第91話 VHS−2

 片付けが終わり一旦うちへと戻った。


 奥様たちによる家造りが始まっており、午前中で外壁ができていた。


「相変わらず仕事が早いですよね」


「そうだな。まさか女でもこんなに器用だったとは知らなかったよ」


 地元民たるカインゼルさんも驚きの早さのようだ。


 昼飯はカレーだ。まあ、マルグがいるので今回は甘口にしたが、ラダリオンも甘口でもイケるし、カインゼルさんもイケたので甘口カレーにしたのだ。


「うめー! 師匠、これ美味しいよ!」


「腹一杯食いすぎるなよ。食後に甘いお菓子もあるからな」


 ラダリオンほどではないが、マルグもよく食べる。寸胴鍋で作っておいてよかったよ。


「なにこれ!? 美味しそう!!」


 コ○トコのケーキを出してやったら大喜び。カレーを三杯も食ったのに一つを完食──はさすがに無理で、三分の一が精一杯だった。


「妹に持って帰ってやれ」


「……う、うん……」


 食べすぎたようで返事をするのもやっとのようだ。


「午後からは反対方向にいってみますか」


「ああ。午後もたくさん駆除してやるさ」


 MINIMI−Mk3が気に入ったのか、汚れてもいないのにウエスで磨いている。もう自分の相棒だって感じだな。


 マルグの腹が落ち着くのに時間はかかったが、午後も百五十匹は駆除できた。


「三百匹か。十五日前くらいに五百匹も倒したってのにな……」


 リポップされてるのかのようだぜ。


「そう言えば、ゴブリンも縄張り争いが激しいと聞いたことがある。縄張り争いに負けたものが流れてくるのかもしれんな」


「そうだとすると、オレらが呼び寄せてる感じですね」


 お前らのせいだ! とかになったら世界を呪わないではいられないよ。


「まあ、探す手間が省けるのだから構わんだろう」


 そりゃそうだ。


 次の日はミスリムの町の方向へ向かってみる。


 ラザニア村からミスリムの町までそう遠くはないようで、話の感じからして五キロも離れてないみたいだ。


 ただ、ラザニア村のミスリムの町の間にはアルートと言う川があるようで、その川にかけられた石橋を渡るには銅貨二枚の渡り賃がかかると言う。


 巨人が作っただけにしっかりとした石橋であり、大人の巨人が十人乗ってもだいじょーぶ! って感じだった。


「思ってたより大きな川ですね」


 川幅は五、六十メートルくらいあり、元の世界なら一級河川に認定されてもおかしくないくらいだ。


「そうだな。海まで続く川だと言われている」


 海か~。毎年会社の連中と海に遊びにいってたっけ。もう二度とできないのかと思うと泣けてくるぜ……。


「タカト、ゴブリンが川を渡ってるよ!」


 マルグが指を差す方向を見ればゴブリンが数匹川を泳いで渡っていた。


「ゴブリン、泳げるんだ」


 双眼鏡を出して覗くと、ゴブリンが犬かきっぽいフォームで泳いでいる。ゴブリン、雑魚だと思ってたら存外優秀だった件!


「たまにゴブリンが泳いで川を渡るところを見たが、結構頻繁に渡っているものなんだな」


 よくよく見れば泳いで渡っているゴブリンがいた。川の流れはそれなりにあると言うのにだ。


「川を渡るほどのことがあるんですかね?」


 ミスリムの町のほうからラザニア村のほうへと泳いで渡ってくる。あちらも麦畑が広がっていると言うのにだ。


「わしらが大量に駆除したのをわかったのだろう」


 確かにそうなのかもしれないな。ゴブリンは集まると臭いを出す。その臭いが消えたらエサ場ができたと思って移動してきたんだろう。


「今日はここで駆除しますか」


 土手の上から川を泳いでいるところを狙えば片付けることもないしな。


 川下に住む方々には迷惑をかけるが、生きてたって迷惑かけてるんだからまあいいやろ、だ。


 ラダリオンに元に戻ってもらい、生い茂る雑木を切り拓いてもらって川下に進んだ。


 百メートル進んだところで周囲を皆で切り拓く。


「カインゼルさん。ちょっと装備を換えてきますんで警戒をお願いします」


 狙い撃つならベネリM4やMINIMIよりSCARのほうがいいだろう。オレも新しく買ったアサルトライフルの慣らしをしたいしな。


 ラダリオンとセフティーホームに戻って装備を換える。


 処理肉を三キロ買い、ラダリオンに周辺に撒くよう伝える。臭いでゴブリンを釣り、集まるようにするためにな。


 Hスナイパーと二十発マガジン二本、バケツに入れてた7.62㎜の弾を持って外に出てカインゼルさんにマガジンに入れてもらう。


「カッコイイな!」


 まるで新しいオモチャをもらった子供のように喜んでる。カインゼルさんも銃がお好きなようだ。


「メガネ、借りますね」


 カインゼルさんからメガネを返してもらい、ラダリオンサイズにしてもらってマルグにかけてもらう。畑側の警戒をしてもらい、ゴブリンが近づいてきたら撃ってもらうのだ。


 必要なものを出したらオレも装備を換える。


 新たに買ったアサルトライフルはVHS−2と言うブルパップ式アサルトライフルだ。


 ビデオテープみたいな名前だが、クロアチアの会社が造ったアサルトライフルで、なかなかカッコいい形をしたものだ。


 イスラエルの会社が造ったタボールってのと悩んだけど、VHS−2のほうが両手で使える造りになっており、ストックが調整できたのでVHS−2を選んだのだ。まあ、排莢口を換えるのちょっと面倒だけどな。


 VHS−2にもいろいろタイプはあり、今回はVHS−2Kと刻印されたもので、ドットサイトとサプレッサーをつけた。


 光学サイトはなにがいいのかわからんし、ゴブリン相手なら必要ないんだが、他の標的にも使うかもしれないから慣れておこうとつけたのだ。


 ……ほんと、サプレッサーも光学サイトってメッチャ高くて嫌になるわ……。


 装備を整えて外に出て、カインゼルさんにHスナイパーの扱い方を教え、納得してくれたらミーティングをする。


「ラダリオンは河下。カインゼルさんは正面。オレは川上。マルグは背後を任せる。勘違いでも異常と思えばすぐに連絡だ」


 三人が頷いたらゴブリン駆除を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る