第530話 自信

 特になんともなかった。


 てか、巨人になれる指輪の容量ってどれほどだよ? 五十万キロカロリーって……どれほどのものだ? 百や千の世界しか知らねーから想像もできんわ。


「一日二粒推奨ってことは、巨人にならなくても二日目にも飲めるってことか? 薬は用法・用量を守って正しく使いましょう! って言葉を知らんのか?」


 ほんと、説明が大雑把なダメ女神だよ。


 中がありなら大もあるはず。一日二粒推奨なら大は一粒だよな? ってことは百万キロカロリーで満杯になる? いや、推奨だからそれ以上飲んでも命に別状はないか?


「空腹は消えたな」


 満腹になった感じはしないが、普通に食って一時間過ぎたくらいの感じかな? 


 もう一粒飲めば満杯になりそうな気がする。そうなれば百五十万キロカロリーが指輪の限界ってことか? 


 いや、巨人になれるまでの基礎カロリーがあるから二百万キロカロリーと見たほうがいいな。てか、巨人ってそんなに食っていたっけ? 以前はパンとスープ、蒸かした芋を食っていた記憶があるんだが……。


「まあ、それはあとでいっか」


 巨人になっての戦闘は五分もあれば大抵の敵は蹂躙できる。グロゴールみたいなのが現れたら即撤退だよ。


「ミサロ。外に出るな」 


 栄養食瓶をテーブルに置いた。


「ええ、気をつけてね」


 料理の手を止め、見送ってくれるミサロ。ありがたい気配りだよ。


 外に出ると、ちょうど一匹から魔石を取り出したところだった。


 渡された野球のボールくらいの赤い魔石。これはジュリアンヌの店にでも売るとするか。付き合いとかあるしな。


「冷たい息を吐くのに氷属性ではないんだな」


 赤い魔石は熱の魔石。どうなってんだ?


 オレも魔石取り出しに混ざり、十分くらいで終わらせた。


「少し休憩しようか」


 魔石を取り出すのも一苦労。うっすらと汗が出てきているよ。


「オーグってよくいる魔物なのか?」


「そう多くはないですが、縄張りを作るとすぐ増えるとは言われてますね」


 つまり、群れられると厄介ってことか。いや、どんな魔物も群れられたら厄介でしかないか。


「八匹もいるとなると群れを作ったかもしれませんね。多いと三十匹まで増えたって話を聞いたことがあります」


 あれが三十匹か。そりゃ地獄だな。


「館に帰ったら冒険者ギルドに報告してもらうか」


 ゴブリン以外は冒険者ギルドに任せる──って言って、やる羽目になるパターンが多いオレのゴブリン駆除人生よ。


「よし。いくぞ」


 仕返しにくる前にさっさと立ち去るとしよう。目的は果たしたんだからな。


 用意が整い次第飛び立った。


 まずは街道のほうに飛ぶと、隊商の列はいなくなっており、一キロ以上先に移動していた。


 これから峠に入るし、仕方がない移動距離か。この世界の流通は大変だ。


 この調子なら隊商が詰まることもないだろうと、峠を越えた広場に向かった。


 空を飛ぶと、どんな高い山でも一瞬である。車でも峠を越えるのに三、四十分はかかるのに、五分くらいで飛び越えてしまったよ。マナックの消費を考えたらなんとも言えんがな。


 広場が見えてきて、ビシャの気配とプランデットの信号を捉えた。


 ゆっくり降りていき、大きく手を振るビシャを囲むように着陸した。


「結構早かったね?」


「ああ。三匹倒したら逃げ出してしまったよ」


「オーグは強気でくるけど、リーダーを倒すとすぐ逃げちゃうってとーちゃんから聞いたことあるよ」


「マーダなら単独でオーグを倒せそうだな」


 身体能力はアルズライズより上っぽい。冒険者なら金印でも不思議じゃないだろうよ。


「とーちゃん、ロースランを倒したこともあるよ」


「装備を揃えたら単独で山黒でも倒せそうだな」


 ラットスタットコレダーができたら瞬殺できそうだな。またマルチシールドが出たらマーダに渡そうっと。


「よし。ビシャがリーダーになってこの一帯の枝や雑木を払え。オレと雷牙は広場のほうをやるから」


 馬車をこちらに移し、死体を埋めなくちゃならない。目撃者を出さないためにもそれなりの広さが必要なのだ。


「了解!」


 エルフたちにも頼むと声をかけ、草木をマチェットで払いながら広場のほうに向かった。

 

 広場には誰もおらず静かなもの。峠を越えようとする隊商がくるまで約四時間くらいか。


「雷牙。オレが作業している間、見張りを頼む。誰かきたら教えてくれ。もし、魔物が現れたら倒せ」


 ガチャで当たった手甲を取り寄せ、雷牙の左腕につけてやった。


「これは、雷牙専用の武器だ。見張りながら使い方を覚えろ」


 使用者の意思で手甲の甲の部分が蠢き、くの字型のブーメランになる。放ったブーメランは戻れと念じれば戻ってくる仕様だ。


 十五分くらい練習に付き合ってやり、雷牙が手甲の仕組みを理解したらあとは任せた。


「練習に夢中になって見張りを忘れるなよ」


「わかった! 任せて!」


 まあ、プランデットをしているのだから見張りなんていらないんだがな。雷牙の自信を育てるには任せるのも必要なこと。現れそうになったら声をかけてやるとしよう。


 ブーメランを投げる雷牙を少し眺めてからホームに入った。

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