第529話 栄養剤

 十四時くらいに準備が整い、オレ、雷牙、ビシャ、エルフ三人が第二陣として出発する。


「街道沿いに飛ぶぞ!」


 プランデットを通じて連絡する。


 もう春ではあり、隊商が活発に往来する時期でもある。ミヒャル商会以外の隊商に被害を及ぼすわけにはいかない。判別できるよう記録しておかねばならない。それは、イチゴのほうでもやらせている。てか、プランデットがチートすぎる。


 ……まあ、チートみたいな技術があっても滅びるんだから力に溺れるなのいい教訓だな……。


 街道の上空にくると、馬車六台を連ねる隊商が見え、さらにその先に七台の馬車が列なっていた。


 夏になると雨の日が多い。その前にコラウスを発とうと言うのだろうか? ミヒャル商会はいい時期に逃げ出しやがる。


「タカト! あそこ!」


 ビシャが横を通りすぎ、左下を指差した。


 プランデットを熱源反応に切り替えてそちらを見る。この熱量から予想されたのはオーグ(二足歩行の熊ね)だった。


 そのオーグが八匹。隊商へ向けて進撃しているのがよくわかった。


「どこにでも魔物がいる世界だ」


 これでゴブリンを食ってくれる魔物なら大歓迎なんだがな。ったく、神はどんだけ世界創造が下手なんだよ!


 人道的に助けるべきなんだが、隊商には冒険者が護衛としてついているっぽい。年齢も三十前後。それなりのベテラン勢だろう。なら、なんとかできるだろうよ。


 よき人でありたいと思うが、オレの能力ではすべてのことによき人ではいられないし、そんな強い信念でもない。状況状況で変わるくらいのものだ。それが悪いと言うならあなたはどんなときもよい人であってくれ。こんなオレを許せる人であってくれ、だ。


 ──いやちょっと待て!


 オーグの襲撃で道が塞がれたり、引き返されたらダメじゃないか? 仮にそうならないにしても隊商が渋滞する。そうなれば襲撃が面倒になる。ここはスムーズに流れてもらわなくちゃならんだろう!


「雷牙! オレにしっかりつかまっていろよ!」


「わかった!」


「ビシャ! 隊商にオーグがいることを伝えて先を急がせろ!」


「了解!」


 ブラックリンを旋回。オーグの群れに向かって飛んだ。


 プランデットにオーグをレッドマーク登録。ブラックリンを自動操縦。そして、飛び降りた。


 巨人になる指輪を使って巨人化。オーグの前に着地した。


 オーグは約三メートル。こちらは八メートル以上あり、装備も充実している。言い方は悪いが、枝を握った幼稚園児を相手にするようなもの。グロックを抜いて弾を装填。オーグに向けて引き金を引いた。


 拳銃の腕前はあまりよくないが、人間のときに撃つより反動を押さえられている。やはり巨人の肉体ってスゲーよ!


 大体四倍となった一発三十円の9㎜弾。一発かすっただけで致命傷になっていた。


 だが、それでも絶命しないのがこの世界の魔物と言う生き物。そして、十七発で致命傷にできたのは三匹だけ。魔法の練習より銃の練習を多目にしようっと。


 走りながらグロックをホルスターに戻し、まず致命傷を与えたオーグに飛び蹴り。右腕のマルチシールドを突させて止めを刺す。


 さらに三匹目も左腕のマルチシールドを突。致命傷の三匹を確実に殺してやった。


 さすがのオーグも自分より背の高い存在が現れ、あっと言う間に仲間を三匹も殺された。獣だからこそ勝てない相手だと一瞬に悟り、握っていたこん棒を捨てて逃げ出してしまった。


 すぐにグロックを抜いてマガジン交換。一応狙うが、威嚇のために全弾を撃ってやった。


 と、空腹が襲ってきて、オーグは追わず元に戻った。


 体感として二分くらいだが、やはり戦闘になると消費が激しいな。てか、これ、チートタイムより劣ってないか?


 いや、命を削るチートタイムより食えば巨人になれるほうがまだマシか。


 大容量の焼酎を取り寄せ、いっきに飲み干した。もっとカロリーのある酒を用意しておかないとな。


「……タカト……」


 あ、雷牙がいたんだっけ。巨人になったところから完全に忘れていたよ。


「マスター!」

 

 エルフたちも降りてきた。


「悪いが、魔石を取り出してくれ」


 魔力は減った感じはしないので、オーグの血を抜いてやった。


「雷牙。オレは少しホームに入るから皆を守ってくれ」


 さすがに焼酎を飲みすぎると雷牙が臭がるし、またミサロに怒られてしまう。超デカ盛り料理を食ってくるとしよう。


「わかった! 任せて!」


 頼むなと雷牙の頭を撫でてホームに入った。


「あ、タカトさん。ちょうどよかった」


 玄関に現れるなりミリエルが目の前にいた。外に出るところだったか。


「どうかしたか?」


「はい。ガチャで雷牙専用の武器と栄養食が出ました。ミサロに聞いてください。わたしは出ますね」


 と言うのでミリエルを見送り、中央ルームに向かった。


「ミサロ。雷牙の専用武器と栄養剤が出たんだって?」


 なにか甘い匂いがするものを作っていたミサロに尋ねた。


「テーブルの上にあるわ」


 と、テーブルに目を移したら手甲らしきものと、回復薬の瓶みたいなものが上がっていた。


 タブレットもあるので情報を開いて読んでみる。ガチャの情報は当てた者にインプットされるが、ガチャのアプリから情報を見ることもできるのだ。


 手甲はマルチブーメランになり、投げても戻ってくるそうだ。で、栄養食の瓶の中は一粒五十万カロリーに匹敵する栄養が詰まっているそうだ。あと、注意として一日二粒推奨。巨人になれる指輪をしてないときに飲むと死ぬそーだ。


「毒か」


 一応、突っ込んでから一粒を飲んでみた。

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