第451話 ミジア男爵領

 多少時間はかかったものの、難関だった区間を通行可能にした。


 ロック男爵領とミジア男爵領の間が開通できればあとは車で移動できる。せっかくなのでミジア男爵領の町を見にいくことにした。


「ミリエル。サイルスさんたちを頼むな」


 さすがに全員で、とはいかないのでサイルスさん、ビシャとメビ、職員三名、ロズたちドワーフ、エルフ六名、商人四名を先にいかせることにした。


「はい。では」


 残り十三名でミリエルたちを見送り、ミジア男爵領の町に向かった。


 街道から一キロくらい入ったところに城壁に囲まれた町があった。


 町の周りは麦畑であり、農作業をしている農夫がちらほらと見える。


「ここにはゴブリンの気配がないな」


「おそらくスライフがいるんだと思います。それでゴブリンも近づかないのでしょう」


 元鉄印の冒険者だったサイオが教えてくれた。


 サイオはゼイスと同じチームを組んでいたそうで、ミジア男爵領にも何度かきたことがあるそうだ。


「スライフ?」


 なんじゃそりゃ?


「人の頭くらいある粘着性の魔物で、虫や小動物を補食するんですが、たまに動きの速いスライフがいます。そいつはゴブリンでも食ってしまうそうです」


 ゴブリンを食うヤツ、いたんだ。ダメ女神はそんなこと言ってなかったのに。


「人に危害を与える魔物なのか?」


「手を出さなければ襲われることはありません。ミジアでは大切にされてますね」


 へー。魔物との共生か。そんなこともあるんだな。


「だからここはのんびりした空気に満ちているんだな」


 他とは違う空気が流れている。って、わかるくらいにオレは殺伐とした空気に身を置いていたんだな~。


「商人はきているんですか?」


 商人たちに尋ねる。


「ミジア男爵様とマイヤー男爵様は親戚関係なので行商人はちょくちょくきているとは聞いています」


 まあ、距離は二十キロあるかないかで、道も踏み固められていた。これなら朝早く出れば昼には到着できるだろうよ。


「冒険者ギルドはあるのか?」


「ありません。小さいので」


 町もそう大きいものではない。アシッカの半分もない。人も精々三百人くらいか? 村の規模とそう変わらんな。


「この国って、男爵に簡単になれるのか?」


 オレのイメージでは男爵はかなり高い地位だと思うのだが、現実は村長みたいな立場だ。男爵ってそんなに低い地位なのか?


「簡単にはなれませんが、そう高い身分でもないですね。国からお金をもらえるわけでもなく、自分の領地で稼いで生きろ、ですから」


 よくそれで国が成り立っているものだ。戦争とかできたと思うよ。


 城門までやってくると、兵士と思われる男が二人、道を塞いでいた。


「何者だ!」


「わたしたちはコラウス辺境伯領で商売する者です。コラウス辺境伯領主代理様とアシッカ伯爵様からの手紙をお持ちしました」


 オレでは知名度もなく、認識もされてないので商人のロウルさんに任せた。この人は、そこそこ大きい商会の人。見た目も年齢も代表っぽいので交渉役をお願いしたのだ。


「少し待て」


 ビックネームを出されたら下手なことはできないと、兵士の一人が走っていった。


 しばらくして兵士と身分がありそうな四十歳くらいの男性がやってきた。


「カイル・ミジアだ。話を聞かせてくれ」


 男爵自らやってくるとは腰が軽い人だこと。てか、ここでか?


「手紙はお読みになりましたか?」


「いや、まずはお前から話を聞きたい。なぜコラウスとアシッカが手紙を出すのだ?」


 まあ、ビックネームから手紙がきたなんて怖くて読めないか。オレなら悪い想像しかできないよ。


「コラウス辺境伯領主代理様とアシッカ伯爵様が協定を結び、街道を整備することになりました。ミジア男爵様にはそのご協定と、マイヤー男爵様に紹介文を書いていただきたいのです」


「街道整備だと?」


「はい。アシッカのことは聞いておりますか?」


「詳しくは知らん。だが、去年からゴブリンに襲われているとは耳にしている」


 ウワサていどか。アシッカから逃げ出した者からでも耳にしたのかな?


「はい。約五千匹のゴブリンに襲われて危うく滅びかけましたが、こちらにいるゴブリンを専門に狩るタカト様率いるセフティーブレットが退けました。今はコラウス辺境伯領主代理様の協力を得て復興しております。街道整備もその一環です」


 情報力が多くて処理し切れず、口をパクパクさせる男爵様。なるほど、とか納得できたら逆にこちらが口をパクパクさせるよ。


「……す、素直に信じられない。それは本当のことなのか……?」


 だろうと思ってリュックサックを降ろし、中を開いてゴブリンから取り出した魔石を見せた。


「極一部ですが、これが証拠となるはずです」


 千個も入ってないが、証拠としては充分だろう。これだけの数を集めるなんて尋常じゃないしな。


「……あ、ああ。承知した。館にきてもう少し詳しく聞かせてくれ」


「全員で入ってもよろしいでしょうか? 広場の一部をお貸しください」


 宿屋はあるそうだが、兼業でやっているような小さいところで、全員は泊まれないそうだ。


「わかった。許可しよう。ただ、食料が足りてないのでわけることはできない。構わないか?」


「問題ありません。食料は持参しているので」


 道路工事の報酬として食料はセフティーブレットが出しております。


「うむ。では、兵士に案内させよう。説明は──」


「わたしとこちらのタカト様でさせていただきます」


「わかった。ついてこい」


 シエイラに視線を向けると、お任せくださいと頷いてくれた。


 ラダリオンにも視線を向け、頼むと頷いてから男爵のあとに続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る