグたちについててもらおう。


 暗くなってきたのでゴルグたちに任せ、支部に向かった。


 町の中もかなりの人がいて、なにか家の光が多くなった感じがする。道の雪も排除されて空き地にテントが張られている。大丈夫なのか?


 支部に入ると、シエイラたちはとっくに宿屋に移動しており、サイルとカナルの兄弟とアシッカで雇った職員がいるだけだった。


「ご苦労さん。なにか問題は?」


「逃げ出した者が戻ってきて食料不足再び、ですね」


「またか。さすがにコラウスから運ぶのも限界だよな~」


 もちろん、ホームを通しての運搬だが、コラウスにも限界はある。豆や小麦もそんなに回せたりはしないだろうよ。


「となれば伯爵様のところも不足しているか」


 ハァー。問題が次から次にやってくる。オレは領地経営やってんじゃねーぞ。


「明日にでもラダリオンに小麦粉を出してもらう。十時くらいに人を寄越してくれ」


「あ、それなのですが、パスタなら安いと思うのですが、どうでしょう?」


「パスタ?」


「はい。請負員カードで調べたら小麦粉より安かったです」


 原料より安いのか? まあ、小麦が安いときに大量生産されたら安いか? 


「そうか。安いなら買ってみるか。てか、パスタなんて食ったことあるのか?」


 オレ、この世界きてパスタなんて食ってないぞ。


「海の向こうにある国では、パスタに似たボーノが食べられているそうです。わたしも王都でボーノを食べたことがあったので請負員カードで調べてみました」


 またダメ女神に連れてこられた地球人が広めたのか? それとも勇者か? つーか、パスタがボーノになる状況ってなによ? もっと説明があっただろうよ。


「二人は今、報酬金いくらある?」


「わたしは五十二万円てす」


「おれは四十五万円くらいですですかね?」


 合計九十五万円か。結構稼いでいたんだな。


「すまないが三十万円ずつ出してパスタを買ってくれるか? あとでオマケして補填するから。なんなら金貨でもいいぞ」


 オレだといっきに買っていっきに放出することになるが、町にいる二人なら量に合わせて出せるだろうよ。


「わかりました。それならわたしたちで売って構いませんか? なにもマスターがすべてを負担する必要もありませんし、わたしらも小遣い稼ぎしたいですからね」


「もしかして、給金安かったか?」


 給金のことはシエイラに一任したからいくらか知らんけどさ。


「いえ、充分すぎる給金で使い道がないくらいですよ。住むところも食べるものもギルドから出てますからね」


「酒も支給されるとか他ではあり得ません。他に知られないように皆で口を噤むほどです」


 よかった。ブラックギルドでなくて。


「まあ、うちは副業禁止じゃないしな。自分で稼いだ報酬からなにを買っても、それを売ろうとも自由だ。但し、十日で消えることを周知させろよ」


 カインゼルさんやアルズライズ、シエイラには本当のことは教えているが、大体の請負員には十日と周知させている。周りにも十日で消えると浸透させておこう。


「はい。周知させて売ります」


「よろしく頼む。オレは伯爵様のところにいってくる」


 エビル男爵での出来事を報告しなくちゃならないし、食料事情も聞かなくちゃならん。あーリフレッシュ休暇が欲しいぃー!

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