第452話 ワイニーズ再び

「……そんなことがあったとは……」


 アシッカでのことを聞いた男爵。ウワサに聞いていたとは言え、寝耳に水的な感じだろうよ。


「ミジア男爵領ではゴブリンの被害はまったくないので?」


 いくらスライフがいるとは言え、まったくはないはずだ。あいつらはイニシャルGと負けない生命体だからな。


「ない。いや、最近はワイニーズが出て領民が恐れているよ」


 ワイニーズ? あ、あのプテラノドンみたいな魔物か。まだいたんだ。


 鳥が少ないのってワイニーズみたいなのがいるからか? なんか昔に鳥が大繁殖でもしたか? あの、なんだっけ? 最初の頃に大群で襲ってた鳥? すっかり忘れたが、あんなのがいたからワイニーズが生み出されたとかか?


「被害は出ているので?」


「マイヤー男爵領では農夫が何人か襲われているそうだ」


 人を食うのか? まあ、魔物は大体人を食うけどよ。人、どんだけ美味いんだ?


「それは冒険者に任せるとして、男爵様もご協力をお願いできませんでしょうか? これから街道は発展します。人の往来が増えます。ここで関わらないと取り残されてしまうでしょう」


「具体的にはなにを協力しろと言うのだ?」


「今は協力に名乗りを上げてもらえれば問題ありません。これはまだ根回しの段階。協力する旨を伝えていただければ、コラウス辺境伯領主代理様が声を出してくださるでしょう」


 まだそこまでは決めてないが、サイルスさんはそう動くよう領主代理に伝えると約束してくれた。なら、あの人は動く。オレの勘がそう言っている。


「……まだ、時間はあるか?」


「はい。あります。マイヤー男爵様と話し合ってみるのもよろしいかと。なんでしたらわたしどもと同行していただければ助かります」

 

 面会する手間も省けるしな。


「わかった。今から──いや、明日の朝で構わぬか?」


「はい、問題ありません」


「すぐに手紙を認めて早馬を走らせる」


 男爵が部屋を出ていってしまった。腰が軽いんじゃなくてせっかちな人のようだ。


 残されたオレらはどうしたらいいの? と見詰め合っていたら執事っぽい中年男性が入ってきた。


「主が大変失礼しました。どうも思い立ったらじっとしていられない性格なもので」


「いえ。男爵様より広場を使う許可を得たのですが、問題ありませんでしょうか?」


「はい。問題ありません。ただ、今年は雪が多く、食料、薪が不足しており、回すことができません。ご理解いただけると助かります」


「行商人はきてないのですか? そう暮らしが厳しい土地ではなかったと思うのですが? あ、ワイニーズですか?」


「はい。行商の者も襲われるようになり、荷が届き難くなっているのです」


 どこもかしこも魔物の被害が多いことだ。人類はあと五千年、生き残れるのかね?


 なんてオレの知ったこっちゃない。オレは今を精一杯生きるだけだ。


「では、明日まで商売をしても構いませんでしょうか?」


 と、ロウルさんがそんなことを言い出した。


 どんな意図があるかわからないが、なにか考えがあるんだろうと見守った。


「それはありがたい限りですが、よろしいのですか?」


「はい。と言いましても町を満たすほどはありませんが、少しなら問題ありません」


 許可が降りたと言うことで、広場に向かった。


「タカトさん。薪は用意できますか?」


「ええ。軽トラ一台分なら」


 あれは荷物用として残してある。館から持ってくれば問題はないだろうよ。


「それと、巨人パンもお願いします」


 商売は商人に任せるのが一番と、ロウルさんの指示に従った。


 ラダリオンとともにホームに入り、ミサロにダストシュートしてもらい館に。薪置き場に向かってホームに入って軽トラを出してくる。


 考えた当初は画期的~! と思ったが、慣れてくるとチョー面倒。手間がかかりすぎである。まったく、人とは慣れると贅沢になる生き物だよ。


 まあ、贅沢は言ってられない。軽トラを出し、降ろすのは任せてオレは巨人パンを運び出した。


「タカトさん。安いワインを何本かお願いします」


 三百円のを十五本出した。


 売るものは薪、巨人パン、ワイン、それだけ。こんなものでいいのか?


「これはわたしたちを知らしめるためのものであり、ミジアのことを聞く情報収集です。まずはお互いを知ることから商売が始まりますので」


 へー。商人はそうやっているんだ。勉強になるわ~。


 元行商人なだけにダインさんのコミュニケーション能力は高く、集まってきたおば様連中を相手している。


「マスター。わたしたちは食事の準備をしましょうか」


 そうだな。オレたちでは役に立たない。食事の準備や夜営の準備をするとしよう。


「タカト。ミリエルたちが館に到着した」


「お、無事到着したか。ラダリオンはホームに入って休んでいいぞ」


 まだ夜営の準備が終わってない。先に休んで、夜に交換してもらうとしよう。


「わかった。二十時くらいに出てくる」


「了解」


「タカトさん。教会の方がお話ししたいそうです」


 教会?


 ダインさんが振り向く先に修道服っぽいものを着た老女がいた。

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