第221話 金の歯車

 朝、ギルド支部にやってきたらすでに集まっていた。


「凄い数を集めたな」


 二十人までって言ったのに、三十人くらい集まってないか? もしかして、銀貨十枚って出しすぎた?


「ルスルさん。おはようございます」


 副支部長だってのに冒険者スタイルが様になっている。インテリタイプだと思ってたけど、前線に立っていた人なのかな?


「おはようございます。時間通りなんですね」


 ルスルさんにはオレが使っていた腕時計を貸した。コラウスは教会の鐘で時を告げるから不便なんだよ。


「故郷が時間にうるさいところだったので、守るのが習慣なんですよ」


 時間に縛られず自由に生きたいもんだよ。まあ、今はダメ女神に縛られた人生だけどな。


「しかし、随分と集めたものですね」


 若い冒険者を集めるのかと思ったら、オレより年配の冒険者や女の冒険者もいた。老若男女年齢もバラバラ。冒険者家業って幅広いんだな。


「はい。この機会に砦までの道を整備しようと思いまして。タカトさんの依頼に便乗させてもらいました」


「便乗するのは構いませんが、銀貨十枚で足りるので?」


 オレの中で銀貨十枚は十万円と思ってる。その十万円で三十人近い男女を五日くらい仕事をさせるとか、ブラック企業の経営者も羨むことだろうよ。


「いえ、さすがに無理なのでギルドから半分は出しましたよ。山黒の魔石が高値で売れましたからね、砦修繕に予算が回せることができました」


 山黒を倒してまもないのにもう予算が振り分けられる? そんなことが可能なのか? そんなフットワークの軽い組織じゃないだろう。ゴブリンが増えたことを知りながら手間取っていた組織なのに。


「……前から計画があったので?」


 でなければ予算なんて組めたものじゃない。なにか危険を察したから砦を修繕する必要があったってことだ。


「……ミシャード様が気にかけるわけです。まったく、油断ならない人です」


 まったくはこちらのセリフだ。今回のこと、絶対誘導しただろう? ってことは、ロットもサイルスさんの、いや、領主代理の回し者か。


 ダインさんだけかと思ったら職員の中まで潜入させるとか、そう言う権謀術数は止めて欲しいよ。いや、オレもやってる時点でお前が言うな、なんだけど。


「人を利用するなら理由くらい言ってください。でないと予想外のことを起こされますよ」


 別に利用されることに怒りはない。権力者なんてそんなもんだと思っているから。利用するなら喜んで歯車になってやるさ。オレが欠けたらコラウスが回らなくなるかけがえのない歯車に、な。


「…………」


「意志疎通は仲良くやっていく秘訣ですよ」


 別に領主代理と敵対したいわけじゃない。利用し利用される素敵な関係を築きましょうと言っているだけだ。


「……魔王軍の動きが活発となっています。隣国では町が襲われているそうです」


 あーやっぱり魔王軍が絡んでくるかー。


 ダメ女神は強い者に当たらせるようなこと言ってたが、同じ世界にいるのだ、まったく関わらないなんてことはあり得ない。どこかで関わ……ってますね。もう……。


「そうですか。なら、今のうちに守りを強化しないといけませんね」


 と言うか、兵士増員とかしないんだろうか? 路上生活者にいきなり剣なんて持たせても役に立たんだろうに。


「落ち着いているんですね」


「もう散々泣き喚きましたからね。今さら騒いでも仕方がありませんよ」


 大洪水を起こしたのは内緒。オレにもまだプライドはあるんだよ。


「まあ、そちらにはそちらの目的のために。こちらはこちらの目的のために仲良くやっていきましょう」


 目的は同じ。手と手を取り合い目的を果たしましょう、だ。


「……あなたと言う人は……」


「まあ、それはお互い様ってことで、出発しましょうか。冒険者の指揮はそちらでお願いしますね。オレは大人数を指揮したこともなければ砦の修繕計画を知らないので。あ、食事はこちらで持つので安心してください」


 銀貨十枚と食費だけで砦修繕ができるなら安いもの。冒険者ギルドで仕切ってくださいな。


「わかりました。実は何人か先行させています。ミシニーさんも先行させてもらえますか? 移動を安全にしたいので」


「ミシニー。頼めるか?」


「任された。ビシャ、メビ。タカトから離れるんじゃないぞ」


「わかった」


「任せて」


 はぐれるな、って意味ではなく守れ、って意味っぽい。まあ、鼻と目がいい獣人姉妹が近くにいてくれるならありがたい。と、納得しておこう。


「オレらは最後尾を守ります」


「わかりました。バリット! 出発だ!」


 四十くらいの男性に向かって指示を出すと、武装したチームが出発。次に荷物を背負ったチーム。馬三頭に荷を載せたチームが続いた。


「本格的だな」


 別にオレに便乗しなくてもいいだろうに、あえて便乗しなきゃならない理由があるのか? なんだ?


「ビシャは後方の警戒。メビは左右の警戒だ。木の上や空にも気をつけろよ」


「わかった。ゴブリンは駆除していくの?」


「いや、引き寄せたいから駆除はしない。警戒されて逃げられるのも困るからな。殺るときはいっきにだ」


 今回のゴブリン大駆除作戦は狂乱を人為的に起こさせていっきに殲滅させる。そのためにも仕込みはしっかりしないとな。


「よし。いくぞ」


 時刻は七時八分。ミロイド砦に向けて出発した。

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