第317話 ミヤマラン公爵領
伯爵のところにいくと、やはりと言うかなんと言うか、真っ先にモーリスさんが先に現れた。
「食料不足ですか?」
モーリスさんがしゃべる前にこちらから尋ねた。
「……はい。前回いただいたものがなくなりました」
ハァー。どんだけだよ。こっちのポケットは四次元じゃねーんだぞ。
「さすがにこちらの懐も限界です。他領から運んでくることはできないので?」
「商人を通じて手紙を出しましたが、やってくるのは春でしょう」
つまり、早くても三ヶ月後ってことか。
「アシッカから近い大領地ってどこです?」
「ミヤマラン公爵領でしょうか? ここからだと馬車で五日から六日の距離です。そこには行商奴隷団の店があります」
また馬車でか。距離で言って欲しいぜ。
「買いにいくしかないですね」
これ以上、ゴブリンの報酬から使うわけにはいかない。まだ洞窟探索もしてないのに、最低ラインを切るわけにはいかない。ホームの改築(増設か?)もしなくちゃならない。なら、買いにいくしかないだろうが。
「ミヤマラン公爵領のことをできるだけ教えてください」
「それなら旦那様に訊いていただけるとわかるかと。十六歳から十八歳まで留学しておりましたので」
留学? ここでは他領にいくのも留学になるのか?
よくわからんが、留学にいっていたのなら場所と大まかな地図は作れるだろうよ。
「──ミヤマランにか?」
説明したら驚かれてしまった。まあ、なかったら買いにいけばいいじゃないとはならんわな。
「はい。とにもかくにも食料がありません。このままでは確実に飢えます」
オレが出せるのは二十万円。それで五百万円を切ってしまう。さらに洞窟探索で百万円は使うだろう。なんとか四百万円を切る前にはゴブリン駆除をしないと不安で胃に穴が開くわ。オレの胃のためにも食料はこの世界から用意しなくちゃならんのだ。
まったく、脇道に逸れてばかりだが、だからと言って疎かにはできない。これからを考えたらアシッカは重要拠点。他から干渉されないだけの領地になってもらわなくてはオレが困るのだからな。
「……そ、そうか。わかった。ミヤマランにはアシッカ出の商人がいる。わたしも留学中は世話になった。協力してもらえるよう手紙を書こう」
「ありがとうございます。帰ってくるまでの食料は出していきますが、どれくらいかかるかわかりせん。館を維持できるだけの量は残しておいてください。あと、ミヤマランまでの地図、都市の情報、協力してくださる方の情報をお願いします」
「ああ。すぐに用意しよう」
その話が終わればエビル男爵領での報告をする。
「金印の冒険者がいたとは言え、よく倒せたものだ。ロースランの群れが出ると兵が動くと言うのにな」
「出費は大きかったですが、ミヤマラン公爵領で食料を買えるだけの魔石は取れましたがね」
「それに見合う後ろ盾となろう」
権力者がそう言ってくれると頼もしくてしょうがないよ。
ワインを一瓶取り寄せ、二人で空けてからモーリスさんのところにいき、二十万円分の食料を出した。
「念のため、ミリエルを館に残します。本当に食料が足りないときはミリエルに言ってください」
「はい。ありがとうございます」
「明日の夜にまたきます」
モーリスさんに見送られて館をあとにし、支部に戻りホームに入った。
「お帰りなさい。まずはシャワーを浴びてきて。その間に食事を出しておくから」
中央ルームには皆が揃っていたが、ミサロの言葉に甘えてユニットバスに向かい、汗を流してさっぱりさせた。
上がったらよく冷えたビールが用意されており、いただきますと感謝を述べていっき飲み。カァー! うめー! この美味さが生きていると感じさせてくれるぜ!
「じゃあ、食べましょうか」
オレの至福の時間を待っててくれたのか、ミサロの音頭で夕飯が始まった。いや、待ってなくていいんだよ。
なんて言うのも野暮と思ったので、オレも料理に手を伸ばしてタケノコの天ぷらを食べた。
「なんでタケノコづくし?」
タブレットで買えば季節など関係ないが、なにをどうしたらタケノコに辿り着けた? オレ、タケノコなんて出されるまで存在を忘れてたよ。
「今日の献立から」
と、料理本を掲げてみせた。
文字、読めないのに写真だけで作るとか天才なの? いや、天才だったね。あータケノコ美味しい。
夕飯が終われば雪見なダイフクさんを食べながらミーティングをする。
エビル男爵領のことは話してあるので省き、食料不足のことを話し、ミヤマラン公爵領にいくことを告げた。
「ミヤマラン公爵領にいくのはオレとラダリオン。ミリエルは伯爵のところに詰めてくれ。食料を買ったらホームに移すから伯爵に渡してくれ」
「二人でいくんですか? 買いつけならダインさんを連れていっては?」
「距離が距離だ。二人のほうがいい。休憩のときはホームに戻れるしな」
ダインさんのことは考えたが、移動を考えたら連れてはいけない。伯爵が世話になった商人を頼るとしよう。
「さっさと終わらせて洞窟探索に取りかかりたい。報酬も心もとないからな」
「今は四百八十万円を切りましたか」
タブレットをつかみ、報酬額を確かめるミリエル。あ、ホームの食費を計算に入れてなかったわ。
「カインゼルさんやロンタリオさんたちには洞窟探索を進めてもらう。ミリエル。悪いが明日の朝、マイセンズにいって説明してくれ。オレは巨人たちに説明したりシエイラや伯爵と話し合ったりしなくちゃならないからな」
「わかりました。ビシャとメビはどうします?」
「ミリエルに任せる。マイセンズまではアルズライズに護衛してもらうから」
「では、二人と相談して決めます」
「ラダリオンはゆっくり休んで疲れを完全に抜いておけよ。移動はラダリオンにお願いすると思うからな」
「任せて!」
どんな移動になるか想像がついたのか、胸を張るラダリオン。頼りになるヤツである。
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