第220話 突っ込み
前に借りた宿へいき、前と同じ部屋を借りた。
「オレはホームにいってミーティングしてくる。十九時くらいに夕飯を運んでくるから、待てないときは各自で買って摘まんでてくれ」
「タカト、あたしもホームにいきたい!」
突然、メビがそんなこと言ってきた。
「ホームは駆除員しかいけないところだ。メビにはいけないって説明したろう」
前にもホームにいきたいと言ったことがあったが、ちゃんとホームは駆除員だけがいける場所だと説明したんだがな。
「メビ、止めな。じーちゃんからいわれてるだろう」
ん? カインゼルさん、なんか言ったのか?
「駆除員になったら死ぬまで駆除員だ。明るい未来を潰すんじゃない」
ラダリオンとミリエルの命を背負うだけでも精一杯。さらに命を背負うなんてことしたらオレは潰れてしまうよ。
「メビにはあたしが言っておくよ」
俯くメビをビシャが抱き締めている。ちゃんとおねえちゃんしてんだな。
「ああ、頼むよ──」
そう言ってホームに戻った。
玄関にはウルヴァリンが入っていた。なんでだ?
二人はまだ戻ってきてないようで、中央ルームにも風呂にもいなかった。
冷蔵庫を見ると、ケーキやら果物が消えていた。どうやら一度戻ってきたみたいだな。
酒もいくつかなくなっている。カインゼルさんとアルズライズは酒盛りか?
タブレットをつかみ、冷蔵庫の補充と明日使うものを買っていると、ミリエルが戻ってきた。
「ご苦労さん。どこかに出かけているのか?」
「はい。街へ。今回のことをサイルス様に伝えるためにシエイラさんといきました。あと、今日は城に泊まるように言われてしまいました」
「無理難題言われたら断っていいし、すぐにホームに逃げろ。オレらが助けにいくから」
「タカトさんは、サイルス様を信じてないんですか?」
「信頼も信用もしてる。だが、城にいるすべての者は信じてない。おそらく、サイルスさんや領主代理を監視する者がいるはずだ。そいつらは敵だと思っているよ」
会社のことしか知らないが、大きいくなれば派閥は生まれるものだし、出世競争はある。それが貴族ともなればドロドロのグチャグチャだろうよ。絶対、領主の手の者がいる。そいつになにかされる恐れもある。
「あとのことは考えるな。まずは自分の命を優先しろ」
二人を引き入れたときから優先順位は決めてある。第一にラダリオン。第二にミリエルだ。こればかりはなんと言われようと変える気はない。まあ、不和を生むので口に出しては言えないけど。
「大丈夫です。わたしだって泥水啜って生きてきました。守られるだけの女じゃありませんよ」
フンスーと鼻息荒いミリエル。可愛い顔が台無しだぞ。
「ああ。頼りにしてるよ」
まったく、強い子だよ。オレも見習わんといかんな。
「城に移動するので遅くなると思います」
「ああ。オレらは五日か六日、ミロイド砦に滞在して修繕するよ」
「はい。サイルス様にそう伝えておきます」
いくつか酒と食料をウルヴァリンに積み込み、外に出ていった。
シエイラがいるから大丈夫だろうと考えていたらラダリオンが戻ってきた。うおっ! びっくりした!
「どうしたの?」
「いや、たった今、ミリエルを見送ったらすぐにラダリオンが現れたからびっくりしたんだよ。そっちはどうだ?」
「宿の食堂で酒盛りしてる」
やはり酒盛りしてたか。まあ、リハルの町に思い入れあるみたいだし、旧友とか集まってんだろうよ。いや、想像だけど。
「ラダリオンは腹空かせてないか?」
「んー。食べれば食べれるかも」
大食いは治ったみたいだが、これまで無尽蔵に食っていた弊害か、よほどの空腹でなければ自分が腹を空かせてるのか大丈夫なのかわかってないみたいなのた。
まあ、それでも最近は今の状態がわかってきてるみたいで、調整はできているようだ。
「身長、また伸びたな」
前は百四十センチくらいだったのに、今は百五十センチに届きそうになっている。体格も女らしくなっている。もしかするとオレの身長、追い抜かされるかもしれんな。
まずはお互いシャワーを浴び、軽く摘まんだらミーティングをする。
ミロイド砦と同じくミロンド砦(てか、もうちょっと名前を変えろよ。紛らわしいわ)も冒険者の避難場所的に使われているようで、寝泊まりできるくらいには修繕されているそうだ。
「ラダリオンのほうも冒険者を雇って使えるように修繕するようカインゼルさんに伝えてくれ」
貯まる一方の銀貨を三十枚、ラダリオンに持たせた。
あるていど聞いたら夕飯の準備。ミシニーたちに運び、夕飯を摂りながらラダリオンから聞いたことやミリエルたちが城にいったことを話した。
「明日のために今日は早く寝ろよ。ミシニーは飲みすぎるな」
お前、それで何本目だよ。将来、絶対内臓とか壊すぞ。
「わかってるよ。これで最後にするさ」
まったく信用ならん答えだよ。
「今、お湯を持ってくる」
盥二つとポリタンク四つを持ってきてヒートナイフでお湯を沸かした。
「神世の道具を湯沸かしに使うか」
今のところこのくらいしか利用法が思いつかないんだからしゃーないだろう。
「あまり湯はポリタンクに戻して、着替えたのは籠に入れておけ。洗濯しておくから。歯も磨けよ」
「母親か」
保護者だよ!
「オレはまたホームに戻る。戸締まりはしっかりしろよ。靴は足元に置いておけ。トイレにいくときは気をつけるんだからな」
「過保護か」
教育だよ!
ミシニーの突っ込みがうるさいのでため息一つ吐いてホームに戻った。
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