第318話 焼き肉パワー

 朝からミーティングの連続で頭がトロけてきそうである。


 ミーティングなんて五分で終わっていた元工場作業員に、ミーティングの連続はキツすぎる。まさに思考回路はショート寸前である。


 伯爵のところから帰ってきたらミリエルに訳してもらって日本語で書き移す。地図も描き直してスキャナーで何枚かコピーする。


「大きな都市みたいですね?」


「そうだな。伯爵の話ではコラウスと同じかそれ以上に感じたよ」


 この国に三人しかいない公爵の領地であり、穀倉地帯でもあるとか。ただ、そこにいくには山脈を越えなくてはならないそうだがな。


「明日の朝に出発するから先に寝させてもらうよ」


 二十時前だが、ミーティングの連続で頭がクラクラする。早めに寝ないと明日が大変だ。


「眠りの魔法、かけますか? 弱いのをかけられるようになったのでぐっすり眠れると思いますよ」


 と言うのでミリエルに眠りの魔法をかけてもらい、気がついたら朝の六時になっていた。時間指定もできるのか?


「おはよう」


 短時間睡眠なミサロに挨拶された。


「ああ、おはよう。なにしてんだ?」


 テーブルでなやなかやっているミサロ。ミリエルの部屋よりミサロの部屋を先に用意してやらなくちゃダメかな?


「枝豆を剥いているの。ずんだぼた餅を作ろうと思って」


 相変わらずどうやってそこに辿り着いたのか謎だよ。てか、なんでずんだとかぼた餅とか知ってんねん?


「DVDで学んだのよ。なぜか言葉はわかったから」


 ん? ラダリオンたちは元の世界の言葉がわからなかったのに、ミサロはわかるのか? どうなってるんだ? ミサロの能力か?


「ま、まあ、わかるんならなによりだ。文字はわかるのか?」


「文字まではわからなかったけど、言葉からなんとなくわかったわ」


 うん。ミサロも天才っ娘です。凡才アラサーには羨ましい限りです。


「ぼた餅とおはぎ、なにが違うの? 季節がなんだかんだと言ってたけど」


「季節で呼び方が違うだけだよ。ここじゃ意味がないから好きなほうで呼べばいいさ」


 正直、ぼた餅だろうとおはぎだろうとどうでもいい。間違っているヤツを正すほど思い入れもないし、日本文化を守りたいとも思ってない。間違いを正されようが「あ、そっ」でしかないよ。


 ラダリオンとミリエルを起こさないようユニットバスに向かった。


 朝飯を終えたら軽くミーティング。それぞれの予定の確認。装備を調えたら外へ出た。


「マスター。おはようございます」


 部屋から出ると、ちょうどよくシエイラがいた。


「おはようさん。ゆっくり休めたか?」


 昨日はゆっくりと休んでもらい、今日から支部の纏めをお願いしたのだ。


「はい。今からミヤマランに?」


「ああ。さっさといってさっさと終わらせてくるよ。その間、よろしく頼む。明日か明後日にはミリエルを館に待機させる。必要なものがあればそちらに言ってくれ」


「山脈を越えれば雪もなくなるでしょうから無理はしないでくださいね」


「そうならないよう注意するよ」


 サイルとカナルにも留守をお願いして支部を出た。


 巨人区に向かい、そこで元のサイズのラダリオンと合流。ゴルグたちに軽く挨拶したら出発する。


 山脈の下まではアシッカ伯爵の領地。ミラジナ男爵領まで道は続いている。


 ミラジナ男爵領からも人がきているので特に迷うことはなく、辛うじてスノーモービルで走れた。


 まあ、巨人なラダリオンの感覚からしたら三十センチもない細い道だが、軽い駆け足ていどのスピード。それに、ラダリオンは運動神経がいい。山を駆けるのもお手のものなのだ。


 ミラジナ男爵領の村まできたらスノーモービルをホームに仕舞い、三十分ほど休憩。雪山登山用の装備に着替えたら外に出た。


「ラダリオン。頼むな」


「任せて。たっぷり休んだから今日中には山脈を越えてみせる」


 なにやらやる気に満ちてること。ラザニア村に籠っていたから鬱屈してたのか?


「入って」


 ラダリオンがしゃがみ、リュックサックを登って中に入った。


 装備してた安全ベルトのフックを取りつけたカラビナにかけ、網に足をかけて顔だけリュックサックから出した。


「準備オッケーだ」


「いくよ!」


 ラダリオンが歩き出すと揺れが激しくなった。


 ……巨大ロボットに乗ったらこんなに揺れるのかね……。


「タカト、大丈夫?」


「大丈夫だ。オレは揺れに強いからな」


 まだ普通に歩くスピード。揺れは大きいが、まだゆっくり。これなら酔うこともない。


「雪の具合はどうだ?」


「ちょっと硬いけど、問題ない」


「雪が凍ってきたらスパイクに換えろよ」


「わかった。方向はこれでいいの?」


「ああ。このまままっすぐで問題ない」


 一応、オレはナビゲーターとして方向や周囲警戒なんかもしています。


 ミヤマラン公爵領までは馬車が通れる街道があるらしいが、今は雪に埋もれてわからない。だが、南にあると言うことはわかっているので、通りやすいところを進みながら南を目指した。


 徐々に急勾配になっていき、ラダリオンの進みも遅くなるが、今日は雲もなく風もない。どうやらいい日に出発できたようだ。


 昼になったらホームに入り、ミサロが作ってくれた鍋焼うどんで体を温め、スノーシューからスパイクに換えた。


「今、どのくらいのとこ?」


「まだ高い木が生えているから中腹、ってところだな。夕方までには頂上までいけると思う」


 山脈は見た感じ二千メートルあるかないかくらい。馬車でならミラジナ男爵領から二日くらいで頂上に着けると言う。ラダリオンの進みなら夕方までにはいけるはずだ。魔物の熱反応もないしな。


「ラダリオン。体調はどうだ?」


 ストーブで暖まるラダリオンに尋ねる。


「問題ない。夕方まで歩ける」


「そうか。今日の夜は焼き肉にしような」


「うん! ハラミが食べたい!」


 焼き肉パワーでやる気全開。外に出たら進むスピードも上がり、夕方には頂上に辿り着けた。


「吹雪いてきたか」


 山の天気は変わりやすいと聞くが、本当にあっと言う間に吹雪いて視界ゼロとなった。


 リュックサックから降り、暖かいホームへ入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る