第453話 司教区長

 確か、光の神マリーサを信じる光神会こうしんかいって宗教だったっけか? 繋がりが徴税人しかないから完全に頭から抜け落ちてたわ。


「オレになにか用でしょうか?」


 あまりいい用できたんじゃないってことはわかるがよ。


「教会が困窮しております。どうかご慈悲をいただけませんでしょうか」


 なんだ? ここの教会は場所代を取ろうってのか? どんな恐喝組織だよ? 893がマシに見えるな。


 ダインさんを見れば首を振っている。構うなって意味なのはわかるが、現代日本で真っ当に生きてきた身としては強く否定することはできない。できたら徴税人に通行税なんて払ってないわ。


「ミジアの人から慈悲は得られなかったので?」


 まあ、食料も薪も足りてない状況で、ミジアの人らが分けるとは思えないがな。


「……いただきました。ですが、もう……」


「その余裕はない、と言うわけですね」


「……はい……」


「わかりました」


「タカトさん!」


 ダインさんが注意するが、まあまあと肩を叩いた。


「オレが与えるのは慈悲でも施しでもありません。食料を与える代わりに労働で返してもらいます」


 ミジア男爵領はコラウスとアシッカの中心辺り。発展していけば町も大きくなり人も増える。教会としての役割も大きくなるはずだ。


 そうなったとき、ちょっかいをかけてくるのは権力者か宗教、もしくは反社会的集団か敵対国だ。


 敵対国は除外していい。反社会的集団は仕事を与えて味方にしたらいい。権力者は権力者で対抗したらいい。最大の問題は宗教だ。


 元の世界でも宗教は問題を起こす。もちろん、起こさない宗教もあるだろうさ。だが、人が関わっている限り不正を起こす。私利私欲が生まれる。神の名の下に殺しを正当化させたりもする。神の意思ではなく人の意思で動く集団なのだ。


 人の意思で動く集団なら人の意思でどうとでもなると言うことだ。


「オレはゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスターです。ミジア男爵領の教会にはセフティーブレットの協力教会として受け入れてくれるなら毎日の食事に困らないだけの金を払いましょう」


 これはチャンスだ。教会の影響を切り崩す一手となるはずだ。


「まあ、いきなりすぎて答えは出せないでしょう。腹を満たし、暖かい部屋でゆっくり休んで、それから考えてください。ラダリオン。教会に巨人パンと薪を運んでくれ」


「わかった」


 巨人パンを持ち、老女を引っ張っていった。


「シエイラ。コラウスの教会を仕切っているヤツは誰だ?」


「マイベル司教区長様ですね。シュトラ大司教派の方で、権限はそれほど高くはありません。コラウスは辺境なので」


「派閥争いに負けたか?」


「派閥争いが嫌いな方みたいですね。毒にも薬にもならないと言われています」


 その司教区長、本当に毒にも薬にもならないヤツなんだろうか? 派閥がある中で司教区長(どれほどのものか知らんけど)になった人。無能なわけはない。無能なら背後に誰かがいるかだ。


「セフティーブレットの名で寄付とかできるか?」


「どこかの商会に仲介してもらえれば」


 シエイラの言葉にロウルさんを見た。


「我が商会なら可能です。なにを考えているか教えてもらってもよろしいですか?」


「うるさい声が上がる前に先手を打とうかと思っているだけです。コラウス、アシッカ、ミジア、マイヤーの領地が組めば王国でもそれなりの派閥になるはず。王国もそう簡単に口出ししてはこれないでしょう。ですが、教会はどうです?」


「関係なしに口を出してきますな」


「そうなる前にマイベル司教区長にはこちらの味方になってもらい、口を出してくる者らの壁になってもらいます」


 教会の人事権がどうなっているかわからないが、公正な人事が行われる組織なんてそうはない。特に教会なんて人間社会の縮図。公明正大なんて口だけだ。


 ……まあ、それを口にしたら叩かれるから黙っているけど……。

 

「教会に口出したい商会はありますか? 資金はセフティーブレットが出しますんで」


 魔石を売ればかなりの金が入る。こちらの金なんてそう使い道がないんだから教会工作資金に使ったって惜しくはないさ。


「我がアルセント商会にお任せください。教会に備品や食料を納めている商会なので口を出すにはちょうどいいかと」


 へー。そんな商会だったんだ。知らなんだ。


「では、お任せします。資金、あ、教会なら青い魔石のほうがいいですか? ゴブリンやロースランの魔石は置き場に困るくらいありますからね」


 回復魔法には青い魔石がよかったはず。教会なら金よりそっちがいいんじゃないか?


「そうですね。資金はこちらで用意します。タカトさんは魔石を用意してください。回復魔法師を多く抱えているほうが教会では有利ですからね」


「わかりました。魔石を用意しておくので必要なら遠慮なく言ってください」


「一度、主と話し合いの場を持ってもらえますか? 細かい内容もありますからね」


「いいですよ。春の間はコラウスにいるので」


 春の間はゆっくり過ごす。これは絶対に譲らないからな。


 この話はコラウスに帰ってからにし、オレはシエイラを連れて教会に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る