第219話 黙して語らず

 冷たい視線など気にしないとばかりに冒険者ギルド支部に入った。


「ゴブリン殺しか。ルスルを呼んできてくれ」


 なにやらオレの顔が完全に覚えられている。え、なに、手配書でも出回っているの?


 すぐにルスルさんがやってきて、なにかため息をつかれた。なんでよ?


「……あなたがきてから大忙しです……」


「別にオレが引き寄せているわけではないんですがね。仮に引き寄せていたらオレは絶望で命を絶ってますよ」


 そんな不幸体質抱えて生きていくとかオレのハートはそこまで強くねーよ。


「まあ、忙しくはなりましたが、不思議と死者は出ていない。お導きには感謝しています」


 サイルスさんからオレのことは聞いているようだ。


「オレは凡人なんで期待とかしないでくださいよ」


「……あなたは相変わらずですね。単独で山黒の子を二匹も倒したのに……」


「お陰で破産しかねないほどの大出費を負いましたがね」


 あれは金にものを言わせて倒したようなもの。銃の性能で倒したのだ。それでなにを誇れと言う。誇る以前にあの出費をどう取り返そうかと毎日胃を痛めているよ。


「なので、大出費を取り返すための作戦を考案中なので、冒険者ギルドのご協力をお願いします」


 オレが大出費したお陰で冒険者ギルドは儲けたはずだ。人的被害も出さず、オレらが倒した親山黒の魔石を手に入れられたんだからな。


「……わかりました。あちらで話しましょう」


 前に報酬をもらった部屋に場所を移した。


 お茶は遠慮し、こちらで缶コーヒーやペットボトルの紅茶を出した。ミシニーはまだワインを飲んでます。アル中か!


「ミルクティー、美味しいですね」


 この人も甘党かい。


「安いものでいいのならお売りしますよ」


 ミルクティーの粉パック(ラダリオンの常備品)を取り寄せた。


「銅貨三枚にまけておきます」


 五百円くらいのものだが、ルスルさんだし安く売ってやろう。


「……物で釣ろうと言うのはよくないですよ」


 と言いながら銅貨三枚を出してパックを受け取るルスルさん。真面目そうな雰囲気を出してて根はお茶目なようだ。


「それで、どうご協力すればよろしいので?」


「ミロイド砦を使いたいので、そのご協力を得たいのです」


「……ミロイド砦ですか。あぁ、そう言えばシエイラ嬢を引き抜いたんでしたね」


 もう嬢って年齢でもないだろう。とは思ったけど、それを顔にも口にも出さない。知られたらどんな目に合うかわからないから。黙して語らずだ。


「よく働いてもらってますよ」


「まあ、あなたならシエイラ嬢を扱えるでしょう」


 その理由を口にしないルスルさん。いやまあ、なんとなく分かってしまうから受け入れたんだけど。ルスルさんも黙して語らずだ。


「少しお待ちください。ミロイド砦の見取図を持ってきます」


 粉パックをしっかり持って部屋を出ていった。


「ミシニー。先に宿にいっててもいいぞ。てか、飲みすぎだ。もう四本も空けているぞ」


 移動中に三本。支部にきて一本。血液をワインにしたいのか?


「いや、残ってるよ。男同士でなにをしゃべるかわかったもんじゃないからな」


「なにをって、ミロイド砦のこと以外なにを話すんだよ?」


 ルスルさんとおしゃべりするほど仲良くないぞ。


「タカトはほんとダメだな」


 なにがっ!? 


 ビシャとメビに助けを求めようも、まだ冷たい目を見せている。なんなんだよいったい!!


 問いただす勇気もないので缶コーヒーに手を伸ばしてルスルさんが戻ってくるのを待った。なんだ、この地獄は?


「──お待たせしました」


 ルスルさんは部屋の空気に気づいたものの、巻き込まれたくないとばかりに無表情でテーブルに羊皮紙を広げた。


「放棄されて三十年以上経ってるので周辺は崩れているでしょうが、中は冒険者が使ってるのでそう崩れてないはずです」


 これがミロイド砦の見取図か。ふむ。見取図じゃなくて概略図だよね、これ。ざっくりとしか描いてないよ。


「これ、写しても構いませんか?」


 ざっくりとは言え、なにもないよりはマシだ。


「ええ、お好きにどうぞ」


 と言うのでスケッチブックに描き写した。


「マルスの町からミロイド砦まで道はあるんですか?」


「獣道みたいなものはあります」


 獣道だとパイオニアではいけないか。まあ、廃棄されたってところから期待はしてなかったけど。


「冒険者には近づかないよう通達できますか?」


「もう少しすれば誰も近づかなくなりますよ」


 やはり冬の間は仕事がなくなるのか。


「明日までに冒険者を十人くらい雇えますかね? 砦を使えるようにしたいので」


 砦の周辺も切り拓いておく必要もあるだろうし、薪も用意しておきたい。十人くらいなら大した金にもならんだろう。


「増えても構いませんか?」


「ええ、まあ。二十人までなら構いません」


 それ以上は統率を取るのが大変だからな。


「銀貨十枚で足りますか? 食事はこっちで持つんで」


 相場なんて知らないが、ミロイド砦まで約半日。人の歩きからして二十キロも離れてないはず。なら、五日くらいは雇えればあるていど使い物になるだろうよ。


「問題ありません。今は仕事が少ない時期ですから」


 ってことで、明日の朝まで集めてくれるそうだ。


「あ、わたしも同行させてもらいます。大事になったとき冒険者ギルドの者がいたほうが話は早いでしょうから」


 完全にトラブルメーカー扱いされてるオレ。理不尽すぎる。

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