第39話 鳥害

 この周辺を縄張りにしていただろうオーグを駆逐してやると、平和な世界が訪れました、なんて日がきたらいいのにな~。


「ハァー。ゴブリンとは強かな生き物だよな」


 オーグがいなくなり、巨人のラダリオンが駆け回って標的に向けてバンバン弾を撃ってるのに、その間を縫ってエサ探しをしている。


 オレも重装備して山を駆け回り、ラダリオンから逃れたゴブリンを駆除しているが、駆除しても駆除しても集まってくるのだ。


「まっ、処理肉をバラ撒いてるから当然なんだがな」


 オレたちは今、ここで合宿をしている。


 ゴブリンを駆除しつつ重装備で山を駆け回り、体力強化、銃の技術向上。雨の日はセフティーホームでサンドバッグ打ちや筋トレを繰り返している。


「タカト。またオーグの臭いが流れてきたよ」


 その日の夕食時、ラダリオンがそんなことを報告してきた。


「またか。この山にオーグの好物でもあるのか?」


 なんか木の実はなっているが、なんか薄味な梨って感じで美味いものではなかった。ラダリオンたちも食べるものではないそうだ。


「たぶん、ゴニョを食べにくるんだと思う」


「ゴニョ?」


 ポニョの親戚か?


「花だよ。赤い花びらの」


「あー、そういや、いたるところに咲いてたな」


 植物に興味はない。背景の一部として赤い花が咲いてんな~ってくらいにしか思わなかったよ。


「美味いのか?」


「花は食べない。集まってくる鳥を食べる」


 なんでもラダリオンたちにココラと呼ばれる花の蜜を吸う鳥が空を覆うくらいの大群で飛んでくるらしい。なにそれ怖い!


「そのココラは美味いのか?」


「あたしたちは食べない。小さすぎて処理が面倒だから。でも、オーグは好きみたい。冷たい息を吐いて捕まえるって聞いた」


 なるほど。冷たい息で動きを鈍らせ、落ちたココラを集めて食う、って感じなんだろう。空を覆うくらいなんだ、集めるのも簡単だろうよ。


「ココラも集まりオーグも集まるってことか。立ち去ったほうがいいかな?」


 さて。どうしたらよいのやら。どんなもんかわからんから判断に悩むぜ。


「まだ判断できないが、空を覆うほどになるならラダリオンは少し離れたほうがいいかもな。ココラが覆う中に出るのも嫌だろう?」


「……うん。嫌」


 ちょっと想像して嫌な顔になった。


 オレもそんな中に出るのは嫌だが、別に対策すれば問題ない。


 次の日は山の頂上に向かい、単管パイプを買って組みあげ、鳥よけネットを二重にして張り巡らせた。


 数日かかって完成。周辺の木を倒して視界をよくしていると、銃声が遠くから連続で聞こえた。


 連続で五発。それは警戒を示す合図だ。


 今のラダリオンならオーグ五匹くらい余裕で倒せる。それで警戒の合図を出すわけじゃないからなにか違うものが現れたのだろう。


 鳥よけネット内に入り、セフティーホームへと戻ると、ラダリオンが先に戻っていた。


「タカト。ココラが現れた。太陽の光を遮るほどの数」


 空を覆うとは言ってたが、太陽の光を遮るとかどんだけだよ。ヒッチコック先生に謝れ!


「ラダリオンはどのくらい離れている?」


 正解ではないけど、メートルは教えてある。


「二千メートルは離れてると思う」


「太陽を遮るならもっと離れたほうがいいかもな。最低でも五千メートルは離れておけ。それでもココラがいるならもっと離れろ。双眼鏡を忘れるなよ」


「わかった」


 ココラが現れたときのことは決めてあるからラダリオンもすぐに頷いて外に出ていった。


 オレもベネリM4とたくさん買っておいた鳥撃ち用の弾を持って外に出た。


 先に出しておいたテーブルにショットガンや弾を並べ、焚き火を起こした。煙で近寄ってこないようにな。


 しばらくすると、ゴブリンの気配が遠ざかっていくのを感じた。


「ゴブリンも逃げるレベルか」


 そして、オーグは集まってくるレベル、ってか。


 遠くからなんか怪しい音が聞こえてくる。


 周囲を探ると、遠くから黒い塊がこちらへと向かってきていた。


「……蝗害ならぬ鳥害だな……」


 よくよく見たらゴニョはこの一帯に多く咲いており、群生地と言っても過言ではなかった。


「異世界怖いわ~」


 そんなところでゴブリンを駆除する困難さよ。この世界はどれだけオレのやる気を削ぐんだろうな。泣きたくなるよ……。


 不気味な黒い塊は数百メートルまで近づくと、手を広げるように周辺へ分散した。


 まさに太陽の光を遮るほどの数であった。


 オレは頂上におり、ゴニョは咲いてないが、溢れたココラが流れてきた。


 羽ばたく音とキーキーと言う鳴き声が凄まじい。鳥よけネット、二重では心ともなかったな。


「うげっ! 鳥のフンまで考えてなかった!」


 急いでセフティーホームに戻り、パラソルを買って戻った。


 テーブルにも爆撃されたが、斧を拭く用に出してたウエスで拭けば問題ない。まったく、鳥害は怖いわ。


「マスクしておいたほうがいいかもな」


 一応、装備の中に防毒マスクは入れておいてよかったよ。


 防毒マスクをつけてしばらく様子を見るが、なんだかどんどん集まってきている感じだ。


「これが何日も続くのかね?」


 まあ、無理して狩る必要もなし。数日様子を見て、少なくなったらショットガンの練習がてら狩るといいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る