第348話 軽トラダンプ

 生き残ったゴブリンに止めを刺し、穴に放り込み、いつの間にか積み上げに変わったが、まあ、なんとか死体を片付けられた。


 チートタイムをスタートさせ、残りをすべて使って死体から血を抜いて別の穴にポイ。


 カラカラになったらガソリンをドラム缶一本分撒いてチャッカマン! ゴブリンファイヤーで夜を明るくしてやった。


 運よく風もなかったので、拠点のほうに煙が流れてくることはない。駆除に参加しなかったエルフの奥様たちに見張りに立ってもらい、他は早々に休んでもらった。


 オレも今日はホームに戻らず、パイオニア二号を出して、荷台にマットを敷いてそこで寝ることに。あー湯たんぽが暖かい。


 寒さで目が覚め、外を見たら一面雪景色。三十センチは積もっていた。


 何人か目覚めており、見張りの奥様と交代して周辺の警戒に出ている足跡が作られていた。


「タカト」


 ゴブリンの気配を探っていたらカインゼルさんが起きてきた。


「おはようございます。まだ寝てていいですよ」


「歳を取ると早起きになるものさ。ゴブリンがいるのか?」


「何匹か隠れているようですが、残りはかなり遠くまで逃げた感じですね」


 撃ち漏らしたのは結構いたが、この雪なら穴でも掘って隠れているんだろう。なら、しばらくは洞窟探索に集中できるはずだ。


「そうか。じゃあ、今日は休みにするんだな?」


「ええ。オレは南の洞窟に向かいます。今日のことをロンダリオさんたちに伝えないといけないので」


 カインゼルさんたちにアナウンスされてないならロンダリオさんたちにもアナウンスされてないはず。せっかくの四割引きなんだから教えてやらないとな。


「そうか。スノーモービルでいくのか?」


「はい。この雪なら走りやすいですからね。使いたかったですか?」


「いや、バイクのほうを貸して欲しかったのだ。休みならバイクを練習しようと思ってな」


「それならちょっと練習してもらいたい車があるんですよ。さすがにこの雪じゃバイクは無理ですしね」


「ほぉう。おもしろい車なのか?」


「うーん。おもしろいかどうかはわかりませんが、ちょっと待っててください」


 ホームに入り、前から買うかどうか悩んでいたものを買って外に出た。


「バギーか?」


「いえ、軽トラダンプです」


 本当はキャリアダンプ(不整地運搬車)が欲しかったのだが、値段を見て諦めた。プライムデーでも買えないからそれの代用として軽トラダンプを考えていたのだ。


 中古ではあるが、リフトアップされており、タイヤもオフロード用のを履いたものにした。


 四割引きで五十二万円と、アサルトライフル全部盛りを買ったと思えば安い買い物だろうよ。


「これならゴブリンの死体や土砂を運ぶのにも使えます。道幅はギリギリかもしれませんが、なんとかマイセンズの砦まではいけると思います」


 今までパイオニアを使わなかったのは、ショートカットしたほうが早いから歩きで移動してたんだよ。


「運転席が右になっちゃいますが、基本は同じです。ダンプの操作はこれです」

 

 働く車大好き五十代は、一回の説明で理解してくれ、さっそくとばかりにマイセンズの砦に出発してしまった。


「元気な人だよ」


 一緒に乗っていきたかったが、今日のことをシエイラたちに説明し、残る者に指示を出さねばならぬ。


 朝飯のときにシエイラに南の洞窟にいくことを伝え、アリサには東の洞窟を見ててもらうことをお願いした。


「なら、おれが護衛としてついていこう」


 と、アルズライズ。


「せっかくの休みなんだからゆっくりしてていいんだぞ」


 ワーカーホリックか? いや、それはオレのほうか。休もうと思ってもいつの間にか動いているんだからよ。ハァー。


「買うものもないしな。それに、あちらの洞窟も見ておきたい」


 まあ、アルズライズがいいと言うならオレに断る理由もない。歩いて南の洞窟に向かうことにした。


 どちらもおしゃべりではないので黙々と歩き、十時過ぎくらいには南の拠点に到着できた。


 請負員のエルフに今日が四割引きデーなのを教えたら南の洞窟に移動し、一旦ホームに戻ってP90装備にアポートウォッチをしてきた。やはりこれがないと戦力は半減するよ。


「アルズライズはそれでいいのか?」


 マチェットにデザートイーグルとあっさりしたもの。昨日、SCAR−Hを使ってなかったっけ?


「狭いところならこれでいい」


 まあ、アルズライズがおもいっきり戦うには広い場所じゃないと能力は半減。マチェットのほうが効率よく戦える、のか?


 いざとなればMINIMIを取り寄せたらいっか。プライムデーでいっぱい買ったしな。


「なにか、生き物が腐った臭いだな」


 洞窟に入ると、例の臭いが中から流れてきていた。


「地下でゴブリンが腐っててくれたらありがたいんだがな」


「そうしたら稼げないだろう」


 それはそうなのだが、この世からゴブリンがいなくなれば幸せな老後が送れるってものだ。って夢を見させてください。


「これは駆除員以外、誰にも言ってない。女神によれば昨日のでマイセンズにいるゴブリンの四分の一を倒したそうだ」


 地下もマイセンズに含まれるのか疑問なところだが、女神視点なら誤差なんだろうよ。


「……まだ、一万匹以上いると……?」


「女神の言葉が正しいならな。それに、ゴブリンだけいるとは限らない。ロースランのように共生している場合もある。アルズライズの頭に入れておいてくれ」


「他には言わないのか?」


「カインゼルさんとロンダリオさんたちには言っておく。他には黙っててくれ」


 教えても動揺はされないだろうが、下手に気張られても困る。百戦錬磨な者にだけ教えて警戒してもらおう。窮地で踏ん張られるのはアルズライズたちのようなヤツだからな。


「わかった。おれの胸に仕舞っておこう」


 まったく、頼もしい男だよ。


 アルズライズが背負うリュックサックを叩き、P90を構えて洞窟に足を踏み入れた。

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