第454話 修道士マリー

 教会は小さなものだった。


「アシッカの教会、どんなだった?」


 あるとは聞いていたが、一度もいかなかった。そんな余裕もなかったしな。


「似たようなものですね。あるだけマシでしょう。教会を建てるのもお金がかかりますから」


「あまり神は信じられてないのか?」


「裕福な方は信じますが、貧困な者はあまり信じていませんね。祈っても助けてくれませんから」


 貧困な者ほど信じそうなものだが、この世界じゃそうなんだな。


「コラウスで教会が貧しいのはそのせいか」


「第二城壁街の教会なら豊かのようです」


「あからさまだな」


 まっ、宗教なんてそんなものか。商売だもんな。


 教会は城壁の側に建てられており、十字架や鐘楼があるわけでもなし。教会と言われなければただの一軒家としか思えなかった。


 中に入ると、灯りもないので薄暗い。そういや、この時代の灯りとりってなんだっけ? ロウソクだっけ? 魔法だっけ? 意識もしなかったから記憶にもないよ。見てるはずなんだがな?


 ランプを取り寄せて壁から出てた謎の棒に引っかけた。


 食事をしていた子供たちが明るさにびっくりしている。子供も部屋も汚れてんな。食事が終わったらまずは掃除だな。


「えーと。ここの代表者はどなたでしょう?」


 大人は三人。先ほどの老女と三十歳くらいの女。そして、二十歳くらいの男だ。


「わたしです。マリーと申します。修道士としてここを任されております」


 代表者は三十歳くらいの女だった。


「一ノ瀬孝人です。セフティーブレットのギルドマスターをしております。あちらの女性から説明は聞きましたか?」


「はい。ここを協力教会にしたいとか」


 この人、かなり賢そうだ。教会運営は下手そうだけど。


「ええ。オレらはゴブリン駆除をして生きています。時には魔物と戦うこともあります。そのとき、怪我をしたりして困っているときに助けてやってください。ちなみに回復魔法を使えたりします?」


 教会のこと、なんも知らなくてごめんなさいね。


「はい。修道士として回復魔法は必須なので。ただ、わたしの魔力ではちょっとした怪我を癒すくらいしかできませんが」


 学べば誰でも回復魔法って使えるものなのか? それならオレも?


「あ、だから青い魔石を買い占めているわけか」


「回復魔法はかなり魔力を使います。それを補うために魔石を使用するのです」


 なるほど。それで魔石が不足していたり、買い占めたりするわけか。


 ロースランの魔石を取り寄せ、マリーさんに渡した。


「……こんな大きいものがあるのですね……」


 二センチの魔石が大きいんだ。


「ロースランから取り出した魔石です。これ一つあれば何人癒せますか?」


「はっきりとは言えませんが、ちょっとした怪我なら百人は余裕でしょう」


 約百人か。まあ、そんなもの、か? よくわからんわ。


「青い魔石はまだあります。これを使ってギルド員やミジアの人を癒してください」


 手持ちの銀貨を三枚渡した。これでしばらくは足りるはずだ。


「──タカト。薪を運び込んでもらった」


 ホームに入っていたラダリオンが出てきた。


「了解。ダストシュートさせてくれ」


 薪置き場に向かい、ダストシュートで薪を出してもらって置き場をいっぱいにした。


 それが終われば教会の掃除だ。道具を持ってきて全員で取りかかった。


「ラダリオン。ミサロに言って館から子供用の服を持ってきてもらってくれ」


 すべてのサイズの服や下着は用意してもらっている。徴税人の報酬にしようと思ってな。


 子供たちが新しい下着や服に着替えたら洗濯だ。盥を運び出し、魔法で水を溜めたら洗剤を入れて掻き回す。


 かなり汚れているようで二度洗い。濯ぎをして魔法で水分を飛ばしたらハイ完了。オレ、洗濯屋もやれそうだな。


「落ち着いたら職員を寄越します。そのときに協力教会になるか教えてください」


 食料も十日分は渡した。それだけあればゆっくり考えられるだろうよ。

 

「協力教会としてやらせてください!」


「別に急ぐことはないですよ。皆さんとよく話し合ってからでも決めてもらっても遅くはないですよ」


「正直、わたしでは教会を維持する力がありません。もう誰かにすがるしか道はありませんでした。どうかお助けください」


 床に両膝をついて懇願するマリーさん。相当切羽詰まってたんだな。


「セフティーブレットの協力教会となってくれるなら充分な支援は行います。不安なら定期的に職員を寄越しますよ」


 道の様子を見るためにも定期的に職員を走らせることは考えている。そのときに相談してもらえばいいだろう。


「ありがとうございます!」


 土下座しそうな勢いなので無理矢理立たせた。変な醜聞が立ったら困るよ。


「あ、あの、おれもギルドの一員になれますか?」


 ずっと黙っていた二十歳くらいの男が口を開いた。


「君は?」


「おれはカロっていいます。雑用として教会に置いてもらってます」


「マリーさん。男手がなくなりますが、よろしいですか?」


「はい。よろしくお願いします」


 問題ないようなので、すぐに請負員とした。


「カロ。明日の朝、広場にこい。荷物はいらない。すべてはこちらで用意するから」


「はい! よろしくお願いします!」


 礼儀はできているようだし、あとは適正を見てだな。


「オレたちはこれで失礼します。なにかあれば広場にきてください」


 やれることはやったので、オレたちは教会をあとにした。

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