第319話 山脈越え
朝、外に出たら吹雪は続いていた。
「ラダリオン。どうだ?」
標高二千メートルともなれば空気は薄くなり、昨日も酸素欠乏症にでもなったのか、軽い目眩を起こしていた。
登山なんてしたことなかったからわからなかったが、高い山でいきなり激しい運動はさせちゃダメだったのね。オレ、反省。
「大丈夫。息もできるし頭も痛くない」
昨日は回復薬中を飲ませ、酸素缶なるものを買ってリュックサックの中に入れてある。あとは下りるだけだから大丈夫なはずだ。万が一のときはホームに入ればいいんだしな。
「よし。いこう」
リュックサックに入り、山を下った。
視界は悪く、下るスピードは遅いが、ラダリオンの進みは悪くはない。一時間も下ると吹雪も止んでくれた。
森林限界を越えたようで、少しずつ高い木が現れてきた。
十時になったところでホームで休憩。ラダリオンの装備を外させ、マッサージチェアで体を解させた。
「あ、タカトさん。伯爵様から町の外に建物を建てたいと要望が上がっているそうです。巨人を使っていいかとのことです」
ストレッチしていると、ミリエルが入ってきた。
「巨人はゴブリン駆除ギルドの要望できてもらっている。仕事のついでとして金を払ってお願いするなら許可すると伝えてくれ。ゴルグたちにも無理強いされるようならオレの名前を出して断れと伝えてくれな」
巨人は奴隷ではない。無理強いするようなヤツがいるなら伯爵の名を使って排除させてもらう。
「わかりました。あと、夫人がお子様の様子がおかしいと言うので回復薬をいただけないかとのことです」
「回復薬か。ミサロ、回復薬小ってまだあったっけ?」
ミサロの遺伝子異常は治った。どう治ったかはわからないが、ミサロ的には治ったとわかるようで、回復薬を飲むのは止めたそうだ。
「少し待って」
中央ルームに戻り、すぐに小瓶を持ってきた。
「六粒か」
まだ残っていたか。意外と残っていたな。
「まあ、回復薬中は一瓶と二十粒くらいはあるし、これを持ってってやれ。赤ん坊なら半分にして飲ませるといい」
ダメ女神製とは言え、赤ん坊に一粒は多いと思う。過剰摂取にならないよう半分にして飲ませたほうがいいだろうよ。
「よし。ラダリオン。出発の準備だ」
今日は麓へ下りるまでが目標だ。二時間下りたら昼としよう。
ラダリオンが装備をつけている間、オレは外を確認──したらなんかいた。なんだ?
「どうしました?」
「外に毛むくじゃらのなにかがいる」
「熊ですか?」
ちなみに窓から見えるのはオレだけ。それぞれ入った場所は入った者にしか見えない仕様になっております。
「いや、この毛の色……山黒か?」
てかこいつ、冬眠しねーのかよ。いや、こいつを初めて見たの冬だったっけ。ほんと、こいつとはゴブリン以上に因縁(なんの? とか訊いちゃダメよ)があるな。
窓を動かして他にいないか探る。
「一匹か。それならいけるな」
もう山黒を見てもビビることもなくなった。精神が強くなったのか心が壊れたのかはわからんがな。
「ラダリオン。ちょっと待っててくれ。あと、中に運ぶから玄関を開けておいてくれ」
山黒も食えるそうだし、解体してアシッカに流すとしよう。
リンクスを持ち出し、山黒が背中を見せたら外に出た。
チートタイムスタート! で、山黒の後頭部に弾を全弾ぶち込んでやり、ブラッドスティールで血抜き。倒れる前に背中をつかんで持ち上げ、そのままホームに戻ってチートタイムを停止させた。
「なかなかのサイズね。タカト。もう少し血を抜いて。さっそく解体するから」
解体用の包丁をいくつか持ってきて解体のイメージを高めるために黙考し始めた。
「玄関を改造しててよかったな」
洗車できるように水道や溝を作っておいたから、血が流れてもダストシュートに向かうようにしてある。まあ、ダストシュートを使うときは入る場所を選ぶ必要がある。オレなら雪山だが、ミサロだと館の部屋になってしまうからな。
「ミリエル。じゃあ、オレらはいくな」
ミサロは未だ黙考中です。
「はい。お気をつけて」
もう一度外を確認。大丈夫と判断したら外に出た。
いつの間にか吹雪は止んでおり、視界もよくなっていた。
「今のうちに進んでしまおう」
リュックサックに入り、出発した。
三十分も下ると雪が少なくなり、一時間後には雪がなくなってしまった。山脈のこっち側は雪が降らないのか?
もちろん、山は葉や草が枯れており、冬の様相を見せている。
「ゴブリンの気配があるな」
察知範囲内に最低でも二百はいる。そのうち半分は出歩き隊か。なんか、この世界にきたときの記憶が怒涛のように思い出されるぜ……。
「ラダリオン。今日はここで止めておいてゴブリンを駆除するぞ」
もう十六時になるし、先を進んでも数キロ。なら、ここでゴブリンを集めていっきに駆除してやろう。
山黒の解体で出た処理肉をばら撒き、ゴブリンどもを引き寄せた。
「ラダリオン。五十メートルくらい離れてからホームに入れ。あと、MINIMIを用意しておいてくれ」
「わかった」
ラダリオンが移動したらヒートソードで山黒の処理肉を焼いて匂いを漂わせた。
「嗅ぎ取ったな」
冬で飢えているのだろう。気配が狂乱化一歩手前までイッちゃってるよ。
周囲から続々とゴブリンどもが集まってくる。
「マイセンズじゃなくこっちのほうがよかったんじゃないか?」
まあ、あのダメ女神のことだからマイセンズのほうが多くて、危険な状態なんだろうな。
周囲すべてゴブリンとなったらホームに入った。
窓から覗くと、三百六十度すべてゴブリン。なんだかゴブリン駆除しているときのほうが安らぐとか、やっぱ心が壊れてんな。
「ラダリオン。用意はいいか?」
「いつでも」
MINIMIを構えたラダリオンが頷く。
じゃあ、やりますかと、手榴弾のピンを抜いてダストシュートに放り込んだ。
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