第92話 ダッシュート戦法

「上手く当たらないものだな」


 さすがのカインゼルさんもいきなり当てることは難しく、つい力んで連続で撃ってやっと当てていた。


「まあ、引き金を引いたときに照準がズレたりしますからね。練習だと思って気楽にやってください」


 ゴブリン一匹駆除できたら弾代は充分稼げる。それに、二人が撃ち逃したのをオレが撃ってるからプラスにはなっている。一匹にマガジン一本使っても損にはならないさ。


「師匠! ゴブリンがきたよ!」


 またか。処理肉ってそんな臭うのか? それより硝煙の臭いのほうが勝ると思うんだがな?


 川は二人に任せ、オレは畑側を向いてVHS−2を構える。


 畑と土手の間は手入れが行き届いておらず、雑草が生い茂っているからゴブリンにしたらいい隠れ蓑になっている。熱源や気配を察知できなければ見つけることは困難だろうよ。


「マルグ。左は任せる。足を狙えよ」


「わかった!」


 さすがに一人で対処できる数ではないので半分はマルグに任せた。


 雑草ゾーンに入ったら撃ち殺していくが、集まると臭いを出すのは間違いないようで、休む暇なく集まってくる。


「カインゼルさん! すみませんがマルグの応援頼みます!」


 慣れた手つきで泥玉を放ってるが、それ以上にゴブリンが集まってきている。マルグも「クソ! クソ!」と悪態をついてるよ。オレの口癖が伝染したようです。ごめんなさい。


 Hスナイパーからスコーピオンに持ち換えて草むらに向けて弾丸をばら蒔いた。


 かなりの数がいるのでマガジン交換が早い。あっと言う間に持っていたマガジンを空にしてしまった。


「少し堪えてください」


 すぐにセフティーホームに戻りMINIMIをつかんできた。


 MINIMIをつかんだカインゼルさん。これがわしの相棒だ! とばかりにゴブリンどもを薙ぎ払った。


 もう一丁のMINIMIを持ってきて地面に置き、オレはVHS−2で撃ち漏らしを片付けていった。


 三十分も過ぎると落ち着いてきて、畑側からのゴブリンがやっと途切れてくれた。


「マルグは少し休め。カインゼルさんは撃ち漏らしがないかを確認してください。ラダリオン。弾はどうだ?」


「もうなくなる」


 四十分は余裕で撃っている。五十本あるマガジンも尽きるってものだ。


「装備を換えてくる。オレのを使え」


 残っているマガジン二本をラダリオンが装備しているアポートポーチに入れてやる。


 セフティーホームへと戻り、P90のマガジンを作業鞄に詰め込み、P90を二丁、ラダリオン用のベネリM4装備を抱えて外に出る。


「代わる。装備しろ」


「わかった」


 P90を構え、川を泳いでいるゴブリンに弾丸を食らわせてやった。

 

 マガジンは二十本あるのでラダリオンの用意が整うまで充分持ち堪えられる。


 十本撃ち尽くしたところでラダリオンの用意が整い、腕輪をなぞって元のサイズに戻った。


「任せて」


 交代して畑側へと向いたら第二波がきていた。これ、不味いパターンだ。


「カインゼルさん、下がってください!」


 無双するカインゼルさんを呼び戻し、KSGを使ってもらう。


 お互いカバーしながらゴブリンを撃ち殺していくが、殺せば殺すほど集まってくる感じだ。もう草むらはゴブリンの山となっている。確実に五百匹は駆除してるぞ。


 P90の弾を撃ち尽くし、グロックに持ち換えた。


「タカト、そろそろ不味いぞ」


「ラダリオン! 川下に移動する! 切り開いてくれ!」


 橋のほうには向かえない。あちらは人通りがあるから。川下に誘導して隙を見て逃げるとしよう。


「マルグ! ラダリオンのあとに続け!」


「タカト、銃はどうするんだ?」


「少し堪えてください!」


 MINIMIとHスナイパーを抱えてセフティーホームに片付け、グロックのマガジンを作業鞄に詰め込んできた。


「もうしばらく堪えてください」


 落ちているマガジンも集めてセフティーホームに片付ける。マガジンの値段を考えたら捨てるなんて選択肢はありません。


 MP9とAPC9、あとマガジンをショルダーバッグに詰め込んで外に戻り、ラダリオンたちのあとを追った。


「タカト、ゴブリンをあのままにするのか?」


「少し離れたらエサで引き寄せます」


 橋から百メートルは離れているとは言え、人通りがあるほうへと逃げられたらオレらが悪者。まだコラウス辺境伯領でやっていくのだから不利になるようなことは避けるべきだ。


 百メートルくらい離れたら処理肉を買ってばら蒔く。と、ゴブリンが臭いを嗅ぎつけてこちらへと向かってきた。


「下がります!」


 引きつけられたのなら無理に撃つことはない。もっと離れてからで充分だ。


 さらに離れたら処理肉をばら蒔いて引きつけ、完全にゴブリンを引きつけられたらラダリオンに山へと向かわせる。


「カインゼルさんはそのままラダリオンたちを追ってください。オレが片付けます!」


「死ぬ気か!?」


「死にませんよ。オレ一人じゃないと使えない作戦をするだけです。遠くに離れてください」


 ショルダーバッグとAPC9をカインゼルさんに渡してセフティーホームへと戻った。


 処理肉を十キロ買ってダストシュートから外へと捨てる。


「たくさん集まれ!」


 次に手榴弾を箱買いする。


 本当はガス爆発大作戦を取りたいところだが、山火事になられたら困る。やるなら雨が降る前日だろう。


 窓から外を見ると、ゴブリンが集まってくる集まってくる。ほんと、お前らどこにいたんだよ?


 つーか、こんだけいて駆除員一人放り込んでどうにかできるのか? 万単位で放り込まないとこの世からゴブリンなんて駆逐できないだろう。


「オレは焼け石に水かよ」


 だとしても目の前の火を消さなければ焼き殺されるだけ。ゴブリンが集まったのを確認したら箱から手榴弾を取り出し、ピンを脱いでダッシュート! 外に捨てられた手榴弾が爆発してゴブリンどもが吹き飛ばされた。


「水で消えないなら火で吹き消してやるよ!」


 次の手榴弾をつかみ、ピンを外してダッシュートしてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る