第36話 虐殺か
朝。セフティーホーム時間で六時にオレは起きる。
疲れた日は寝坊することもあるが、元の世界にいる頃から六時起きなんです。
シャワーを軽く浴びて歯を磨き、一杯のコーヒーを飲んで今日の仕事に切り替えていく。
七時くらいにラダリオンが起き、もそもそとシャワーを浴びに向かった。
数分で出てきたラダリオンはテーブルにつき、出してあるペットボトルの水をいっきに飲む。なんか昔からの習慣なんだとか。人それぞれ、ってことだな。
「昨日言った通り、合流してミシニーを紹介するな」
「うん。わかった」
それからコ○ダな珈琲店のモーニングやサンド、サラダで朝食を摂り、食休みしてから用意を始めた。
「じゃあ、先にいくな」
外の様子を確認してから出発した。
すぐにゴブリンの気配は探るが、半径一キロ、いや、二キロ内に気配はなし。かなり遠くにミシニーの気配があった。
「一晩で随分と移動したな」
軽く十キロは離れている感じだ。エルフ、どんだけ高性能なんだよ?
「しかも、三十万円くらい増えてるし」
なぜかセフティーホーム内にいると金がカウントされず、時差で死んでも外に出ないとカウントされないんだよ。
「もしかして、ミシニーって高位冒険者なのか?」
ゴブリンに追われてたから考えも及ばなかったが、一晩で三十万円分も稼ぐとかベテランの粋に入ってないと無理だろう。仮にミシニーが冒険者として当たり前なら別の世界から強いヤツを拉致してこないわ。
「クソ。あんなのがいるのに普通の人間にやらせんなよ」
オレも一日で三十万円は稼いだことあるが、それは巣に隠れているゴブリンを手榴弾で吹き飛ばしたから。そして、この三十万円はミシニーが駆除した三割が入っただけ。もう何匹駆除したか考えるのがバカらしいわ。
「理不尽だな」
平等な世界などないって知る年齢ではあるが、納得できるほど人間はできてはいない。愚痴くらい言わないとやってらんねーよ。
「ハァ~。止め止め。オレは地道にがんばろう」
どうがんばってもミシニーの域には届かないんだから嫉妬するのもバカらしい。普通は普通なりにやっていくしかないんだからよ。
空ビンにロケット花火を入れて導火線に火をつける。
ミシニーの位置はわかるのに駆除員同士の位置はわからない。ほんと、雑な仕事しやがって。ブラック企業か!
二、三分毎にロケット花火を打ち上げ、三十分くらいでラダリオンがきてくれた。
「ラダリオン! とりあえずあっちだ!」
巨人なラダリオンと会話するのは大変である。そして、追いつくのが大変であった。
ラダリオンの身長は五メートル弱。仲間のうちでは小さいほうらしいが、元々大自然で生きてきた種族。山を歩くのもお手の物。素人に毛が生えたばかりのオレにはいじめでしかないよ!
「ラダリオン! ストップ! 待ってくれ!」
無理! もう無理! これ以上はついていけんわ! と、心の中で叫んでへたり込んだ。
「大丈夫?」
しゃがんだラダリオンが訊いてくるが、答えることもできない。息を止めたら死ぬ!
と、リュックサックをつかまれて持ち上げられ、まるで小型犬のように抱えられてしまった。
身長差を考えたら納得するが、男として考えたら納得できないものがあれこれと出てくる。が、ここはグッと堪えよう。背に腹は代えられない、だ。
二十分くらい進むと、ミシニーがオレに気がついたのか、こちらに向かい出した。
「ラダリオン。どこか休める場所を探してくれ」
あちらからきてくれるなら話せる場所を築いておこう。決してこの姿を見られたくないからではない。決して。
ラダリオン的によさげな場所を見つけ、ここをキャンプ地とする。夜にはセフティーホームに帰るけど。
いろいろ整えていると、ミシニーがやってきた。
「まさかタカトの相棒がマーダ族とはね」
ラダリオンに驚くミシニー。エルフと交流はあると言ってたが、ミシニーはお初だったようで驚いていた。
「相棒のラダリオンだ。ラダリオン。こっちが駆除請負員となったミシニーだ」
「よろしくな、ラダリオン」
「……よろしく……」
モジモジしながら言って、木々に隠れてしまうラダリオン。人見知りだったのか?
「しかし、一晩で相当倒したな。もう虐殺の域だぞ」
いや、オレも一晩で虐殺したけどさ。
「あのワインが飲みたくてつい、な。お陰でまた魔力がなくなったよ」
ついで虐殺するミシニー恐ろしや。敵対しないよう心がけよう。
「カード見せてくれるか?」
「ああ」
出されたカードを見ると、七十万円以上記載されていた。なんかもうどう計算したらいいのかわからんな……。
「まあ、まずは休め。腹が減ってるだろう。ワインもあるぞ」
「それは助かる。もらったものは食い尽くしてしまったんでな」
この世界のヤツらは皆大食漢なのか? 二日くらい持つ量だったのに。
ラダリオンのダンプポーチに入れたオードブルとコ○トコのロールパン、ワインを出してもらう。
「ちょっと崩れて潰れてしまったが、まあ、そこは許してくれ」
そこまで気が回りませんでした。すみません。
「なに、食えるなら問題ないさ」
と、真っ先にワインに手を伸ばすミシニー。空きっ腹にワインはキツくないか?
なんて心配は必要なく、ラダリオンに負けない胃でオードブルやロールパンを食べ出した。せっかくの美人が台無しだな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます