第531話 勧誘
十六時過ぎくらいにオーグに襲われかけた隊商が到着した。
「オレらはゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの者だ。ここでゴブリン駆除を行っている」
まずこちらから名乗りを上げた。広場にきたら先客がいた。隊商としては警戒して当然だからな。
「ロッター商会の者だ。そちらのことは聞いている。よろしく頼む」
有名になっているのも説明が省けて助かるものだ。ギスギスした状態での野営はストレスが溜まるしな。
不必要な会話はせず、あちらはあちら。こちらはこちらで野営の準備を進めた。
三十分後、ロッター商会の後ろにいた隊商もやってきた。
お互いに名乗り、不必要に関わることはしない。ビシャたちを呼んで夕飯にする。
「メビたちの気配だ」
うっすらとメビたちの気配を感知。完全に暗くなる前にやってきた。ほんと、獣人ってスゲーよな。
それから二十分弱。街道沿いで待っていたら息を切らしたメビたちが現れた。いや、最後まで森の中を走ってくることないじゃん!
「ご苦労様。まずは休め」
タオルと水を取り寄せて皆に渡した。
「途中、オーグの群れを見たよ。なにか怯えていたけど、なにかしたの?」
「隊商が襲われそうになったから追い返した。たぶん、リーダー的なヤツを倒したから怖がってんだろう」
オレには判別できなかったが、群れが纏まってないのならリーダー的なのを殺しちゃったんだろうよ。
「まずは汗を流せ。広場の奥に風呂を用意したから。メビ。使い方を教えてやってくれ」
お父さん、クサーい! とか言わないだろう。てか、獣人女子に思春期ってあるのか? オレ、ラダリオンやミリエルから臭いとか言われたら軽く死ねるな。
なにはともあれメビにお任せ。暗い森の中に指先を向けてウォータージェットを放った。
「タカト?」
「あ、ゴブリンが隠れていたから脅しに撃ったまでさ」
人の食い物でも盗みにきたのだろう。広場周辺に何匹か集まっている。大事の前の小事。集まる前に追い払っておこう。
皆のところに戻り、夕飯を続ける。
メビたちも綺麗になって戻り、酔わないていどに酒を出してやった。
夜はオレとニャーダ族のマイスと言う男とで見張りに立った。
隊商でも冒険者らしき男たちが見張りに立ち、情報交換として缶コーヒーを渡した。
恐る恐るながら口にする。
「甘くて美味いな」
「それはよかった。広場の周りにゴブリンが三十匹くらいいる。食料を盗まれないよう注意してください」
脅したくらいでは逃げないゴブリン。こんなことじゃなければ根絶やしにしてやるのにな。
「さすがゴブリン殺しだ」
「オレを知っているんですか?」
「冒険者ギルドで見たよ。あの毒花を落としたと有名になっているぜ」
そっちで有名なんかい! あと、シエイラのあだ名は当たり前のように広まってんのかーい!
「落としたと言うか落とされた感じですね」
「まあ、あの女を相手できるあんたは勇者だよ。他の敗者は冒険者を辞めていったからな」
あいつはいったいなにをしてたんだか。男を食いすぎだろう。
「それは強く生きてくれとしか言いようがないな」
オレに責任はないが、同じ男として同情はするよ。
「コラウスでの魔物発生は増えているんですか? ゴブリン以上に増えているとオレは思うんですが」
「そうだな。増えてはいると思う。ただ、増える年もあれば減る年もあるからなんとも言えんな」
「なにか要因があって増えたり減ったりするわけか」
思いつくのは天候だが、去年は大雪だった。それで減るなら納得するが、増えるってのが謎だよ。
「あ、助けられた礼を言ってなかったな。救ってくれて感謝する」
見張りの男は四十は越えた冒険者だ。野卑な感じはしないが、よく見る冒険者だ。
「随分と義理堅いんですね」
「コラウスでいがみ合っている冒険者は早死にするよ。人の身で魔物に勝てるヤツなんて一握りだ。凡人は凡人同士、助け合いで生きていくしかないのさ」
なんだか達観した冒険者だ。だが、その考えは嫌いじゃない。
「もし、冒険者稼業に限界を感じたらゴブリン駆除ギルドにくるといい。歓迎しますよ」
「こんなくたびれた冒険者が役に立つのかい?」
「役に立つ場所を用意します。うちは人手不足。経験がある冒険者は貴重な人材ですよ」
見た目は四十を越えている感じだが、ここのヤツは老けて見える。三十半ばなら二十年は余裕で働いてくれそうだ。
「ふふ。無事帰ってこれたらお願いするよ。万年鉄印の冒険者じゃ先が見えているからな」
「ただ、冒険者に向いていなかっただけ。向いている仕事をしてもらいますよ」
この性格からして無能と言う感じはしない。きっと戦いが不向きなんだろう。適当な考察でしかないがよ。
「じゃあ、お互い無事に仕事をこなしましょう」
「ああ」
そう言って別れた。
夜中まで見張りに立ち、オレはエルフのライターと交代。マイスはマーダと交換した。
「ゴブリンが結構いる。忍び込んできたら殺さないていどに殴りつけて縛っておいてくれ」
ロープを取り寄せて渡し、オレはパイオニアの前席に横になって朝まで眠らせてもらった。ちなみに雷牙はホームに戻しました。
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