第38話 オーグ
季節は初夏になり、山は緑に覆われてしまい、ゴブリン駆除が段々と難しくなってきた。
ゴブリンの気配は感じても枝葉に隠れてしまい、弾道が逸れてしまって外すことも多くなったのだ。
それだけでも困ったことなのに、ゴブリン以外のものまで現れやがった。
「あれがオーグか」
オーグって言うからオークが訛ったものかと思ったら、実は三メートルくらいある二足歩行の熊だった。紛らわしいな、もー!
「あいつら、口から冷たい息を吐くんだ」
知りたくない情報がラダリオンの口から出てくる。複数系で凍える息を吐くとかなんのために生み出した、ダメ女神よ? 知的生命体の繁栄になんの関係もないよね!
「真夏に会いたい魔物だな」
気温三十七度になったら是非とも現れて周囲を冷やしてもらいたいもんだ。
「ラダリオンはオーグの臭い、わかるのか?」
オーグの臭いにいちはやく気づいたのはラダリオンだが、オーグの臭いと認識できるのかを尋ねた。
「うん。あいつら獣臭いから遠くからでもわかる」
名犬ラダリオン。冬の教会で共倒れしないよう賢く生きていこう。
「あんなバケモノを駆除しても一円にもならんが、あれがいるとゴブリンも逃げる。ラダリオン。狩ってくれ」
「わかった」
ラダリオンの半分しかないが、オーグは強いようで、巨人の大人でも手こずる相手のようだ。だが、こちらには巨大化したKSGがある。玉が九個入った弾ならオーグでも倒せるだろう。試し撃ちでオレの胴体くらいある木を砕いていたからな。
ラダリオンの肩から服を伝わって地上へと下りた。
ガシャンと弾を装填。オーグへ向けて歩き出し、オレはそのあとを追う。
山歩きに慣れたラダリオンを追うのは一苦労だが、雑木は倒され、他の魔物を気にすることがないからマシってものだ。
四、五百メートルくらい移動すると、ラダリオンが停止。KSGを構えた。
巨大化すると音も大きくなる。イヤーマフをしても凄まじい。鼓膜が破れそうだわ。
一発の射撃で倒したのか、ラダリオンがこちらを振り向いた。
イヤーマフを外し、ラダリオンに頷いてオーグの元へと向かった。
「これがオーグか」
さっき双眼鏡で姿を見たが、間近で見ると迫力が違う。こんなのと出会ったら大洪水必至だわ。
P90を構え、引きちぎれたオーグに向けて撃ち、ナイフでこじって弾の入り具合を確かめた。
「皮は突き破って肉にまでは到達してるか」
まったく効果はないってことはないが、致命傷になるかは怪しいところだな。
連射にして撃つと、まあ、そこそこ効果はある感じになった。
「とは言え、五十発でも倒すのは無理だな、これは」
P90でこれなら416の弾でも似たようなもんだろう。対物ライフルじゃないと対抗できんだろうよ。
念のためバレットM82A3(M107か?)を買って撃ってみたが、一発撃って尻もちついて断念しました。今のオレには扱えませんわ~。
「タカト。あっちにもいる。二、三匹いる」
「無理するな。足を狙って動きを封じてからゆっくり倒せよ」
「わかった。任せて」
なにやら強気なラダリオンさん。銃はそこまで人を強気にさせるのか? オレは銃を持っても弱気なんですけど。
マガジンを交換してラダリオンのあとを追った。
これも訓練と必至に走るが、一キロで挫折。ゆっくり追うことにしました。
遠くから銃声が何度も聞こえる。銃声の間隔からして苦戦している感じはない。すっかりKSGの扱いに慣れたもんだ。
オレが到着すると、ラダリオンが木を折り、ナイフで先を削っていた。なにしてんの?
「オーグを突き刺して仲間に警告する。ここらはあたしらの縄張りだって」
「他の魔物がよってきたりしないのか?」
「オーグはゴブリンも食べない。不味くて吐くレベル」
不味いんだ、オーグって。この世界の食物連鎖、どーなってんの?
「利用価値ないのか?」
「毛皮と魔石は使える」
「魔石?」
ラダリオンがナイフを出し、胸の辺りをゴリゴリさせて野球のボールくらいの赤色の石を取り出した。
「これが魔石。人間の魔法使いが買ってくれるって聞いた」
魔法の道具はないって言ってたから魔力チャージ的な感じはで使うのかな?
「そうか。なら、町へいったときの資金とするか。ラダリオン、他のも取り出してくれ」
なんの資金にするかまでは考えてないが、あって困るもんじゃない。いざってときのものにしよう。
セフティーホームからバケツに水を汲んできて、銃の掃除用に買ったウエスで魔石を綺麗にした。
「どこぞの賢者の石っぽいな」
体に石とか意味わからんな。どんな進化をさせればこんなもんが体の中にできるんだ? まあ、興味もないからどうでもいいけどよ。
綺麗になった魔石を空のバケツに入れ、最初に倒したオーグのところへ移動。計四つの魔石をゲットした。
「いくらになるんだろうな?」
予想もできんが、オーグの強さから高値になるのは確かだろう。仮に安かったら叩き割ってやるわ。
「ラダリオン。他にもいそうか?」
「うん。あと四匹くらいいそう」
まだいるんかい。もしかしてオーグの巣でもあったんかな?
「そうか。まあ、少し早いが昼にするか」
はっきりとわからない距離なら昼飯食ってからのほうがいいだろう。
今日はゴブリンを駆除できなそうだが、その代わりミシニーがその日の食事代を稼いでいてくれる。ってか、やはり人がいるところにゴブリンが集まる感じだな。
「わかった」
その場でセフティーホームへと入り、昼飯とした。
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