第37話 扇情的だこと

 よく飲みよく食べ、そして、眠ってしまった。え?


 あ、いやまあ、一晩中ゴブリン駆除に勤しんだんだから無理もないが、いきなり眠る? 唐突すぎだろう。


「眠ったの?」


「そう、みたいだな。ハァー」


 しょうがないのでラダリオンからタオルをもらい、ミシニーにかけてやった。昨日と同じなら夕方には起きるだろうよ。


「ラダリオン。今日は休みにする。戻ってていいぞ」


 ミシニーが駆除し尽くしたようで周囲にゴブリンの気配はない。逃げ出したって感じだな。

 

「ううん。ここにいる」


「そうか? なら、食べ物でも持ってこい。一日のんびり過ごすのもいいだろう」


 ミシニーが虐殺してくれたお陰で数日分の金は稼げている。いや、オレらが稼いだわけじゃないけど、ミシニーのお陰で約三十万円も入った。なら、今日はミシニーのために時間を使うのもいいだろうよ。


「わかった。ポテチ、食べていい?」


「好きなだけ食っていいよ」


 元の世界のものを容赦なく食っているが、ラダリオンの肌艶や髪はよく、初めて会った頃より健康体になっている。糖尿や通風など知ったこっちゃないって感じだ。


 ……まあ、食べた分だけ動いてはいるけどな……。


 にっこり笑ってセフティーホームへ戻り、お菓子箱を抱えて出てきた。両脇に四リットルのリンゴジュースを抱えて……。


「オレもワイン持ってくるか」


 ラダリオンがいるなら魔物もよってこないだろうし、せっかくだからP90のマガジンに弾込めしておくか。空マガジン、二十個ばかりあるしな。


 そんな感じでミシニーが起きるまで、お互い好きなことをして過ごした。


 昼は交互に済ませ、再びまったりしようとしたらミシニーが起きた。そういや、昨日も四時間くらいで目覚めたな。エルフは四時間しか眠らないのか?


「うん。よく寝た」


「体でも洗ってきたらどうだ? 言ってはなんだが臭うぞ」


 美人なのに臭いとか残念すぎんだろう。


「女に臭いはないだろう」


「だったら臭いに気を使えよ。そのかかってるタオルは使っていいから」


 ハンカチもラダリオンサイズだとバスタオルになる。


「ラダリオン。コップにお湯を注いできてくれるか?」


「わかった」


 こう言うとき便利だよな。セフティーホームから出てきたら小さなコップもゴミバケツくらいになるんだから。


「どこに消えるんだ?」


「オレたちの家さ。オレら以外には見えないところにあるんだよ」


 セフティーホームのことはいずれバレるならちょっと事実を変えて教えておけば真実には届かないだろう。


「いったいタカトたち、いや、タカトはなんなんだ?」


「しがないゴブリン駆除員だよ」


 そうとしか言いようがないんだからしょうがない。他に言い方があるなら教えて欲しいもんだよ。


「ただまあ、ゴブリン駆除すると金がもらえてこの世にないものが買える。その価値がわかるなら他の者には黙っておくか、謎の行商人から買ったと言っておくんだな」


「確かにこんな美味いワインがあると知れたら大騒ぎになるな」


「だろうな。人のところにいきたいが、なかなかいけない理由がこれだな。売ってくれと言われてもオレから離れたら十五日には消えてしまう。詐欺だと言われて捕まりたくはないわ」


 その町に二度と立ち寄らないならそれもいいが、ウワサが立ったらもう二度と町には寄れない。考えるだけでゾッとする。


「なかなか面倒だな」


「──持ってきた」


 ラダリオンがコップにお湯を注いで持ってきてくれた。


「しばらく消えるから体を洗え。終わった頃に戻ってくるから。ラダリオン、頼めるか?」


「……わかった」


 頷き一つしてセフティーホームへと入った。


 それから二十分。ラダリオンが呼びにきて外に出ると、ハンカチで体をくるんだミシニーがいた。あら、扇情的スレンダーだこと。


「まずは下着を買うか」


 地面にマットを敷き、二人くっつくようにカードの使い方を教える。


 カードはタブレットの劣化版で、操作性はすこぶる悪い。プログラマーが見たら激怒するんじゃないか?


 どこかの通販カタログでも真似たのか、上下左右指でスクロールしていき、目的のものを探していく。面倒で仕方がない。


 目的の下着を探し当て、女のサイズなど知らんのでスポーツブラのMサイズを選択した。合わないときはちょっとずつサイズを替えて買ってください。


 下着を買ったら身につけてもらう。もちろん、背は向けますよ。


「こうか?」


「あ、ああ。いいと思う」


 魔法使いではないけど、間近で見るとちょっと反応してしまう。ここは明鏡止水といこうじゃないか。


 心の中で欲情を殴り飛ばし、インナーや服──登山関係から選んで着させた。


「妙な服だが、着心地はいいな」


 現代の服を着るとモデルかと思うくらい似合ってるよな。美人補正か?


 リュックサックや旅の道具、食料はオレが選んでやり、一通りの扱い方を教えた。


「ワインはミシニーが選べな」


「ああ。しかし、凄いものばかりだな。どこで作られてるんだ?」


「どこか知らないところだろう。知る手段がないんだから考えるだけ無駄さ」


 知ったからと言って買いつけにいけるわけもないんだからよ。


「あとは使って覚えてくれ。まあ、目的のものを探したりどんな使い方をするかはわからんものが多いだろうがな」


「なに、ワインさえ買えたら問題ないさ」


 アルコール依存症にならないていどにな。


「これで説明は終わり。オレたちはいくよ」


「ああ。もし、コラウスにいくるならコレールの町にきてくれ。コレールの町にはわたしの仲間だったエルフが宿屋をやっている。話を通しておくからいってみるといい」


 コレールの町か。覚えておこう。


「ありがとう。冬になる前には目指してみるよ」


 コミュニケーション能力が退化する前に、な。


「ラダリオン。太陽が山に隠れる前に進むとしようか」


「わかった」


 と、また抱えられてしまった。


「またな、ミシニー」


「ああ、またな」


 それでオレたちは別れた。次、会うことを約束して。

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